第二十二話 ミナの答え
大樹の下。
静かな光。
無数の世界。
そして。
Kの視線。
優しい。
昔と同じ。
いや。
昔より少し優しい。
「最後は君だ」
Kが言う。
ミナは答えない。
答えられない。
ユウとリクは、
既に答えた。
自分だけが残っている。
なのに。
何も出てこない。
Kは急かさない。
待っている。
ずっと。
待つことに慣れている人のように。
その時。
ミナは気づく。
自分はずっと、
待たせる側だったのだと。
Kを。
ユウを。
リクを。
そして。
自分自身を。
「私は」
ようやく口を開く。
声が震える。
「分からない」
Kが笑う。
ユウも笑う。
リクも。
なぜか。
その答えが懐かしかった。
昔も、
きっと同じだった。
ミナは続ける。
「ずっと覚えていた」
観測界。
降下命令。
忘却の門。
全部。
一人だけ。
「それが役目だと思ってた」
Kは黙って聞いている。
「忘れないことが大事だと思ってた」
一拍。
「でも違った」
風が吹く。
大樹の葉が揺れる。
世界が静かになる。
「私は」
ミナは涙を拭う。
初めてだった。
観測者としてではなく。
人間として泣いていた。
「覚えていたから苦しかった」
静かな告白。
「忘れた二人が羨ましかった」
ユウが顔を上げる。
リクも。
ミナは続ける。
「私はずっと」
「案内人をしてた」
「観察してた」
「見守ってた」
「間違えないように」
「壊れないように」
「失わないように」
その時。
Kが小さく首を傾げた。
「それで?」
ミナは黙る。
そして。
長い沈黙のあと。
笑った。
少しだけ。
自嘲するように。
「疲れた」
世界が静まる。
Kの目が優しく細くなる。
「そうだろうね」
その言葉で。
何かが切れた。
張り詰めていたもの。
ずっと抱えていたもの。
全部。
「私は」
ミナは空を見る。
無数の世界。
無数の未来。
無数の可能性。
そして。
三人を見る。
ユウ。
リク。
K。
「残したいものなんてない」
その言葉に、
ユウが驚く。
リクも。
だが。
Kだけは笑った。
嬉しそうに。
本当に。
嬉しそうに。
「その理由は?」
ミナは答える。
今度は迷わず。
「残すかどうかは」
一拍。
「その人が決めるから」
風が吹いた。
大樹が大きく揺れる。
世界が共鳴する。
ミナは続ける。
「私は残さない」
「私は消さない」
「私は決めない」
静寂。
そして。
最後に。
小さく笑った。
「委ねる」
その瞬間だった。
大樹全体が光った。
今までで一番強く。
眩しいほどに。
無数の世界。
無数の可能性。
無数の未来。
全てが共鳴する。
Kは目を閉じた。
涙が流れていた。
「そうか」
本当に小さな声。
「君はそこへ辿り着いたんだね」
ユウにも言った言葉。
だが。
少し違う。
Kは知っていた。
この答えが、
最も遠い道だったことを。
最も苦しい道だったことを。
その時。
封印庫が開いた。
観測界。
管理界。
人間界。
全ての世界で同時に。
長い長い封印。
長い長い約束。
その中心にあった扉が、
ゆっくりと開く。
光が溢れる。
そして。
初めて。
Kが振り返った。
大樹の向こう側。
光の向こう側。
そこに誰かが立っている。
一人。
静かに。
ずっと待っていたように。
Kは微笑む。
懐かしい友人を見るように。
そして呟いた。
「やっと会える」
ユウも。
リクも。
ミナも。
息を呑む。
なぜなら。
そこに立っていた存在を、
誰も知らないはずなのに。
三人とも、
涙が止まらなかったから。




