六日目・話をしよう
「なんか目つきが幼馴染に似てたというか、似ているんだよね」
鶴の一声ならぬブルータスの一声で冷静さを取り戻した私たちはとりあえずさっきの会話の内容を続けることにした。
あのままブルータスの介入がなければ暗闇の中惨劇が起きていただろう。さすがだ。たった今反省しろと言わんばかりに頭突きされたけど。
頭を押し返して撫でてやりつつ私は相槌を打つ。
「幼馴染さんですか。もしかして、お兄さんの好きな人とか」
またむせた。どうやら図星だったらしい。
こういう恋愛トークはからっきしだめなんだろう。もう二十代なのに心はいつまでも少年のままなんだろうな。それはそれでどうかと思う。
「ま、ままままあそうかな!」
「岡崎、落ち着け」
「落ち着きまふっ」
どこも落ち着いていない。
しかし、目元が似ているか。人差し指の先で目の淵をなぞってみる。
母親の遺伝を受けづいているために私と京香は吊り目だ。
見方によっては睨んでいるようにも見えてしまうらしい。そんなつもりはないのだけれど。
「あの時、驚いた幼馴染の顔にそっくりでさ。だから思わず言っちゃったんだと思う」
「へぇ…」
別に幼馴染さんに似ていたから助けたというわけではないんだろう。
弾発射した後に言っていたんだから。
そう考えるとこの人は本当にお人よしなのだろうな。見知らぬ人間助けちゃうんだから。
会話はそこで止まった。
長い長い静寂。時折誰かが姿勢を変える音がするのみ。
みんな眠ってしまったのだろうか。もしかして見張り役を丸投げされたのかな。
まさか。病み上がりの女の子にそんなことさせるわけが、ありそうだから困る。
そんなことをつらつらと考えていると、お兄さんは起きていたらしく小さく息を吐いた。
「明日には、僕たちが敵同士になっている可能性もあるかもしれないんだ」
この静寂の中、そのことを考えていたのだろう。
さっきまであんなに騒いでいても、ふと冷静になればそんな疑問がわいてくる。
それは私も同じことである。
いつ死ぬのか。誰に殺されるのか。何で、どうやって。
怖くはない。死ぬのは怖くない。
本当に恐ろしいのは――壊されること。
「そうだな」
おじさんは気休めを言わない。
お兄さんも慰めを望んでいるわけではないだろう。
私たちはただ利害関係が一致しただけの仮初のチーム。
それにしてはおじさんにあれこれ手を焼いてもらったりはしているけど。
いつ、どんな理由で関係が破たんしてもおかしくないのだ。
どちらにしろ。
最後に生き残れるのは一人だけなのだから。
「そんなことにならなければいいんですけど」
「…まあな」
しかし、そうか。そう遠くない未来、そんなことが起こらないこともないのか。
私と、おじさんと、お兄さんで殺しあう未来が。
それはなんだかあまりにも恐ろしくて悲しいことだと思った。
嫌だな、と思う。
このもやもやと胸に引っかかる苦しい感じは何だろう。
「この際だから、みんなで今まで言えなかったこと言い合いませんか」
「え?」
「は?」
「どうせ私たち以外誰もいないんです。言いたいこと言い合いましょうよ。誰だって一つや二つ、後ろめたいものとかあるでしょう?」
そう、いわゆる
「大暴露大会です」
「何言ってんだお前」