天衡核
養父に手を引かれ、初めて、そこに入った。
薄い卵色に揺らぐ、巨大な光の柱。
よく見るとそれは光の柱ではなく、光を纏った大きな石なのがわかる。
黒い石の台座から伸びた爪に支えられ、ゆるやかに光がたゆたっていた。
「すごく、大きい」
「これでも小さい方だ。セントジェームズは小さな領地だからな」
養父が言う。
黒髪に混ざる白い髪が、天衡の光に照らされてほんのり光っていた。
「……これで?」
歩数を数えながら、周りをぐるりと一周する。
窓のない石造りの部屋に巨大な石だけがあって、あとは光が部屋を満たしている。
「にじゅく、さんじゅ、さんじゅいち」
三十一歩もあった。
その途中で、気付いた。
「コルン、ここなんか変」
「ほう、どこだ」
表面を覆う光がそこだけ浅いのか、筋が入っているようになっている部分があった。
「よく気付いたな」
大きな手が僕の黒髪を撫でる。
濃灰の小袖をまくって道具を取り出し、何かの作業を始めた。
僕はコルンが作業を終えるまでの間、じっと光の柱を見ていた。
「これがないと、どうなるの?」
「核がないと、天衡は動かないな。天衡が動かなければ、全てが凍る」
「……全部?」
「全部だな」
寒気を感じて、自分の紺の襟の合わせをぎゅっと詰めた。
ここは天衡があるから寒くないはずなのに。
「ここの天衡は俺が見るから大丈夫だ。ほら、終わった」
何をしたのかよくわからないが、コルンの作業が終わると先ほど筋が入ったようになっていた部分が、綺麗に波打つようになっていた。
「きれい」
「そうだな、きれいになった。さあ、出るぞ」
再び養父に手を引かれ、光の柱の部屋から出ると、領主さまが立っていた。
僕たちが出ると、重い扉を閉じて大きな鍵をかける。
「調整したから、しばらく大丈夫だと思う」
「ありがとうございます。本当に、大変に、助かりました」
領主さまが、帽子も取って、泣きそうなくらいにお礼を言っていた。
「いい、それよりこのことは内密に」
「わかっております。家族にも徹底して、一切漏らしません」
領主さまはいつもはこんな話し方しないのに、ちょっと不思議だった。
それが、僕が初めて天衡核を見たときの話だ。




