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冬の国の物語  作者: 茅ノ森ちまき
第一部第三章 笑顔の紡ぎ方
15/22

小さな来訪者

 雪上船が速度を落としながら近づいてきた。

 ソリの上に小さな船室を備えた船体から、白い蒸気が立ち上っている。

 側面にはモルトの大森林を模した領章。

 ゼロが待つリンデンの本部の前まで来ると、きゅっと止まった。

 船室から少女がそっと顔を出し、まず外の様子をうかがう。

 ゼロの姿を見つけると安心したように笑い、船室から出てきた。

 下船用のはしごを降ろそうと四苦八苦していると、船の外からゼロが少女に手を伸ばした。

「あ、あの、ゼロにーさま? わたし、自分で歩けますよ?」

「下は足場が悪い。それにこの方が早い」

「……ではお言葉に甘えて」

 ちょっと背伸びした言葉遣いの幼い声。

 モルトでは珍しくない狐色の髪を編み込んでまとめている。

 ゼロは自分の腰より少し上ほどの背丈しかない少女を、右腕にひょいと乗せて雪上船から抱き上げた。

 続いて、同じく狐色の髪の青年が下りて、ゼロに少女のものらしい荷物と、ついでにモルト土産を渡す。

「それではゼロ、アマレットを頼みますね。アマレット、ゼロの話を聞いて気を付けて」

「もう、キールは心配しすぎです!」

「あとご飯はちゃんと食べる。夜は寝る。弓の練習をする。あとは……」

 アマレットと呼ばれた少女はすでにうんざりした顔で、キールのお小言が終わるのを待っている。

 ゼロはキールとアマレットのやりとりを聞きながら、昨日届いたキールからの手紙を思い出していた。

『アマレットが、働きすぎるんです。』

 近況と共に記されていた一言。

 近況だけなら薄朱の紙を使う意味もない。

 リンデンに来させる提案を書いてすぐに鳥を返すと、案の定その日のうちに『明日アマレットを連れて行きます』という連絡が来た。

 アマレットをゼロに託すと、キールは手を振って雪上船で戻って行った。

 ゼロが雪原を踏み締めて歩き、本部の前に立つ兵士に合図をすると、重厚な扉が開かれる。

 中では先日のような整列待機はなく、何人かの領民が忙しそうに行き交っていた。

 そこへ、ちょうど戻ってきたらしいレミーが続いて入ってきた。

「ゼロ、ただいま! あれ? その子? ……もしかしてゼロの隠し子?」

 ゼロが腕からアマレットを下ろすと、少女は両手を胸に重ね、丁寧に頭を下げた。

 多少拙いながらも、基本に則った綺麗な挨拶だ。

「アマレット・マーテル・モルトと申します。……えーと」

 困ったようにゼロを見ている。

「レミー。リンデンの幹部の一人だ」

「レミーにーさま、ですね。よろしくお願いします!」

「な、な、な、何この子! かっわいー!」

「思考が漏れ出てるぞ、落ち着けレミー」

 バタバタと騒いでいると、ミズナラが書類を持って通りかかった。

「お、ちょうど着いたのか、アマレット。レミーもおかえり」

「ミズナラにーさま! お久しぶりです!」

「見ないうちにだいぶ大きくなったんじゃないか?」

「もう十歳です! 子供扱いしないでください!」

 十分に子供なのだが、アマレットは背伸びしたい年頃らしい。

「つい先ほどモルトから着いたところだ。少し前に俺が後見をすることに決まった。しばらく滞在する予定だから、レミーも手伝ってやってくれ」

 レミーは相変わらずかわいい、かわいいと悶えている。

「後見ってことは……もしかして、継ぐことに決まった?」

 ミズナラがわずかに表情を曇らせて呟く。

「ああ、本人の決意も固いし、幹部ももとよりそのつもりだ」

「継ぐって? 何を?」

「アマレットは僕の姉の子なんだ。……姉が領主だったので、領主を継ぐと」

 ふんふんと聞いていたレミーの表情が、ふっと消えた。

 その体が強張る。

 様子を察したゼロがすぐに背後に回り、レミーの頭をすっと抱き寄せた。

 広い袖でレミーの視界を遮り、耳元に小声で囁く。

「大丈夫だ、同じじゃない」

 もう片方の腕をレミーの体に回すと、震える指が袖越しの腕を恐る恐る掴んだ。

 レミーが大きく息を吐き出す。

「ミズナラ、アマレットを部屋に案内してやってくれ。マリーは?」

「ゼロの代わりに定例会に出ている。もうしばらくかかると思うが」

 ミズナラがゼロの腕の中に目をやり、何も聞かずにアマレットを促して歩きだした。

 二人がこの場を離れるのを見届けると、ゼロは一度、レミーを抱く腕に軽く力を込める。

 レミーもゼロの腕を掴む手にわずかに力を込めて返す。

 その反応を確かめて、ゼロはレミーの背を優しく押し、自室への移動を促した。


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