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記憶を失う前の約束 ―すべてを忘れても、私たちは同じ問いに辿り着く―  作者: stracchino


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第十五話 答えを拒んだ日

その夢は、

今までで一番鮮明だった。


ユウは白い世界にいた。


もう夢だとは思わなかった。


ここは記憶だ。


忘れているだけの。


本当の記憶。


目の前にはKがいる。


今度は顔も見える。


声も聞こえる。


そして。


Kは泣いていた。


初めてだった。


いつも笑っていた。


いつも穏やかだった。


なのに。


今は泣いている。


静かに。


声もなく。


ただ涙だけが流れている。


ユウは驚いた。


「どうした」


Kは答えない。


代わりに。


目の前を指差した。


そこには巨大な光があった。


世界の核。


可能性の海。


無限の未来。


無限の選択。


無限の世界。


そのすべてが渦を巻いている。


Kはそれを見ていた。


「決まるんだ」


小さな声。


「全部」


ユウは意味が分からない。


Kは続ける。


「いつか」


「どれか一つになる」


「そうすると」


一拍。


「他は消える」


その声は震えていた。


まるで。


誰かの死を見ているように。


「それが世界だろ」


夢の中のユウが言う。


まだ幼い。


まだ何も知らない。


Kは頷く。


「そう」


「だからみんな正しい」


観測者も。


管理者も。


世界も。


誰も間違っていない。


その言葉が妙に悲しかった。


「じゃあ何が悪い」


ユウは聞く。


すると。


Kは笑った。


泣きながら。


笑った。


そして。


こう言った。


「悪くないんだ」


世界が静まる。


「だから困る」


その言葉を聞いた瞬間。


ユウの胸が締め付けられた。


悪ではない。


間違いでもない。


だから否定できない。


だから苦しい。


Kは光の海を見る。


「消える側にも」


「生きたかった理由がある」


「叶えたかった未来がある」


「会いたかった人がいる」


一拍。


「それを無かったことにしたくない」


その瞬間。


ユウは初めて理解した。


Kが守ろうとしているものを。


それは可能性ではない。


可能性の中にいる誰かだった。




夢が揺れる。


映像が崩れ始める。


Kの姿が薄くなる。


ユウは叫ぶ。


「待て!」


「それでどうした!」


Kは振り返る。


最後の記憶。


最後の笑顔。


そして。


こう言った。


「だから僕は」


世界が白く染まる。


消えていく。


Kも。


光も。


全部。


最後に聞こえた言葉。


『答えにならないことにした』



ユウは飛び起きた。


夜だった。


呼吸が荒い。


全身が震えている。


「答えにならない……」


意味は分からない。


だが。


その言葉だけは残る。


答えにならない。


答えを拒否する。


確定を拒否する。


選択を拒否する。


それは。

自分がずっと探していた場所と、

どこか同じだった。




同じ頃。


観測界。


封印庫。


陽明は一人で立っていた。


閉ざされた扉の前。


長い沈黙。


そして。


初めて口を開く。


「お前は正しかったのか」


返事はない。


だが。


扉の向こうから、

微かな笑い声が聞こえた気がした。


陽明は目を閉じる。


珍しく疲れた顔。


「私は決めた」


静かな声。


「だからお前を理解できなかった」


その時。


封印庫の扉に亀裂が走った。


ほんの僅か。


だが確かに。


封印が解け始めている。


そして陽明は知っていた。


封印されているのは、

Kではない。


Kが残した問いだということを。


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