第十一話 最初に消えた者
K。
紙片に残された一文字。
ミナは何度も見返した。
K。
名前ではない。
だが。
名前だった気がする。
それが不思議だった。
思い出せない。
なのに懐かしい。
知らない。
なのに会いたい。
そんな感覚。
翌朝。
ミナは学校へ向かっていた。
空は曇っている。
雨の匂い。
世界が少し静かだった。
その時。
前方に人影を見つけた。
通学路。
誰もいないはずの時間。
制服姿。
男子生徒。
ミナは立ち止まる。
見覚えがある。
いや。
違う。
見覚えがない。
だが。
心が先に反応した。
懐かしい。
胸が苦しくなる。
その人影は振り返った。
顔は見えない。
やはり認識できない。
輪郭だけがある。
存在だけがある。
そして。
その人物は言った。
「遅いな」
ミナの全身に電流が走る。
その言い方。
その声。
どこかで聞いた。
ずっと昔に。
「あなたは……」
問いかける。
だが。
答えはない。
代わりに。
その存在は歩き出した。
通学路を。
学校の方へ。
ミナも追う。
走る。
だが追いつけない。
距離が縮まらない。
まるで。
夢の中のように。
そして。
校門の前で消えた。
何も残さず。
ただ一つ。
地面に文字だけが残る。
雨に濡れたアスファルト。
そこに指で書いたような文字。
『最初に消えたのは誰?』
ミナは立ち尽くした。
最初に消えた。
誰が。
頭の奥で何かが動く。
そして。
思い出しかける。
『前を歩いていた男が』
そこまでだった。
記憶が途切れる。
世界が揺れる。
視界が白くなる。
その瞬間。
遠くで鐘の音がした。
観測界の警鐘。
ありえない。
人間界で聞こえるはずがない。
だが確かに聞こえた。
警告。
封印が動いている。
そんな音だった。
同じ頃。
ユウは教室にいた。
窓際。
いつもの席。
だが。
今日は違った。
どうしても気になる。
教室の後ろ。
空席。
誰も座らない席。
存在しないはずの席。
ユウは立ち上がった。
近づく。
机を見る。
すると。
突然。
視界が変わった。
教室ではない。
白い場所。
四人。
座っている。
笑っている。
自分。
リク。
ミナ。
そして。
もう一人。
顔が見えない。
だが。
その人物が言った。
『もし僕が消えたら』
世界が止まる。
『必ず探して』
胸が締め付けられる。
苦しい。
悲しい。
どうしてそんな約束を。
その時。
映像の中の自分が怒った。
初めて見るほど真剣な顔。
『消えるな』
そう言っている。
『絶対に』
そして。
四人目は笑う。
寂しそうに。
優しく。
泣きそうな顔で。
『だから約束するんだ』
次の瞬間。
映像が途切れた。
教室へ戻る。
ユウは机に手をついた。
息が荒い。
心臓が痛い。
だが。
今のは夢ではない。
確信があった。
あれは記憶だ。
忘れた記憶。
失われた記憶。
そして。
その記憶の中で、
四人目は最初から消えることを知っていた。
その夜。
観測界。
封印庫。
誰もいないはずの部屋。
暗闇。
静寂。
その奥で。
一冊の本が開いた。
誰も触れていない。
勝手に。
ページがめくられる。
そして。
最後のページに、
新しい文字が浮かび上がった。
『約束の回収を開始する』
その下に、
さらに一行。
『対象:四人全員』




