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5月2日、バス停「粕金三丁目」



『5月2日、バス停「粕金三丁目(かすがねさんちょうめ)」』



 夕暮れ時、八雲は川野辺家最寄りのバス停に立っていた。光瑠やまなびの姿はない。


 あれから川野辺母が腕を振るった昼食を挟んで、五人は再びみなぎの自室へと集合した。初心者である八雲と光瑠には実力アップのために基礎トレーニング法が伝授され、後の時間は修練に費やされることとなった。高性能トレーニング装置・ブンブン一号を交代で使いまわし、待ち時間には基礎トレーニングをこなす、というサイクルで初心者二人の実力促成は進められていった。残る三人はというと、現状戦力でどう戦うかの作戦をずっと話し込んでいた。

 そして夕刻を迎え、一同解散と相成って今にいたる。


「来ないなー……」

 誰に言うでもなく、八雲はつぶやいた。

 学校からこのバス停に向かう路線は八雲が通学に使っているものと同じ方向で、ここから自宅までの距離はそれほど離れていない。帰宅のために必ずしもバスを利用する必要はないのだが、それでも八雲は次の便が来るのを待っていた。

 バス停に書かれた時刻表によると、まだ10分ほどの時間がある。

「来てくれない、かな」

 バスが、ではない。バスはおそらく時刻表どおりの10分後にやってくるだろう。わざわざバスを待つのは、誰かが追いかけてくるかもしれないと期待しているからだ。

 もっと話をしたい人が、追いかけてきてくれるかもしれないと、八雲は待ち望んでいた。


 夕日に照らされる八雲は歩道の上、生垣の植わっている民家を背にして立っている。手入れが足りないのか、ところどころ枝が飛び出して根本にも隙間が空いている垣根だ。

 今、枝のあいだの影に金色の目が光り、じっと彼の姿を背後から見つめている。その視線に全く気付かない八雲は、夕暮れの日の光でまぶしそうに目を細めていた。

――瞬間、ざっ、と枝葉の乱れる音と共に小さな影が生垣から飛び出し、鋭い爪がむき出しになって、八雲の首へと一瞬で伸びた。

「ちぃ……、防いだか。やるではないか小僧」

 間一髪、というタイミングで八雲が身に引き寄せたカバンは主人の身代わりとなって傷を負った。無惨な三本線がナイロン製の布地に刻まれている。

「ええええええ!ち、ちょっと!?カバン裂けてる!こ、これマジな殺意じゃないですか!?」

 八雲が声を向ける先、地面に音もなく足をつけ、一合の間合いでこちらを見る小さな影があった。茶色い毛並みがトラ模様を描き、額に走る縦じまが眉間のシワに見える猫、八雲はその名を口にした。

「どんさん、いや、川野辺旋風さん!お、お、落ち着いてください!!」

 猫の耳がピクリと動いて、その体に力がこもる。

「……ワシの名前まで聞き出したか。ずいぶん孫と仲良くしてくれたようじゃのう!?」

「ふ、不可抗力です!香織さんはあなたの正体に気づいてないし、僕も言う気はありません!」

「…………ほんとうじゃな?」

「ち、誓ってほんとです」

 金色の視線が八雲に突き刺さり、その体を空間に縫い止める。八雲の背を冷や汗が伝う。身じろぎもせずに五秒間。たっぷりと睨みを効かせた後、どんは体から力を抜いた。


「ふん、まあよいわ。それよりも貴様、ワシが来るのを待っていたな……?来るとわかっていなければ、貴様の反射神経で一撃を防ぐなどできんはずじゃ」

 どんが指摘する通り、八雲はこの猫が現れるのを待っていた。

 マタタビの効果で八雲の手にメロメロになっていたどんは、それから数分後に自我を取り戻して、変な叫び声と共に部屋を飛び出していった。以降、まったく姿を見せなかったのだ。

 もっともっと聞きたいことが、話したいことがたくさんあった。なぜなら――

「ご明察です……さすがは、伝説の”人間殺虫剤”」

 八雲が口にしたかつての二つ名に、どんは激しく反応した。

「な、な、なんじゃ!?その呼び方、知っとるのか!」

「もちろんです!」

「あー、あれ?もしかしてワシの動画見てくれてる感じ?」

「大ファンです!」

「ふ、ふーん。まあね?ワシも一時期それなりに人気あったって感じだし?」

「“それなり”じゃないです!何回も、何回も、繰り返して見ました。今のABAを作ったのは間違いなくあなたです!」

「うむなかなか見どころのある子じゃ」

 勢いのある褒め言葉に、それまで険しい顔をしていたどんはあっさりと態度をひるがえした。猫がニヤつく、というのは普通見られないが、どうやら可能らしい。

 それから立て続けに“開祖”、“最強”、“天下一”、など思いつく限りの言葉でおだて上げていく八雲であったが、それは目的あってのことだった。もちろんこれらは心にもない言葉ではなく、すべて本心ではあったのだが。


「そんなに褒められると照れてしまうのう。死んだ後にもこんなファンがいてくれるとは……はっはっは」

 八雲の煽り上げに気をよくしたどんは鼻をひくひくとしながら頷いている。それを機とみた八雲は本題を切り出した。

「……あ、あの……不躾なんですが、折り入ってお願いがあります」

「なんじゃな?いうてみんさい」

 川野辺家で練習をするあいだ、ずっと頭にあったことを口にした。

「僕に、ABAを、教えてください!」


 どうも、狩りゲー大好き裸地栄太です。

 某MHが発売してしまいまして「これはやばいなー」と思ってたんですけど、案の定でしたね。ごめんなさい。

 なんとか一回休みぐらいで抑えたので許して。

 差しあたってHR7まであげたので今後はペースを戻せると思います。

 またおこしくださいませー。

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