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記憶を失う前の約束 ―すべてを忘れても、私たちは同じ問いに辿り着く―  作者: stracchino


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第二十五話 帰る場所

大樹の光が静かに揺れていた。


誰も話さない。


必要がなかった。


約束を思い出した。


Kがなぜ消えたのか。


なぜ問いだけを残したのか。


なぜ答えを残さなかったのか。


全部分かった。


なのに。


不思議だった。


何も終わった気がしない。


むしろ。


何かが始まろうとしている。


そんな感覚。


Kも同じだった。


大樹にもたれて空を見ている。


どこか安心した顔。


長い旅を終えた人の顔。


ユウが聞く。


「これで終わりか」


Kは笑った。


「何が?」


「約束」


Kは首を傾げる。


そして。


吹き出した。


本当に可笑しそうに。


「始まりだろ」


世界が静まる。


始まり。


その言葉が妙にしっくりきた。


そうだ。


約束は果たされたのではない。


思い出された。


それだけ。


そして。


思い出したなら、

また始まる。


Kは立ち上がる。


大樹へ触れる。


すると。


無数の光が集まり始める。


選ばれた世界。


選ばれなかった世界。


全部。


一つの川のように流れていく。


ユウは見つめる。


美しかった。


どれも。


本当に。


どれも。


Kが呟く。


「人間ってすごいよな」


リクが笑う。


「急に何だ」


Kは光を見る。


「忘れるのに」


一拍。


「また辿り着く」


静かな言葉。


誰も否定できなかった。


ミナは涙を拭う。


それが、

この旅の答えだった気がした。


記憶を失う。


約束を忘れる。


それでも。


また同じ場所へ来る。


誰かに言われたからではなく。


自分で。


歩いて。


考えて。


迷って。


傷ついて。


辿り着く。


だから意味がある。




その時。


名もなき者が歩き出した。


大樹の向こうへ。


光の奥へ。


Kが振り返る。


「行くのか」


名もなき者は頷く。


「私はいつもいるよ」


優しい声。


「君たちが話している限り」


その言葉に、

ユウは少しだけ分かった気がした。


名前がない理由。


姿が定まらない理由。


あの存在は、

誰かではない。


関係そのものだ。


対話そのものだ。


出会いそのものだ。


だから名前がない。


その時。


名もなき者は最後に言った。


「また会おう」


Kが笑う。


ユウも。


リクも。


ミナも。


みんな笑う。


当たり前のように。


「うん」


それが答えだった。




世界がほどける。


光が消える。


大樹が遠ざかる。


Kの姿も。


少しずつ。


ユウは叫ばない。


引き留めない。


なぜなら。


分かっているから。


終わりではない。


また会う。


それだけだ。




朝。


教室。


窓から光が差し込む。


いつもの席。


いつもの景色。


いつもの世界。


ユウが目を開ける。


夢だったのかもしれない。


違うかもしれない。


もうどちらでもよかった。


後ろの窓際を見る。


空席。


誰もいない。


だが。


机の上に、

小さな紙が一枚だけ置かれていた。


白い紙。


たった一行。


そこには、

こう書かれていた。


『続きを話そう』


ユウは笑った。


窓の外を見る。


空が青い。


不完全な世界。


美しい世界。


そして。


まだ続く世界。


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