いつもより遅い朝
窓から入る強い日差しが顔を刺し、遠くで鳥の鳴く声が聞こえる。
眩しさに顔をしかめて目を覚ます。
しかし、思った以上に寝覚めは良かった。
服は楽になる程度に緩められ、肩口まで丁寧にブランケットを掛けられていた。
ハーブティを飲んだまま放置していたはずのカップは洗って拭いて棚に戻され、ワインもきれいに片付けられていた。
なんなら寝る前に書こうと思っていた報告書のために、情報を整理したメモまで用意されていた。
あとは僕にしかわからない部分を埋めて清書すれば提出できそうだ。
メモは明らかにレミーの筆跡。
正直を言えば『やられたな……』である。
複雑な気持ちを抱えながら身支度を整えて部屋を出て、少し遅めのはずの朝食へ向かう。
廊下へ出ると朝の換気中なのか、冷たい空気が流れ込んでいた。
あちこちで支度をする人たちが行き交い、慌ただしい。
食堂の方からは人の話し声と、陶食器のかちゃりかちゃりという音が聞こえていた。
食堂の入り口で、ちょうど朝食を終えたところらしいマリーに遭遇した。
「おはよー。昨日はありがとうね!」
よく眠れたようで、いつものすっきりした表情で明るく笑う。
「元気になったようで何より」
昨夜のことは一旦頭の片隅に追いやって、いつもの笑みで返した。
「よ、おはよ! よく眠れた?」
後ろから屈託ない声をかけられ、振り向く。
昨夜のことを思えば、ちょっと身構えるくらいは仕方ないと思ってほしい。
「ん、おかげさまで」
いつも通りに返したつもりだが、目ざとい彼にどこまで取り繕えているかは怪しい。
昨夜のタイを抜かれたときの感触を思い出して首をさすっていると、レミーが耳元に顔を寄せた。
「……あれ、ここ?」
こそっと囁く。
「……なんかある?」
「……ううん、首元、ちゃんと温めてね?」
レミーはクスクス笑いながら付け足した。
「冷やすと良くないからね!」
……これはいつものレミーのいたずら、のはず。
なにもない、はず。
状況のよくわかっていないマリーが、きょとんとして様子を見ている。
首に回した手でそのまま首の後ろを掻きながら、たぶん自分はなんとも言えない表情をしているのだろうな、と思った。
「ミズナラー、ゆっくり食べていいから朝ごはん終わったら手伝ってね! 昨日の会議の!」
手をぶんぶんと振るマリーが、レミーと執務室へ歩いていくのを見送る。
昨日は忙しくてろくろく食事も摂れなかったし、朝食くらいはゆっくり摂らせてもらおう。
と、ふと思い当たった。
……本当に何もないんだよな?
朝食の後に鏡で確認するべきかもしれない。
念のためタイを直して首元を隠しつつ、食堂へ入っていった。




