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記憶を失う前の約束 ―すべてを忘れても、私たちは同じ問いに辿り着く―  作者: stracchino


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第二十四話 最後の約束

大樹の奥。


光の向こう。


世界が静かだった。


観測界も。


管理界も。


人間界も。


全てが息を止めている。


その中心で。


五人が立っていた。


ユウ。


リク。


ミナ。


K。


そして。


名もなき者。


誰も話さない。


必要がなかった。


なぜなら。


もう分かり始めていたから。


長い旅の意味を。




名もなき者が、

ゆっくりと歩き出す。


大樹へ向かって。


その手が幹に触れる。


すると。


世界が開いた。


光。


無数の光。


無限の光。


その一つ一つが世界だった。


可能性。


未来。


過去。


選ばれたもの。


選ばれなかったもの。


全て。


そして。


その中心に、

五人の姿が映る。


まだ観測界がない頃。


まだ管理界がない頃。


まだ世界が分かれていない頃。


五人は円になって座っている。


若い。


いや。


若いという概念すらない。


始まりの姿。


その時。


名もなき者が言った。


「いつか」


静かな声。


どこまでも優しい。


「世界は分かれる」


Kが聞いている。


ユウも。


リクも。


ミナも。


「選ぶ世界になる」


光が揺れる。


無数の未来が生まれる。


「観測する者が生まれる」


「管理する者が生まれる」


「決める者が生まれる」


一拍。


「そして」


その声が少しだけ寂しくなる。


「忘れる」


世界が静まる。


忘れる。


何を。


五人は聞かない。


もう知っているから。


「だから約束しよう」


名もなき者は微笑む。


初めて。


少しだけ悲しそうに。


「誰か一人が正しい世界を作るのではなく」


「誰か一人が答えを持つのではなく」


「何度でも」


「何度でも出会い直そう」


風が吹く。


大樹が揺れる。


葉が舞う。


世界が共鳴する。


「その時その時の答えで」


「もう一度話そう」


ユウの胸が震える。


リクも。


ミナも。


Kも。


みんな覚えている。


今。


初めて。


完全に。


思い出した。


約束。


それは思想ではなかった。


教義でもなかった。


使命でもなかった。


ただ。


再会の約束だった。




Kが笑う。


涙を流しながら。


「だから消えたんだ」


ユウが振り返る。


Kを見る。


Kは頷く。


「答えを残したら」


一拍。


「会話が終わるから」


静寂。


誰も言葉が出ない。


Kは続ける。


「僕は正解になりたくなかった」


世界が震える。


その言葉。


Kという存在の全て。


「だから」


「問いだけ置いていった」


「また話せるように」


ミナの頬を涙が伝う。


ユウも。


リクも。


泣いていた。


ようやく分かった。


Kは可能性を守ったのではない。


世界を守ったのでもない。


人を守ったのでもない。


会話を守ったのだ。


終わらない対話を。


終わらない問いを。


終わらない再会を。




その時。


名もなき者が笑った。


本当に嬉しそうに。


「思い出したね」


Kが振り返る。


「うん」


名もなき者は頷く。


そして。


初めて最後の問いを投げた。


五人へ。


全員へ。


「では」


一拍。


「次はどうする?」


世界が静まる。


そして。


誰も答えなかった。


ユウも。


リクも。


ミナも。


Kも。


ただ笑った。


それで十分だった。


答えは決まっていない。


決めなくていい。


また考える。


また出会う。


また話す。


そのために、

世界は続いていく。


大樹が光る。


無数の世界が輝く。


そして。


物語は終わらない。


約束が続く限り。


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