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記憶を失う前の約束 ―すべてを忘れても、私たちは同じ問いに辿り着く―  作者: stracchino


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第二十話 ユウの答え

大樹の下。


静かな光。


無数の世界。


無数の可能性。


その中心で、

Kは問いを投げた。


「今の君は」


「何を残したい?」


ユウは答えなかった。


答えられなかった。


昔なら違ったかもしれない。


記憶を持っていた頃なら。


観測界にいた頃なら。


だが。


今は人間だった。


迷う。


悩む。


失敗する。


だから。


簡単に答えられない。


Kは急かさない。


ただ待っている。


信じているように。


その時。


ユウは一つの世界を見た。


光の粒。


その中に。


一人の少女がいた。


泣いている。


誰かを待っている。


だが。


その世界は選ばれなかった。


消えた。


次の世界。


老人が笑っている。


家族に囲まれて。


だが。


それも選ばれなかった。


次。


次。


次。


無数。


数え切れない。


その全てに、

誰かの人生があった。


誰かの願いがあった。


Kは静かに聞く。


「消えていいと思う?」


ユウは答えられない。


だが。


一つだけ分かった。


「分からない」


Kが笑う。


嬉しそうに。


「うん」


「それでいい」


まただ。


昔もそう言った。


今もそう言う。


その時。


ユウは気づいた。


Kは答えを持っていない。


持っているなら教えるはずだ。


だが教えない。


なぜなら。


Kも答えを知らない。


ずっと。


探している。


自分たちと同じように。


その瞬間。


胸の奥の何かがほどけた。


Kは神ではない。


観測者でもない。


正解でもない。


ただ。


一人の旅人だった。


自分たちより少し先を歩いているだけの。


ユウはKを見る。


初めて対等な目で。


そして。


静かに言った。


「俺は」


風が吹く。


葉が揺れる。


世界が耳を澄ます。


「残したいんじゃない」


Kの目が細くなる。


続きを待つ。


「消したくない」


その言葉は、

どこか懐かしかった。

昔から知っていたような気がした。


だが。


少し違う。


もっと人間的だった。


もっと弱かった。


もっと優しかった。


「全部は無理だ」


ユウは続ける。


「決めなきゃいけない時もある」


「選ばなきゃいけない時もある」


Kは頷く。


否定しない。


「でも」


ユウは光の粒を見る。


無数の人生。


無数の願い。


無数の未来。


「無かったことにはしたくない」


静寂。


Kは目を閉じた。


まるで。


ずっと聞きたかった言葉を聞いたように。


長い時間。


本当に長い時間。


待ち続けた言葉を。


その時。


大樹が光った。


初めて。


世界そのものが共鳴した。


Kは目を開く。


涙が浮かんでいた。


「そうか」


小さな声。


そして。


微笑む。


「君はそこへ辿り着いたんだね」


ユウは首を傾げる。


意味が分からない。


だが。


Kはそれ以上説明しなかった。


代わりに。


リクを見る。


そして。


ミナを見る。


「次は君たちだ」


その言葉と同時に、

世界がゆっくり揺れ始めた。


約束はまだ終わっていない。


本当に大切なのは、

三人が同じ答えを出すことではない。


それぞれが、

何を残したいのか。


何を消したくないのか。


それを見つけることだった。


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