第二十一話 リクの答え
大樹の下。
Kの視線がリクへ向けられる。
静かな光。
揺れる葉。
無数の世界。
その全てが、
返答を待っているようだった。
「君は?」
Kが聞く。
リクはすぐには答えなかった。
ユウとは違う。
いつもそうだった。
考える。
整理する。
順番に積み上げる。
それがリクだった。
「俺は」
長い沈黙の後。
ようやく口を開く。
「お前に反対だった」
Kが笑う。
「知ってる」
「今も反対だ」
Kはさらに笑う。
「それも知ってる」
ユウが吹き出す。
ミナも少し笑った。
何故だろう。
懐かしかった。
昔もきっと、
こんな会話をしていた。
リクは大樹を見る。
無数の世界を見る。
そして言った。
「全部残せない」
静かな声。
だが迷いはない。
「決めないと世界は進まない」
Kは頷く。
反論しない。
「選ばないと人は生きられない」
Kはまた頷く。
「だから」
リクは光の粒を手に取る。
一つの世界。
一つの未来。
その中で、
誰かが笑っている。
そして。
別の未来では、
同じ人が泣いている。
両方は選べない。
どちらかになる。
それが世界。
それが人生。
「だから俺は」
一拍。
「選ぶことを否定しない」
風が吹く。
大樹が揺れる。
Kは黙って聞いている。
「でも」
リクは続ける。
「選ばなかったものを忘れるな」
世界が静まった。
ユウが顔を上げる。
ミナも。
Kも。
誰も動かない。
「選ぶのはいい」
「決めるのもいい」
「前へ進むのもいい」
リクは光を見る。
無数の未来。
無数の可能性。
無数の喪失。
「でも」
「無かったことにするな」
その言葉は、
ユウの答えと似ていた。
だが違う。
ユウは感情だった。
リクは責任だった。
「失われたものを覚えていること」
「それが選ぶ側の義務だ」
Kは目を閉じる。
長い沈黙。
そして。
小さく笑った。
「君らしいな」
リクは肩をすくめる。
「そうかもな」
その瞬間だった。
大樹の根元が光る。
初めて。
地面の下から。
何かが現れる。
古い石碑。
今まで見えなかった。
まるで。
リクの答えを待っていたかのように。
石碑には文字が刻まれていた。
『忘却は罪ではない』
リクは読む。
そして。
その下に続く文字が浮かび上がる。
『忘却を正当化することが罪である』
リクの目が見開かれる。
それは。
まるで。
自分が今言ったことだった。
Kが静かに言う。
「ようやく見つけたね」
リクは振り返る。
「何を」
Kは微笑む。
「君の答えを」
その時。
大樹から一枚の葉が落ちた。
リクの手の中へ。
葉には文字が刻まれている。
たった一行。
『選ぶ者は、失われたものの証人であれ』
リクはその葉を見つめた。
そして初めて。
Kに向かって頭を下げた。
賛成したからではない。
納得したからでもない。
違う。
自分とは違う考えのまま、
同じ場所へ辿り着いたからだった。
Kは嬉しそうだった。
本当に。
嬉しそうだった。
そして。
ゆっくりとミナへ視線を向ける。
最後の一人。
記憶を持っていた者。
案内人。
観測者。
そして。
もしかすると、
最も大きなものを忘れている者。
「最後は君だ」
Kは優しく言った。
「ミナ」




