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記憶を失う前の約束 ―すべてを忘れても、私たちは同じ問いに辿り着く―  作者: stracchino


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第十四話 問いを残した者

Kが笑う。


嬉しそうに。


本当に嬉しそうに。


『それでいい』


その瞬間。

その日は妙に静かだった。


風もない。


雲もない。


世界が息を潜めているような朝。


ユウは校庭を歩いていた。


誰もいない。


授業前。


まだ時間がある。


ふと。


例の空席が気になった。


あの席。


誰も座らない席。


誰も覚えていない席。


そして。


なぜか自分だけが気になる席。


ユウは校舎へ戻る。


教室。


静寂。


後ろの窓際。


空席。


そこへ近づく。


机に手を置く。


その瞬間だった。


視界が反転した。




白い場所。


まただ。


だが今回は違う。


三人ではない。


四人でもない。


二人だった。


ユウ。


そしてK。


向かい合って座っている。


何かを話している。


だが聞こえない。


音だけがない。


映像だけ。


その時。


Kがこちらを見た。


夢の中のKが。


今のユウを。


まっすぐ見た。


そして。


突然、

声が聞こえた。


今度は聞こえる。


はっきりと。


『君はどう思う?』


ユウは固まる。


質問だった。


約束ではない。


説明でもない。


問い。


『全部決まっていた方が幸せかな』


Kが聞く。


白い世界。


静かな光。


その中で。


ただ問いかける。


ユウは答えられない。


分からない。


その時。


夢の中の自分が言った。


『分からない』


世界が揺れた。


映像が崩れる。


白い光。


そして。


最後にKが言った。


『だから君に頼む』


そこで途切れた。




教室へ戻る。


ユウは息を切らしていた。


汗が流れる。


心臓が激しく鳴っている。


だが。


今までの夢と違った。


今のは記憶だ。


間違いなく。


そして。


Kは何かを託した。


自分に。



その日の放課後。


ミナは図書室にいた。


一人。


例の紙を見つめている。


『可能性を残せ』


いつの間にか、

文字が増えていた。


Kの言葉。


いや。


Kの願い。


ミナは目を閉じる。


そして。


突然気づいた。


今まで勘違いしていた。


Kは可能性を残そうとした。


そう思っていた。


違う。


Kは可能性を守ろうとしたのではない。


可能性を選ばなかった。


それが本質だった。


可能性を守ることと、

可能性を選ばないことは違う。


守るなら、

どれかを守ることになる。


選ぶことになる。


だがKは違った。


どれも選ばなかった。


どれも捨てなかった。


その時。


ミナの脳裏に、

陽明の顔が浮かんだ。


観測界。


管理界。


人間界。


全てが選ぶ世界だった。


選び。


決め。


確定する世界。


だが。


Kだけは違った。


だから記録に残らない。


観測できない。


管理できない。


存在になった。


ミナは震える。


もしそれが本当なら。


Kは観測界の外にいるのではない。


観測界がKの外側に作られたのだ。


その瞬間。


図書室の窓に光が差した。


夕陽。


その中に、

一瞬だけKの姿が見える。


今までより鮮明だった。


顔も見える。


穏やかな顔。


そして。


どこかユウに似ていた。


Kは笑う。


そして。


静かに言った。


『思い出さなくていい』


ミナは息を呑む。


『大事なのは』


一拍。


『同じ答えに辿り着くことだから』


その言葉と共に、

姿は消えた。


残ったのは夕陽だけ。


ミナは動けなかった。


今、

初めて分かった。


Kが残したかったのは記憶ではない。


約束でもない。


思想でもない。


問いだった。


何を残し、

何を消し、

何を選び、

何を選ばないのか。


その問いを、

誰かがもう一度見つけること。


それがKの願いだった。


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