魔王が来る
兄である源三郎(信幸)が青ざめるほどの大物が来るようです。兄弟はこの話を聞いてどうするのでしょうか
襖の奥から聞こえる話に、青ざめている兄と二人で耳を傾けていると、
「源三郎、源次郎。お前たち二人そろって盗み聞きか?」
背筋が凍った。
兄と顔を見合わせ、おそるおそる後ろを振り向く。そこには父上の姿があった。
「申し訳ございませぬ、父上。盗み聞きするつもりはなかったのですが」
兄の素早い謝罪。これは乗っかっておこう。
「申し訳ございませぬ」
俺が謝罪を終えると、兄はすぐに顔を上げた。
「しかし、父上。我らにもお話しくださってよかったのではございませぬか?」
「ん? 何の話じゃ?」
「信長公にご挨拶するという話です」
えっ!? 上様って、織田信長のことなのかよ!
「ううむ。隠していたわけではなかったのだがな」
父は唸ったが、兄は堂々と言い切った。
「我らも役に立ってみせます。何を隠そう、真田の男ですから!」
おお、かっこいい。
「そうか! ならば二人にも力を貸してもらうとするか」
父の一声で重臣たちが集められ、会議が始まった。
そして、俺たちの姿を見つけた頼康にも、呆れたような顔をされた。
ごめんよ。どうしても気になったんだ。
「このままでは間に合わんぞ。真田が降伏してから、まだ間もない。ここで粗相をするわけにはいかぬのだ」
父はかなり焦っている。
織田家に臣従したばかりの真田家にとって、信長公への挨拶は重要な機会なのだろう。ここで失敗すれば、今後の立場にも響きかねない。
そんなことを考えていると、兄が口を開いた。
「父上、ほかに何を決めるべきなのか、明確にしてはいかがでしょうか」
まず、決めるべきことを洗い出し、仕事を分担する。現代でもよくあるやり方だ。
しかし、父は頭を抱えた。
「贈答品と供回りの数、そして供の者たちの格好よ。何が信長公の逆鱗に触れるか、分かったものではない」
ごもっともである。
とはいえ、何も決められないままでは元も子もない。
「儂の格好は決まっておる。最も上等な着物を着ていく。それしかない。だが、それ以外が決まらぬのだ」
ならば、俺も少し提案してみよう。
「まず、贈答品ですが、このあたりの特産である馬はいかがでしょうか。もし歩いていらっしゃるなら、馬に乗って帰っていただけます。すでに馬で来られていても、替えの馬としてお使いいただけるかもしれませぬ」
どうだ? 我ながら悪くない提案だと思うのだが。
……ん?
周りの表情が硬い。
『父上は降伏の際、最も上等な馬を織田家に献上されているのだ』
あ、そういうことね。
一度贈ったものを、また贈るのは印象が悪いか。
すると、父が突然顔を上げた。
「よし、決めた。此度の贈答品は、下駄にするぞ!」
えっ?
俺だけでなく、ほかの面々も驚いた顔をしている。
「源次郎が馬を選んだ理由と同じよ。相手のことを考え、心遣いのできる者だと思わせるのだ」
なるほど。実用性と気遣いを示すわけか。
……俺の提案、少しは役に立ったのかな?
それはさておき。
「では、残る供回りの数と格好はいかがいたしましょう?」
兄が尋ねた。
少なすぎれば礼を欠く。多すぎれば、敵意や謀反を疑われるかもしれない。その塩梅を決めなければならないのだ。
「父上。もう迷っている時間もあまりございませぬ」
兄の一言に、父はしばらく考え込んだ。
そして、ついに決断を下す。
「決めたぞ。此度は儂と源三郎、源次郎の三人で参る!」
……は?
なぜそうなるんだぁぁぁ!
拙い文章かも知れませんが読んでいただきありがとうございます。何かありましたら感想などお待ちしています。作品制作の励みになります!




