第二十三話 名もなき者
光は静かだった。
眩しいのに。
不思議と目が痛くならない。
暖かい。
懐かしい。
そんな光。
大樹の向こう。
封印の先。
約束の先。
そこに一人の存在が立っていた。
男とも。
女とも。
老人とも。
子供とも言えない。
姿はある。
だが定まらない。
見るたびに変わる。
いや。
変わっているのではない。
見る者によって違う。
そんな存在。
Kは静かに頭を下げた。
初めてだった。
Kが誰かに頭を下げるのは。
その存在は微笑んだ。
「久しぶり」
声は穏やかだった。
Kが笑う。
どこか照れたように。
「長かった」
「そうだね」
その存在は頷く。
「でも必要だった」
ユウは動けなかった。
リクも。
ミナも。
理由は分からない。
だが。
知っている。
どこかで。
ずっと昔に。
会ったことがある。
そんな気がする。
その存在は三人を見る。
順番に。
優しく。
一人ずつ。
そして。
少し驚いたように笑った。
「ちゃんと違う答えになったね」
世界が静まる。
ユウを見る。
「消したくない」
リクを見る。
「忘れるな」
ミナを見る。
「委ねる」
その存在は嬉しそうだった。
本当に。
嬉しそうだった。
「それでいい」
Kも笑う。
「僕もそう思う」
ユウは堪えきれず聞いた。
「誰なんだ」
その存在を見る。
「Kを知ってる」
「俺たちも知ってる」
「でも思い出せない」
静寂。
その存在は少し考えた。
そして。
首を振った。
「思い出さなくていい」
またその言葉。
何度も聞いた。
ずっと。
最初から。
「どうして」
ミナが聞く。
声が震えている。
「どうして誰も教えてくれないの」
初めてだった。
ミナが感情をぶつけた。
観測者ではなく。
人間として。
その存在は静かに聞いていた。
そして。
答えた。
「教えたら」
一拍。
「それは君たちのものじゃなくなるから」
風が吹いた。
大樹が揺れる。
無数の世界が光る。
「答えも」
「約束も」
「私も」
その存在は笑う。
優しく。
どこまでも優しく。
「君たちが見つけるから意味がある」
その瞬間。
ユウの胸に、
一つの記憶が戻った。
ほんの断片。
白い世界。
四人。
そして。
もう一人。
今目の前にいる存在。
五人だった。
最初は。
五人だった。
ユウの目が見開かれる。
リクも。
ミナも。
同じ記憶を見た。
五人。
四人ではない。
K。
ユウ。
リク。
ミナ。
そして。
この存在。
その時。
Kが笑った。
「やっとそこまで来たか」
懐かしそうに。
嬉しそうに。
長い旅の終わりを見るように。
「でも」
Kは続ける。
「まだ最後じゃない」
その言葉と同時に、
大樹の奥で何かが動いた。
世界が揺れる。
無数の可能性が共鳴する。
観測界。
管理界。
人間界。
その全てのさらに向こう。
まだ誰も見たことがない場所が、
ゆっくりと姿を現し始めていた。
その存在は静かに言った。
「では」
一拍。
「最後の約束を思い出そうか」
ユウたちは息を呑む。
Kですら黙った。
初めて。
Kですら。
少しだけ緊張した顔をしていた。




