六日目・犬に仲裁された
「というか、」
明日香がどことなく苦笑いして言う。
「どうも私の話は辛気臭くて嫌ですね……なにか面白い話題はないですか?」
「無茶ぶりすんな」
いざ振られると本当になにも浮かばなくなるのはなぜだろう。
面白い話って自分の中では腹抱えるものでも他人にとっては白けたりするし、なかなかに難しい。そう考えるとお笑い芸人とかすごいのかもしれない。
「えっと…じゃあ僕がコンビニに入ろうとしたけど自動ドアが開かなかった話しする?」
「出落ちじゃねーか」
「そんな!?」
「完璧にすべりましたね今」
「二人ともひどい!」
ひどいと言ったって、面白くなる要素が全くないだろそれ。
脈絡もなく話し始めたならまだ面白いと思う余地はあっただろうけど。どうだろう、それでも無理かもしれない。
岡崎はなにやらぶつぶつと恨み言を吐き始めてはいたが俺はスルーした。
「そういえば」
非情なまでに岡崎の恨み節をすっぱりと切り、明日香は何かを思い出したように発言する。
「お兄さん、初めて私たちと会った時に『似てる』って言いましたよね。あれってどういう意味ですか?」
「そんなこと言ってたっけか」
「はい。犬に襲われて、助けてもらった時に」
あ、思い出した。
明日香が俺の行動に軽くキレたり狼狽えたりしたあの一件か。
こいつの家庭環境に嫌な予感を覚えたのもそのぐらいだった。
それにしてもあの犬たちのことはそのまま「犬」と呼ぶのか。
ブルータスのことははじめから「ワンコ」と呼んでいたのに。言い方からして柔らかかったから特別扱いしていると思っても間違いないだろう。
犬とワンコ。なつかないかなつくかで判別していたりするんだろうか。よくわからないけど。
「そう言われると気になるな。あの時はどこぞの誰かさんが俺に突っかかってきたからそんなこと考えもしなかったわ」
「嫌な人ですねぇその人」
「お前だよ」
「あれれ、私でしたか」
わざとボケているのが見え見えなんだよと言ってやりたい。
どうみてもモロバレなのに白を切り続けるタイプに違いない。
「…前々から思ってましたけど、仲いいですよね」
「どこが?」「どこがですか?」
「ほらぁ…」
岡崎の声は疲れた呆れ声だった。
今のはただハモっただけだと思うんだが俺だけか。
しかし辺りが暗いとほんと誰がどんな顔しているか全然わからんな。おかげで話しづらいことこの上ない。電話みたいなもんか。
コミュニケーションには顔が大切とか言うけど、そのままの意味でその通りだ。
「こんな奴と仲いいとかどういうジョークだよ」
「全くですよ。こんな人と同類に見られたくないですね」
「あ? なんか最近やけに絶好調だよな。首絞められてぇか?」
「おやぁ? 暗闇の中どうやってやるんです? 刺しますよ?」
「お願いだから僕を置いてきぼりにしないでくださいよ! 撃ちますよ!?」
ブルータスがうるさいと言わんばかりに吠えた。




