第七話 約束の欠片
その日からだった。
ユウとリクは、
同じ夢を見るようになった。
毎日ではない。
だが。
忘れた頃にやってくる。
青い世界。
終わりのない光。
そして。
誰かの背中。
追いつきそうで、
追いつけない。
そんな夢。
放課後。
屋上。
ユウはフェンスにもたれていた。
風が吹く。
夕焼けが街を赤く染めている。
人間界の夕暮れ。
なぜか好きだった。
理由は分からない。
ただ。
見ていると落ち着く。
その時だった。
「また夢か?」
後ろから声がした。
リクだった。
ユウは苦笑する。
「分かるのか」
「顔でな」
リクも隣へ来る。
しばらく無言。
そして。
珍しくリクが先に話した。
「俺さ」
一拍。
「最近思うんだ」
「何を」
「俺たち」
またその言葉。
ユウは振り向く。
リクも空を見ている。
「どこかで会ったことある気がする」
沈黙。
だが。
もう否定できない。
ユウも同じだった。
初めて会った日から。
ずっと。
「ミナも含めて?」
ユウが聞く。
リクは頷いた。
「三人でな」
その瞬間。
空気が揺れた。
本当に。
目に見えるほど。
世界が。
ユウは立ち上がる。
リクも気づいた。
「今の」
その時だった。
フェンスの向こう。
夕焼け空に。
何かが浮かんでいた。
小さな光。
いや。
文字だった。
誰かが空に書いたような。
淡い文字。
『まだ』
一文字だけ。
そして消えた。
ユウは息を呑む。
リクも同じだった。
「見たか」
「ああ」
「今の」
だが。
二人が話しているその様子を、
少し離れた場所からミナが見ていた。
表情が消えている。
血の気が引いていた。
見えた。
今の文字。
はっきり見えた。
そして。
その筆跡を知っていた。
ありえない。
そんなはずがない。
観測界ではない。
管理界でもない。
だが。
あの文字は。
あの癖は。
間違いなく。
自分自身の字だった。
その夜。
ミナは夢を見た。
いや。
夢ではなかった。
記憶だった。
白い場所。
時間も空間もない。
ただ光だけが存在する場所。
そこで。
三人が座っている。
ユウ。
リク。
そして自分。
まだ人間になる前。
まだ観測界に所属する前。
もっと昔。
三人は何かを話している。
だが聞こえない。
声だけが欠けている。
映像だけが残っている。
その時。
夢の中の自分が立ち上がった。
何かを書く。
光の中に。
指で。
文字を。
そして。
振り返った。
まっすぐこちらを見る。
夢の中のミナが。
今のミナを見る。
そして口を動かした。
聞こえない。
だが。
何と言ったのかだけは分かった。
『忘れたら読んで』
ミナは飛び起きた。
呼吸が荒い。
心臓が激しく鳴っている。
「……何を」
声が震える。
忘れたら読んで。
誰が。
何を。
その時。
机の上に置いてあったノートが、
勝手に開いた。
風はない。
誰もいない。
なのに。
ページがめくられる。
一枚。
また一枚。
そして。
最後のページで止まった。
そこには。
自分の字で、
たった一行だけ書かれていた。
『約束は三人でした』
ミナは固まった。
三人。
ユウ。
リク。
そして自分。
だが。
なぜだろう。
その文章を読んだ瞬間。
胸の奥で、
小さな違和感が生まれた。
本当に三人だったのだろうか。
なぜか。
どうしても。
そんな気がしなかった。
まるで。
そこに、
もう一人いたような気がした。




