↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の国の物語  作者: 茅ノ森ちまき
第一部第一章 大体いつものこと
2/22

あたいには向かないお仕事

「だからって隊商止めたら物資が足りないでしょう」

「だが、同じ被害に遭う可能性もあるんだぞ。物も人も」

「護衛を増やすと言っても限界があるだろう。根本的なところから対応しないと」

 会議室に飛び交う、怒声ってほどじゃないけど、感情を含んだ声たち。

 あーもー、これいつまで続くんだ?

 この不毛な議論。

 使い込まれた木の机に片肘をつき、空いてる手の指で天板の継ぎ目をなぞった。

 いくつかの机を寄せて作った会議卓は、ところどころ木目も色も違っている。

 手持ち無沙汰に、胸元に落ちた黒髪の先を弄んだ。

 首を右に、左に、そしてぐるりと回す。

 小さく欠伸をして、気付かれないようにこっそり伸びをして、また座り直す。

 そうして動くたびに赤い小袖の襟の合わせが少しずつ崩れる。

 それを時折雑に直しながら、正面に半円を描くように並ぶ机の向こうの代官たちに順番に目をやった。

 ふぅ、とため息をついて、大仰なくらいに上を向くと、後ろに立っているサラと目が合う。

 艶のある砂色の髪は、邪魔にならないようにきっちりと編み込まれている。

 無言でにっこりと笑ってくるのはきっと「ちゃんと会議見てくださいね?」という圧力だ。

 この仕事熱心な補佐からは逃げられないだろうな、と諦め、肩を回しながら視線を部屋の中に戻した。

 ここ最近、リンデンに入る隊商が立て続けに襲われている。

 おまけに、街道まで何者かに壊される始末。

 壊された道の修繕は手配したし、被害に遭った隊商からの聞き取りも大体済んだ。

 現地にはミズナラが朝から行って検分してくれてるはず。

 だから今日、領内の代官たちを集めてこれからどうしよう、の話なんだけど。

 とりあえずの通る道と、護衛増やすの方向でいいのか。

 物資の遅延は許容できるか。

 みんなにはなんて説明するか。

 それが今日やらなきゃいけないこと。

 そうなんだけど。

 『まずはざっくばらんに意見出してみて』なんて雑な指示を出してしまったのはたぶん失敗。

 一応何度か声をかけて、まとめようとはしたのよ?

 でもみんなあたいの話なんて聞いちゃいない。

「ブラッディマリー幹部長、街道の修繕は手配されているとのことですが、どの程度かかる見込みか?」

 えっ、そこでしかもこっちに話振るわけ?

 完全に油断していたけど、それならわかる。

「西はすぐ直りそう、今日明日中かな。南がひどくてしばらくかかりそうだから、西で迂回してほしい。南は域外も多いしね。見通しも悪い」

「西に集中すればまた西が狙われるのでは?」

「西に護衛を集中させれば」

「で、その護衛はどこから」

 ほら始まったよ。

 あたいは西ならすぐ使えるよって言っただけなんだけど。

 うーん、これどうやってまとめよう。

 領主不在だからあたいがまとめることになったけど、これほんとにまとまるの?

 いつもどうしてたっけって思ったけど、そうか、ミズナラだ。

 でも、ミズナラ朝から検分行ってくれてるし。

 あーミズナラ早く帰って来ないかなー。

 議論が勝手に紛糾しているのをいいことに、天井を見ながらため息をつく。

 裾が乱れるのも構わず足をぶらぶらとさせ、もうぶん投げて帰っちゃおうかなー、などと考え始めたとき、会議室の扉が静かな音を立てて開いた。

「すみません、遅くなって。もう決まってしまいましたか?」

「遅い」

 不毛な議論のイライラもあって、八つ当たり気味に返す。

 急いできたのはよくわかってる。

 いつもは整ってる短い狐色の髪がほこりっぽいし、タイもちょっと緩んでる。

 だから彼——ミズナラは全く悪くないし、むしろすごくありがたいんだけど。

「ざっくりの状況説明をして、これからどういう対策をしようか、ってところよ」

 余計なことは言わずに現状を説明すると、ミズナラはすぐにいろいろ察したようだ。

「わかりました。検分を終えてきましたので、現地の状況も合わせてお話しします」

 好き勝手に議論していた代官たちは静まってミズナラの方を向いた。

 ミズナラはあたいの方を向いて、説明の許可を求める。

「うん、お願い」

 承知、と頷いて彼が話し始めると、先ほどまでの不毛さが嘘のように話が進み始めた。

「まず南は当面、隊商の通行を禁止にします。大きな集団が使える状態ではない。全て西を経由しましょう。護衛は増やしませんが、領内警備の一環として街道に巡回警備を配置します。しばらくは少し厚めで。状況を見て増減させましょう」

 一息に説明して、そこで一度話を切り、代官たちの反応を見る。

 大丈夫そう、と見て話を進めるようだ。

「物流は多少遅れるかもしれませんが、現在こちらで把握している荷の中に緊急性のあるものはないと見ています。もしあればこの後個別に教えてください」

 代官のうちの数人がうなずくのを待って、次へ進める。

「領民への説明ですが、今お集まりの代官の方々にお願いしたいと考えています。ただ、そうですね、説明にばらつきが出るかな……」

 少し考えるように視線を落とすが、すぐに顔を上げた。

「領主代行の名で文書を出しましょう。それを根拠にしてください。それでいかがですか?」

 代官たちも異論はなさそうだ。

 さすがミズナラ、とっ散らかった内容がみるみるうちに片付いていく。

 うん、知ってる、あたいこういうのに向いてないんだよね。

 そう思いながら、今度は床を見てため息をつく。

「ほら、人間みんな得意不得意があるからさ。書類は手伝ったじゃん?」

 銀の巻き毛を揺らしながら、先ほどまで静観を決め込んでいた隣席のレミーがこそっと耳打ちしてきた。

「なら会議も手伝いなさいよね」

「ぼく、こういうのは苦手ー」

 レミーの手元を見ると、すでに散々落書きされた書類がバラバラに並んでいる。

 あたいだって苦手だよ、って思いながら苦虫を噛み潰したような顔でレミーを見ると、レミーは悪気のない表情で目配せしてくる。

「だから、ミズナラに終わったらすぐ帰ってねって言っといたよ?」

 レミーの手配だったのか。

 そうね、レミーはそういう気の利かせ方が上手いんだったわ。

 実はもっと遅いかと思っていたから、正直助かったは助かったんだ。

 今更ながら会議に目を向けると、すでにミズナラが方向性をまとめており、こちらを向いて確認を取るところだった。

「ということでよろしいですか? ブラッディマリー幹部長」

「……よしなによろしく」

 大きいため息をついて、あたいは会議終了の合図を出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。