表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
702/1391

第702話 「ミンミの重大発表」

 ルウ達はクランメンバー全員で朝食を摂っていた。

 大空亭の食事は今回のような危機的状況がなくても基本的に質素である。


 今朝出されたメニューも、黒い色をしたカチカチの固いパンと、野菜と何かの端肉を一緒にして、ドロドロになるまで煮込んだおじや(・・・)のようなスープのセットのみだ。

 いつもブランデル家で出されるような美味しい卵料理や新鮮な野菜を使ったサラダなどは皆無である。

 ルウ、モーラル、そして冒険者生活に慣れたミンミは問題が無かったが、フランとボワデフル姉妹にとってこのように貧しい食事は初体験であった。

 ここでまたミンミの教育が為されたのである。

 

 カサンドラがパンをどのように食べたらよいか、躊躇とまどっていた。

 ミンミは直ぐ気付いて、声を掛ける。


「カサンドラ!」


「え?」


「こうさ!」


 ミンミはパンを千切って、スープに暫く浸した。

 そしてスープを吸って柔らかくなったパンを口の中に放り込んだのである。


「な、成る程! ありがとう、先輩!」


 カサンドラは直ぐミンミの真似をしてパンを浸し、柔らかくなった所で頬張った。


「おお、美味い!」


 カサンドラのやり方を見たフランとルネも含めてクラン全員が同じ様にして食べ始める。

 全員が食べ終わった所で、ジュリアがお茶を持って来た。

 お茶が配られ、一服した所でルウがミンミへ何か囁く。

 何か『発表』があるらしい。


 まず口を開いたのはルウである。


「ミンミの事だが……職場が変わる事となった」


 職場が変わる?

 まさか転職?

 冒険者ギルド総本部のサブマスターを捨てる価値がある仕事なのだろうか?


 ルウを除いた全ての人間の視線が集まった。


「ミンミ……」


 ルウが促すとミンミが全員を見回した。


「はいっ! 大事な話ですので全員聞いて下さいますか。私ミンミ・アウティオはこの度、冒険者ギルド総本部より辞令が下りて、王都セントヘレナの冒険者ギルドギルドマスターへ就任する事が決定しました。クランステッラが依頼を完遂して、セントヘレナへ帰還する際に同行させて頂きますから、宜しくお願いします」


 へぇ!という表情で聞くフランとモーラル。

 そして吃驚したのはボワデフル姉妹である。

 改めて自分達とクランを組んでいるミンミが冒険者ギルドにおける上級幹部である事を再認識したからだ。


「それとプライベートな事だが、セントヘレナへ移住するミンミは俺の妻になりたいと希望した。俺も大いに歓迎したい。フラン、モーラル、これからミンミも新たな家族となるが、改めて宜しく頼むぞ」


 結婚の発表に関しては、フラン達にさして驚いた様子はない。

 ミンミのルウに対する思いは真っ直ぐであり、誰もが疑う余地がないものであったから。

 ただ、ボワデフル姉妹がとても羨ましそうな表情になったのは仕方の無い事ではある。


「昇格に結婚ね! おめでとう! そして今後とも宜しくね、ミンミさん!」と、フラン。


「宜しく、ミンミ殿! じゃなかった! ミンミ姉!」と、モーラル。


「ダブルで目出度いな! おめでとう、先輩!」と、カサンドラ。


「おめでとうございます! クランの仲間としても今後仲良くして下さい。宜しくお願いします!」と、ルネ。


「あ、ありがとう!」


 全員から祝福されてミンミは頬を真っ赤に染めてしまい、こころの底から嬉しそうな表情をする。

 そしてミンミはルウの方へ向き直った。


「ルウ様! このような不束者ふつつかものですが、宜しくお願いします」


 真面目な表情で頭を下げるミンミ。


「ああ、こちらこそ! 宜しくな、ミンミ」


「ああ、やっぱり良いなぁ!」


 見詰め合う2人に、突然ジュリアが割って入った。

 宿屋の女将の姪である、この可憐な少女は『素敵な彼氏』に巡り会う事に憧れているらしい。

 怒りに頬を膨らませるミンミを尻目にジュリアは自分のペースで会話を進めて行く。


「羨ましい! やっぱりお兄さん、恰好良いよ。ああ、そうだ! 朝御飯美味しかった? それに昨夜の料理も私が結構作ったんだよ」


 ジュリアは胸を張って家事スキルが抜群なのを主張する。

 自分と結婚すれば、良妻になる事がお約束だと言いたいのであろう。

 ルウはミンミに目配せして怒りを鎮めるように合図をすると、ジュリアの言葉に答えてやった。


「ははっ、昨夜も今朝も美味かったぞ!」


「うふふ、普段はもっと美味しいものを食べているだろうに……こんな粗末な食事を凄く美味しそうに食べてくれて、やっぱりお兄さんって優しいよ!」


「ああ、食材に関係なく作ってくれる人の真心で、料理の本当の味は決まるからな」


 ルウの言葉を聞いたジュリアは嬉しくて思わずじんと来たらしく、胸をそっと押えている。


「うわあっ! 本当に嬉しい事ばかり言ってくれるね、お兄さん。ようし決めたっ! やっぱり私を彼女にしてっ!」


 ジュリアのアプローチが更にエスカレートし、彼女が大きな声を張り上げた瞬間であった。

 厨房の奥から聞き慣れた女将ジェマの声が聞こえて来たのである。


「こらぁ、ジュリア! 何、お客様にずっと油売っているんだい! 仕事しな、仕事!」


「はぁ~い!」


 ジュリアは厨房の奥に目を向けると、ルウに振り返った。

 そして大袈裟に肩を竦めると、両手を合わせたのである。


「うふふ、今のはさすがに冗談だけど、お兄さんへ頼みがあるの」


「ほう、何だい?」


「私さ、叔母さんの宿屋の手伝いをしながら、仲買人をして稼いでいるの。お兄さんが砦の探索から戻って来たら、ジェトレまで一緒に行って欲しいんだ」


 ジュリアによるとオークに包囲されていたせいで村の物資が不足しているらしく、ジェトレ村へ買出しに行きたいらしい。

 ルウはジュリアの頼みを快諾すると、何故か悪戯っぽく笑う。


「ははっ、良いぞ。それに何となくだが、さっきの話は近いうちに実現しそうな気がするぞ」


「ええっ、お兄さん、やっぱり彼氏になってくれるのっ!?」


 ルウの言葉を聞いて表情がぱあっと明るくなるジュリア。


「ははっ、いや、彼氏になるのは俺じゃない。俺なんかよりもっと素敵な彼氏が現れそうだって事さ」


 期待した答えではなかったが、ジュリアは少し前向きになれたようだ。


「なあんだ、残念! でもお兄さんがそう言うのなら期待して待っていよう!」


「ジュリア!」


 再度、ジェマの大きな声が響く。


 ジュリアは厨房に向って思い切りべ~っと舌を出すと、くるりと振り返ってルウ達へ、ぺこりと頭を下げたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ