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冬の国の物語  作者: 茅ノ森ちまき
第一部第三章 笑顔の紡ぎ方
14/22

モルトからの手紙

 万年雪に覆われたリンデンの街並みの上を、一羽のハナハトが飛んで行った。

 その先にはリンデンの領本部がある。

 雪を逃す急勾配の黒い屋根。

 三階建ての本棟に二階建ての付属棟が張り出している。

 鳥は付属棟へ向かい、屋根の上を一回くるりと回って、外に大きく開いた二階の鳥舎に入り、止まり木に降り立った。

 いくつも並んだ止まり木には、白く丸い他のハナハトたちが羽を休めていた。

「おや」

 鳥舎の係の男が止まり木に降りたハナハトに餌をやり、通信筒から丸められた薄い朱の手紙を取り出した。

「これはモルトの幹部さんからの便ですね」

 モルトとリンデンは縁の深い領なので、幹部同士の連絡も多い。

 そのため、両領を行き来する専用のハナハトが用意されている。

 鳥舎では、薄朱の手紙は開封せずに幹部に直接渡すのが原則だ。

 係の男が幹部行きのトレーに入れたところに、外套を着込んだレミーがやってきた。

「今日の分、なんか来てる?」

「あ、レミーさん、いつもお疲れ様です。モルトから専用便来てますよ。今はそれだけです」

「わかった、ありがとう! ゼロに渡しておくね!」

 トレーから手紙を取り出すと、背負ったザックを揺らしながら、本棟に向かった。

 幹部執務室には、珍しく全員が揃っていた。

 領主のゼロ、幹部長のマリー、その補佐のサラ、ミズナラ、そして今来たばかりで、これから出発するレミー。

「ゼロー。モルトから専用便だって。あとぼく、予定通り明日までウルズス行ってくるけど大丈夫だよね?」

 そう言って手紙をゼロに手渡した。

「ああ、気を付けて行ってこい。乗合馬車使うんだろう?」

「うん、もうすぐ出る時間のはずだから。行ってくるねー。お土産買ってくるー」

「いいからまっすぐ帰って来なさい」

 聞いているのかいないのか、レミーは手を振りながら執務室を出ていった。

 ゼロが丸められた手紙を広げる。

「モルトから専用便って言ってたね。薄朱は珍しい」

 ミズナラが文書を書く手を止めて、ゼロの持つ手紙に目をやる。

 薄朱の紙は関係者以外閲覧禁止の印だ。

「たまには顔見せに来いって催促じゃないのー?」

「さすがにそんな内容は専用便で来ないだろ。マリーの忘れ物が見つかったとかじゃないのか?」

「二年も経ってたら処分していいわよそんなの……」

 モルト出身のマリーとミズナラがそんな軽口を交わしていた。

 一通り手紙に目を通し、しばらく宙を見つめてからゼロが二人の方を向いた。

「マリー、ミズナラ。アマレットをしばらくリンデンに滞在させる。準備を頼む」

「アマレット来るの! やったあ!」

 喜ぶマリーをよそに、ゼロは新しい薄朱の紙を取り出してさらさらと何か書きつけた。

「サラ、これをモルト専用便で」

「わかりました」

 サラは受け取った紙を丁寧に細く折りたたみ、すぐに執務室を出ていった。

「モルトで何かあった?」

 ミズナラが尋ねる。

「何かあったというほどのことではないんだけどな」

 ゼロはそう言ったまま、腕を組んで再び何やら考えこんでいた。

 ミズナラとマリーは事情がわからないままに顔を見合わせた。


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