第701話 「精霊への感謝」
タトラ村大空亭、ルウ達の宿泊している部屋ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
起床したミンミが、村の異変を感じて直ぐ外へ様子を見に行き、結果頑丈な岩壁と青々とした農地を目の当たりにして不貞腐れているのだ。
同じ境遇のカサンドラもミンミから話を聞き、同様の状態である。
「ぶうぶう!」
「ぶうぶう!」
ミンミとカサンドラは思い切り、じと目でルウを見ている。
頬は思い切り膨らみ、口も尖っていた。
いわゆる不満たらたらという奴だ。
不機嫌そうな2人を見ても、ルウは何処吹く風である。
「お早う! あれっ? どうした? 2人ともぶうぶう言って機嫌が悪そうだな」
ルウの軽口を聞いたミンミが食ってかかる。
「そりゃ、ぶうぶうも言いますよっ! 私達2人を置いてきぼりにしてっ!」
「ミンミさんの言う通りです。いくら何でも酷いですっ、ルウ様!」
ミンミに続いて、カサンドラも追随する。
昨日は初対面のせいもあって微妙な雰囲気の2人であったが、今朝は同じ『被害者』という事で共同戦線を張って完全に意気投合していた。
しかも2人ともそれに気づいていないのはご愛嬌だ。
そのような中、頃合と見たのであろうか、ルウが両手を合わせて謝罪する。
「御免よ! だがなぁ、昼間の疲れでぐっすり眠っているお前達を無理矢理起こすなんて出来なかったよ」
「「でも!」」
ルウの労りの言葉を聞いて、意地悪をしているのではないと分かったミンミとカサンドラではあったが、まだ納得しないようだ。
2人とも言葉を返して食い下がったのである。
しかし!
ここでルウから、さりげなく変化球が投じられた。
「ミンミ……お前の寝顔凄く可愛かったぞ」
「あうううう……ず、ずるいっ、ルウ様」
可愛いと言われてミンミは頬を赤く染めて俯いてしまう。
こうなるとカサンドラも黙ってはいない。
「ルウ様っ! 私はっ!? 私の寝顔はっ!?」
「ああ、当然カサンドラ先生も……あどけなくてとても可愛かったぞ!」
「あううううっ!」
期待していた言葉を大好きな人に掛けられて、カサンドラもミンミ同様真っ赤になってしまう。
「ね……姉さん……貴女って……キャラ……今迄とあまりにも違うわよ」
まるで熟したトマトのように、赤くなってしまった姉を見て、ルネは思わず「はぁ」と溜息を吐いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「腹が減ったな! さあ、朝飯に行こう!」
ルウの大きな声が響く。
「もうっ!」
ミンミは思わずルウに抱きついて胸を軽く叩いた。
彼女の機嫌は完全に直っている。
ミンミはふと思う。
手練れの冒険者である筈の自分が、何故あのように疲れて爆睡してしまったのかと?
少し考えると、その原因は直ぐに分かった。
久々に大暴れした事は勿論、愛するルウの目の前で自分の長所をアピールしようとして、張り切り過ぎたのが最大の理由だと。
ミンミが自分の好敵手と決めたフランシスカの精霊魔法、そして新たに後輩となったカサンドラへの教育的指導も結構な刺激=負担になったらしい。
だが昨夜ぐっすりと眠ったせいで、身体が軽い!
少し力を入れると身体に魔力が満ちているのが、はっきりと分かるのだ。
この調子なら、今日は昨日以上のベストパフォーマンスを見せられそうな予感もするのである。
これってもしかしてルウ様の深謀遠慮?
私の為に!?
「えへへ……」
ミンミはルウの意図に漸く気付くと、照れ笑いした。
そして何事も無かったかのようにすまし顔でルウから離れた、その時である。
ミンミは自分に対して真っ直ぐな視線が注がれるのを感じたのだ。
彼女をじっと見詰めていたのは……カサンドラであった。
「あ!?」
思わず声をあげたミンミであったが、カサンドラはぺこりとお辞儀をして、にっこりと微笑んだ。
ミンミもルウほどではないが、魔力波読みの達人である。
カサンドラの魔力波から、彼女のお辞儀が決して嘘偽りや悪意から来たものでは無い事を理解したのだ。
宜しくお願いします!
先輩!
先程のルウとのやりとりで2人の間には確りと絆が出来ていたのである。
こうなればミンミも可愛い後輩をがっちりと受け止めるのは、やぶさかではない。
「OK!」
ミンミは大きな声で応えると、親指を立てて突き出した。
カサンドラも同じ様に親指を立てて突き出す。
クラン星の絆がより強固になった瞬間であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お~い! ジェマさん! 朝御飯頼むよ! あれ?」
ここは大空亭1階の食堂である。
階下へ降りたルウ達が席に着いて、この宿屋の女将を呼んだのだ。
しかし村長のゼタと連れ立って現れたジェマの表情は喜びに満ち溢れていたのである。
「これはこれは、我がタトラ村の救世主様達ではないですかぁ!」
「救世主? 何の事だい?」
ルウが首を傾げると、今度はゼタが嬉しそうに問い掛ける。
「またまたお惚けになって! 外の『あれ』は皆さんの魔法でしょう?」
「外のあれ? いや、知らないなぁ……」
「知らない?」
ルウが惚けているので、フラン達も何か理由があると察したのだろう。
全員が黙って微笑んでいたのである。
そこへルウが飄々とした雰囲気で言葉を発した。
「そういえば、創世神様に祈っていたら聖なる土の精霊の気配がしたような気がするぞ」
「創世神様にお祈りをしたら!? 聖なる土の精霊様の気配を感じられたのですか!?」
ルウの言葉を聞いたゼタは大きく目を見開いた。
確かに今回、村へ与えられた『奇跡』は土の精霊の加護と言われれば全て納得する事象である。
それに門番のラリーに一応確認したところ、ルウ達は村の外へ出て行くのを見かけていないと証言しているのだ。
「ああ! 確か、土の上級精霊アマイモン様と娘のヴィヴィ様の気配がしたぞ! とても神々しい気配が、さ……だから村民一丸で感謝の気持ちを持って、厳かに祈ってやってくれよ」
ルウはそう言うと、ゼタ達に見えないようにクランメンバーへ片目を瞑ったのであった。
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