狩り日和
翌朝、久しぶりによく寝て本部前に出ると、リンデンの狩猟隊が出発の準備をしていた。
人数はモルトよりかなり少ない。
モルトは獣狩りの盛んな領地で、子供でも幼い頃から狩りの練習をする。
私も弓くらいは扱える。
「狩り装備持ってきてある?」
「当然です! モルトの民ですから!」
自前の弓と防具をすでにつけて来ている。
「はいはーい、みんな聞いてー。今日はアマレットが手伝ってくれまーす! モルトの子だからみんなより強いからねー!」
「よろしくお願いします!」
マリーねーさまが早速みんなを仕切り始めて、私も負けないように元気に挨拶した。
マリーねーさまはモルトでも早くから狩猟隊長をしていたし、こういうことは慣れてそうだ。
「今日はウサギは見つけ次第狩っていいでーす! 一人一羽は狩れるように頑張ってみよー!」
えっ、一羽だけ?
「あと鹿! みんなで一頭頑張ってみようか! アマレットも一頭狩っといて! 運ぶのは大人がやるからさ」
「一頭でいいんですか? 私が二頭ともやりますか?」
「あなたが二頭狩ったらリンデン組が練習できなくなっちゃうからね。アマレットは一頭だけよろしく!」
あ、そうか、制限があるもんね。
でも鹿一頭にこんなに人数かけるんだ……。
「あと狼! 見つけたら音を立てずに退いて、私に合図してね! 特に群れは刺激しないように気を付けて!」
なんだか、子供への注意みたい。
大人の狩猟隊、なんだよね?
今日の狩場は森林の端の方。
まだ雪原が見えるくらいの場所で、奥には入らないように言われた。
モルトだったらもっと奥じゃないとそもそも獲物いないけど、リンデンはあんまり狩ってないからいるみたい。
実際始まってみたら、確かにみんな、その、あんまり上手くない。
まず、弓ってみんなこんな当てられないものなんだ、って。
弓が苦手なミズナラにーさまでさえ、的には必ず当たるから、みんなそんなもんなんだと思ってたんだけど、そもそも狙ったところに当たってない。
リンデンの狩猟隊はまだできてからそんなに経ってないと聞いていたけど、そういうもんなんだなあ。
でも、私も最近あんまり弓練習してなかったのがバレて、マリーねーさまに怒られた。
「モルトで弓できなかったら生活できないよ! ちょっとずつでも勘を鈍らせないようにしないと」
できないって言っても、ミズナラにーさまよりは当たるんだけどな。
でもマリーねーさまの言う通りなので、これからはちょっとまた練習しなくちゃ。
そんなドタバタで初日の狩りは終わった。
私もウサギを三羽と鹿を一頭。
久しぶりによく体を動かした。
次の日もマリーねーさまが誘いに来てくれた。
「ゼロが、会議は自分が出るから狩り行ってきていいって言ってくれたの。やったー!」
そして今日はマンモスを狩るようだ。
モルトなら大人が五人くらいいたら適当な合図で狩っちゃう感じだけど、リンデンではそうはいかないみたい。
リンデンの人たちが森の浅いとこも含めて探して、見つけたら見通しのいい雪原まで追い立てる。
私が雪原で待ってて足止めと目潰し。
あとはみんなで射掛けて、最後にマリーねーさまが仕留めるという手順だ。
それくらいなら私もモルトでやっているので難しくない。
多少鈍っていてもできる。
予定の場所で待っているとマンモスが追い立てられてくる。
その前足に何本か連続で矢を射込むとマンモスが驚いて前足を上げた。
今なら動きが読みやすい。
一番狙いやすくなる瞬間。
目を狙って、絞って、強く射る。
狙い通りに目に当たり、暴れ出す。
反対側の目はマリーねーさまが射てくれたようだ。
あとはちょっとずつ距離を取りながらみんなで射込んで、体力を削って倒れるのを待つ。
マリーねーさまが最後にナタで仕留めると、みんなから歓声が上がった。
「これで今日はマンモス鍋よー!」
みんなでマンモスを解体して、素材になるものは倉庫へ、肉は血抜きして、食堂へ持っていった。
リンデンはみんなで集まる食堂がいくつかあるので、それぞれに配る。
夜は本部の食堂で、今日獲ったマンモスの鍋を食べた。
長い机がいくつも並んだ食堂は、今日の狩りの話で賑やかだ。
「……モルトと同じ味がします」
「うん。だってあたいがマンモス鍋食べたいから、狩猟隊作ってマンモス狩れるようにしたんだもん。いつもなら足止めと目潰しもあたいだったから、今日はアマレットがいてくれて助かったよ!」
私でも手伝えること、ちゃんとあって良かった。
食事が終わって食器を片付けていると、レミーにーさまが、どこからか太鼓を持ってきてぽこぽこと叩き始めた。
ぽん、ぽこ、ぽこ、ぽん、ぽこ、ぽぽ、ぽん、ぽこ。
モルトにもあるリズムだ。
いつの間にかミズナラにーさまがフィドルを持ってきて弾き出す。
他の人も笛を持ってきたり、食堂の机を叩いたり。
誰からともなく机を端に寄せはじめて、食堂の真ん中に広い場所ができると、マリーねーさまが真っ先に踊り出した。
マリーねーさまはモルトにいた頃からよく踊ってた気がするな。
サラねーさまも踊り出した。
「アマレットもおいで!」
マリーねーさまに誘われて、私も踊りの場に混ざる。
くるり、くるりで、戻りながら拍手。
レミーにーさまがちょっと意地悪く笑うと、太鼓を早くし始めた。
ぽんぽこぽこ、ぽんぽこぽぽ、ぽんぽこ。
「ちょっと! レミー早くない?!」
「だってマリー余裕そうなんだもーん。どこまでついてこれる?」
どんどん早くなる。
サラねーさまが笑いながらギブアップ。
私ももう足がもつれてよくわからなくなって、ギブアップ。
マリーねーさまが最後まで粘って、レミーにーさまが『負けたー!』って叫んでた。
すごく楽しい。
領の人たちも、幹部の人もみんな関係なく、みんな楽しんでる。
ゼロにーさまは楽器も踊りもしないけど、柔らかく笑ってみんなを見てた。
こんな風に、みんな楽しんでもいいんだ。
あ、ゼロにーさまがマリーねーさまに連れ出された。
なんだ、ゼロにーさまちゃんと踊れるんだ。
行き当たりばったりで始まった宴は、いつもよりちょっと遅くまで続いた。




