表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
700/1391

第700話 「未来への朝」

皆様のお陰で700話に到達出来ました!


 翌朝(7月31日)……


 一番鶏が鳴き、村民達は重苦しい朝を迎えた。

 天気は相変わらず良いが、全員気持ちは沈んでいる。

 オークの襲撃により村の資産の大部分を失ってしまったのだから無理もなかった。

 しかし荒らされた農地をこのまま放置しておくわけにはいかない。

 オークを退治してくれた冒険者達が、魔法で死体を片付け、大地を浄化してくれたので再び作物を植えられるようには、なったのだ。

 村民一丸となって落ち込んだ気力を振り絞り、また一からやり直すしかない。


 中年の農夫らしい男が元気なく俯いて、のろのろと村の中を歩いている。

 彼はこれから自分の担当する農地に向かうのであろう。

 重く動かない足を無理矢理、交互に出して何とか歩いているという雰囲気だ。


 農夫の男が暫く歩くと、村の正門に見覚えのある男の後姿が見えて来た。

 いつも門を守っているラリーが固まったように立ち尽くしているのである。


「あ、ああ、ラリー……お早う……」


 農夫の男に名前を呼ばれた門番のラリーは、前方を見て慌てふためいていた。

 男の呼び掛けが全く耳に入っていないようだ。


 背後に近寄る農夫の気配をやっと感じたラリーが慌てて振り返る。


「おお、おいっ! たたた、大変だぁっ!」


 大声を出したラリーであったが、農夫の気配に気付いて吃驚したという感じではない。

 挨拶をしたのに無視されたと思った農夫は渋い表情だ。


「何だよ、ラリー。 いつも冷静なお前が何を慌てているんだ?」


「みみみ、見ろっ、そ、外をっ!」


 ラリーはいつも確りと自分が守っている村の正門を指差した。

 何と門は大きく開け放たれている。


「何だ? 門が閉まってないじゃあないかっ! こらっ、ラリー、無用心だぞっ!」


 虫の居所が悪かったのも加わって激しく非難する農夫の男。

 怒るに農夫に対して、ラリーは激しく手を左右に振った。


「ち、違う! よく見ろよ! もう、こ、ここは村の正門じゃあなくなったんだ!」


「はあっ!? お前何を言っている? えええっ!? な、何だぁっ! こりゃっ!?」


 ラリーが指す方角を見た農夫は、呆気に取られて動かなくなってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここは大空亭の隣にあるタトラ村村長ゼタの自宅である。

 

 一番鶏が鳴いたので、いつもの習慣通りゼタはもう起床しなければならなかった。

 タトラ村は貧しい村である。

 他の大きな村の村長のように村の運営だけやっていれば良いというわけではない。

 村長といえども、自ら生活の糧を得る為に朝一番から働かなくてはいけないのだ。

 

 しかし村のこれからの未来を考えると明るい材料が全く無く、元気よく起き出す気持ちになれない。

 大空亭の女将ジェマが血相を変えて飛び込んで来たのは、ゼタの目が覚めて数分後の事であった。


「そそそ、村長~っつ!!!」


 いつもは冷静なジェマが挨拶もしないで、いきなり家に入って来るのは初めての事である。

 ゼタは寝起きの悪さもあり、眉間に皺を寄せて不機嫌そうに返事をした。


「こんな朝から一体どうしたの? 貴女らしくないわ、ジェマ」


 ゼタの問い掛けに対しても、ジェマはふるふると首を横に振った。

 どうやら、なりふり構っていられないらしい。


「そそそ、そんな事は、この際どうでも良いのですっ! 早くっ! 早くっ!」


 ジェマはそう言うと、まだベッドの中で愚図愚図していたゼタの手をはっしと掴んだのだ。


「痛い! 痛いっ! 無理矢理、手を引っ張らないでっ!」


 ちなみにジェマは結構な力持ちである。

 日々の宿屋稼業で並みの女性より遥かに鍛えられているのだ。


「いいからっ!」


 ジェマは寝巻きを着たままのゼタを強引に引っ張って、外へ連れ出したのである。


 ――10分後

 

 2人の女は村の正門を出て、一変した光景に息を呑んでいた。

 降り注ぐ朝の太陽の光の中にあったもの……

 それは一面に敷き詰められた緑の絨毯である。


「えええっ!? こ、これはっ!」


 村の農地が……

 荒らされて無残に掘り返された筈の農地が……

 

 驚きのあまり、口をポカンと開けたままのゼタの肩を掴んでジェマが揺すぶった。


「ねえっ!? そうでしょうっ!」


 もう1回同意を求めるジェマに対して、ゼタは大きく目を見開いて頷いた。

 彼女は茂っている葉の形を見て何か気付いたようだ。


「ジェマ! こここ、これって昨夜食べた!?」


 村長の言う通りだとジェマも大きく頷いた。


「そうですよぉ! ジャガイモとカブですっ!」


 言われなくても分かっている!

 今度はゼタが思い切りジェマの肩を掴み、揺すぶった。


「それがっ! ここ一面に何故生えているのっ!?」


「わわわ、分かりませんよっ! 神様じゃあないのだからっ! 私に聞いたって分かるわけないでしょう?」


 肩を摑まれた痛さに耐えるジェマの叫びを聞いたゼタは、直ぐ納得したようである。


「確かに! うん!」


 ぽんっと手を叩くゼタを、ジェマは口を尖らせ恨めしげに見た。


「村長!!! それ! 納得し過ぎですよぉ!」


 しかし!


 もうゼタはジェマの言葉など聞いてはいない。

 いきなり出現したのは一面の畑だけではなかった。

 畑の先に、ゼタの身長の倍近くある分厚い岩壁が左右に広がっていたのである。

 そして……新たに造られた正門らしきものも……

 

「それに何!? この矢鱈に頑丈そうな門と岩壁はっ!」


 門へ近付いたゼタ達に大きな声が降って来た。 


「お~いっ! 高い所から失礼しますよ、村長っ! 今日から俺も職場がここになりました!」


 待ってましたとばかりに声を掛けて来たのは先程驚愕していた門番のラリーである。

 彼は何と岩製の高見やぐらに陣取っていたのだ。

 農夫の男とやりとりしてから、自分の職場となる場所を探索し、把握したらしい。


「え!? 貴方、ラリー?」


 ゼタが声を掛けたが、ラリーはこころの底から嬉しそうな表情を浮べて、一方的に喋りまくる。


「ああ、村長っ! ラリーですよっ! それより、これ見てくれよぉ! このやぐらがあるから直ぐ敵を発見出来るし、こちらから敵へ矢も射掛けられるぜっ!」


「あ、あああ……」


 次にラリーは閉じられた『正門』を指差した。


「こっちも凄いぜぇ! こんなに分厚い頑丈な樫の門だよおっ! こうなると俺も仕事のやりがいがあるよおっ! あはは、それに日除けもあるから涼しいし、傍に井戸まであってよぉ、喉が渇いたら冷たい水も飲めるんだぜ。よおし! 俺はこれからも気合入れて村を守るぜっ!」


 至れり尽くせりの設備に、今迄は苛酷な労働環境で働いて来たラリーはいっぺんで気に入ったようだ。


 奇跡が……奇跡が起きた!

 これで食糧と守りの心配は解消した。

 村は……完全に救われたのだ!


「村長っ!」


「ジェマっ!」


 2人の女はいつの間にか手を取り合い、奇跡が起きたのを確り目に焼き付けようと、その場に立ち尽くしていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

まだまだ続きますので今後とも宜しくお願い致します! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ