モルトからの手紙
万年雪に覆われたリンデンの街並みの上を、一羽のハナハトが飛んで行った。
その先にはリンデンの領本部がある。
雪を逃す急勾配の黒い屋根。
三階建ての本棟に二階建ての付属棟が張り出している。
鳥は付属棟へ向かい、屋根の上を一回くるりと回って、外に大きく開いた二階の鳥舎に入り、止まり木に降り立った。
いくつも並んだ止まり木には、白く丸い他のハナハトたちが羽を休めていた。
「おや」
鳥舎の係の男が止まり木に降りたハナハトに餌をやり、通信筒から丸められた薄い朱の手紙を取り出した。
「これはモルトの幹部さんからの便ですね」
モルトとリンデンは縁の深い領なので、幹部同士の連絡も多い。
そのため、両領を行き来する専用のハナハトが用意されている。
鳥舎では、薄朱の手紙は開封せずに幹部に直接渡すのが原則だ。
係の男が幹部行きのトレーに入れたところに、外套を着込んだレミーがやってきた。
「今日の分、なんか来てる?」
「あ、レミーさん、いつもお疲れ様です。モルトから専用便来てますよ。今はそれだけです」
「わかった、ありがとう! ゼロに渡しておくね!」
トレーから手紙を取り出すと、背負ったザックを揺らしながら、本棟に向かった。
幹部執務室には、珍しく全員が揃っていた。
領主のゼロ、幹部長のマリー、その補佐のサラ、ミズナラ、そして今来たばかりで、これから出発するレミー。
「ゼロー。モルトから専用便だって。あとぼく、予定通り明日までウルズス行ってくるけど大丈夫だよね?」
そう言って手紙をゼロに手渡した。
「ああ、気を付けて行ってこい。乗合馬車使うんだろう?」
「うん、もうすぐ出る時間のはずだから。行ってくるねー。お土産買ってくるー」
「いいからまっすぐ帰って来なさい」
聞いているのかいないのか、レミーは手を振りながら執務室を出ていった。
ゼロが丸められた手紙を広げる。
「モルトから専用便って言ってたね。薄朱は珍しい」
ミズナラが文書を書く手を止めて、ゼロの持つ手紙に目をやる。
薄朱の紙は関係者以外閲覧禁止の印だ。
「たまには顔見せに来いって催促じゃないのー?」
「さすがにそんな内容は専用便で来ないだろ。マリーの忘れ物が見つかったとかじゃないのか?」
「二年も経ってたら処分していいわよそんなの……」
モルト出身のマリーとミズナラがそんな軽口を交わしていた。
一通り手紙に目を通し、しばらく宙を見つめてからゼロが二人の方を向いた。
「マリー、ミズナラ。アマレットをしばらくリンデンに滞在させる。準備を頼む」
「アマレット来るの! やったあ!」
喜ぶマリーをよそに、ゼロは新しい薄朱の紙を取り出してさらさらと何か書きつけた。
「サラ、これをモルト専用便で」
「わかりました」
サラは受け取った紙を丁寧に細く折りたたみ、すぐに執務室を出ていった。
「モルトで何かあった?」
ミズナラが尋ねる。
「何かあったというほどのことではないんだけどな」
ゼロはそう言ったまま、腕を組んで再び何やら考えこんでいた。
ミズナラとマリーは事情がわからないままに顔を見合わせた。




