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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
77/79

ベゴニア(ミズキ):美しい物を見たい

**

トラックの荷台で目が覚める。中型の軍用で雑魚寝ならギリ8人寝れる。どっから持ってきたのかは知らない。


寝ているのは僕を除いて6人。居ないのはヒマワリだけ。3つ並べた時計は、ふたつが3:50を指す。もうひとつは遅れている。そろそろ電池切れか。


他の人を起こさないように動く。ツユクサが寝返りを打とうとして、隣のアジサイにぶつかる。そのせいでアジサイが起きた。僕と目が合う。


『おはよう』


『おはようございます……』


目を擦って身体を起こす。まだ少年のような見た目で細いが、声は低くちゃんと成人だ。


『……ベゴニアさん、畑ですか?』


『寝る?行く?』


『行きますん……』


そう言いながら立ち上がる。トラックを降りると涼しい風がした。アジサイも付いてくる。


終末3年の6月第1週。地図では福井県の中央東辺り。元々港付近で生活していたらしい人達が、別の集団と揉めて追い出された、らしい。


作りかけの畑には、既にヒマワリが居た。特に何もせず、相変わらず東を見ている。足音に気付いたのかこっちを見て笑う。


『おはよ!』


『うす』


『おはようございます。ヒマワリさん』


近くに落ちてる板材を引っ張ってくる。ヒマワリが土で汚れたズボンを払いそこに座る。アジサイが持ってきた3人分の水を回し、俺らも板材に座る。


『ちゃんも見えますか?』


『分かんない』


目前はまだ暗いが、空は少しづつグレーになっていく。影絵みたいに、いや、実際に山の影が濃くそこにある。


『これは見えないな』


『あはは……あと5分!』


『アジサイ、5分測れる?』


『ちょっと自信無いかもです』


『僕もない』


5分の概念は分かっていても、実際に5分を測るのは難しい。日時計とか知識はあっても、もしもまた時計が壊れたら、少なくとも僕はまた時間を考える事はしないだろう。


『……まぁ、今日も見れないかな』


『梅雨ですしね』


『1分経ったか?』


『ま、次がある!』


ヒマワリが立ち上がる。長い伸びをして動く準備を始める。

僕もアジサイも立ち上がって、土の上の瓦礫を退かし始める。


明るくなってきた頃に、コミュニティの人が廃墟から出てくる。


『まだ居たのか』


『もちろんです!あたし、やれる事はやって行かないと落ち着かなくて』


その男、ソウジロウはアジサイと同じかもう少し下くらいで、体格の良い。そもそも僕が背が低いだけだが、その顔を見上げる。


『お前たちが毒を盛るんじゃないかって、みんな不安なんだよ』


『土に?』


『じゃあ、もう少し滞在する?』


『ヒマワリが良いなら僕はいいよ』


ソウジロウが訝しみながら僕を見る。手招きする。


『教えてやるから』


『……』


こういう、人を疑ってばかりな人間は難しい。渋々土を踏んで、ソウジロウが入ってくる。


ゾロゾロとトラックから起きてくる。キキョウはそのままトラックに腰かけ、メガネをかけてタバコを吸い出す。よれたスーツでジニアが出てきてメモ帳を開く。


『進捗はどうだ?』


『全然』


『相変わらず遅いな』


『へへへ……』


ヒマワリが頭を搔いて笑う。トラックからマリーも出てくる。ボサボサの少し長い髪を結びながら、水を取りに消える。


『サルビアとツユクサは?』


『寝ている』


ジニアは何だかんだ、寝てるやつは起こさない。まぁ別に、そのうち起きてくるか。


太陽らしき歪んだ白点が空に見えた頃に、土弄りを止める。持ってきた野菜の種子を植えながら、横にいるソウジロウがじっと見ている。


『覚えたか?』


『無理だよ』


『だろうね』


『バカにしてんのか?』


ジニアがボロボロの机で書き物をしている。ソウジロウに渡す用のマニュアルだ。アジサイが使える食材について横でジニアに提言する。


『あんたは全部頭に入ってるのか?』


ソウジロウが聞いてくる。


『全部かどうかは自信ないけど、まぁ』


『あんま俺と歳変わらないだろ?』


『それしかやること無かったしな』


サルビアが起きてくる。髪を横で束ねて欠伸をしながら真っ直ぐこっちに来た。


『おはよう』


『紫陽花、あったよ』


開口一番そう言う。近くに居たヒマワリが立ち上がる。ソウジロウが眉を顰める。


―――


住宅地を抜けて少し山林に入った場所。多分昔は観光地何だろうなと思わせるデザインの建物の庭に、青色の花があった。


『何時?』


『昨晩』


ヒマワリが近づく。ソウジロウが目を丸くしながら僕に聞く。


『何がしたいんだよ、お前たち』


『集めてるんだよ。花を』


『なんで』


なんでと言われても、ヒマワリが探してるから、としか言えない。少なくとも、別に僕が主体じゃない。

何も言わない僕の代わりに、ヒマワリが応える。


『こういう気持ちは、大事にしたいから』


ソウジロウが何も言わず首を傾げる。ヒマワリが紫陽花に触れている。


『種ってどれ?』


『さぁ?』


『無いのかな?』


ソウジロウが言う。


『何勝手に持っていく気でいるんだよ』


『無能だしケチなの?』


サルビアが悪態を付くが、ヒマワリが悲しそうな顔をするとソウジロウが一瞬怯む。この土地の物なんだから、そう言われるのも無理はない。


『……紫陽花は、挿し木で増やすんだよ』


ソウジロウがボソリと言う。めんどくさいなと思った。ヒマワリがソウジロウに質問する。


『種は無いの?』


『あるにはあるが、そっちの方がずっと楽だ』


『そうなんだ。知らなかった』


ヒマワリが立ち上がって、紫陽花から離れる。


『戻ろっか』


『……良いのかよ』


『うん。人の物は勝手に取れないから』


終末に人の物とかあるのか?とは口にしない。ヒマワリが一瞬振り返り、庭を後にする。サルビアも行き、ソウジロウが立ち尽くす。


『……行かないのか?』


『……あぁ』


広場に戻ると、アジサイが料理をしていた。それを他の人に教えている。いつの間にかツユクサが起きていて、大人と談笑している。

 

キキョウは座っている少年の足に触れている。事故で足首が飛んだらしいその子に、拾ってきた義足を調整している。医者というのはなんでも出来るのか、パンデミックで出来るようになったのかは知らない。


『……さっきはすまなかった』


ソウジロウが何故か僕に謝ってくる。


『ヒマワリに言えよ』


『……わかってる』


飲み物を片手にツユクサが歩いてこっちに来る。


『紫陽花どうだった?』


『あぁ、あったな』


『だろ?昨晩探したんだぜ?暗いしサルビアは平気で進むし』


ソウジロウが気まずそうな顔をする。そんな事はお構いなしにツユクサが絡む。


『ソウジロウ、今日も釣り行こうぜ!』


『そうだな』


ツユクサとソウジロウが離れていく。1人になったので適当に歩く。小さな畑越しに広場が見える、元幼稚園だったらしい廃墟を通り過ぎる。

 

ただの旅人だが、ここにはもう4日居る。他のコミュニティに比べて、初めは随分閉鎖的だったが、相変わらずヒマワリは馴染むのが早い。


東の街、東京を目指して来た旅路は、特別急いでも無い。どうせ僕たちの時間は長い。

パンデミックでみんな頑張ったんだ。みんな失ったんだ。こういう時間があっても良いと思う。


窓の向こうの広場に居るヒマワリと目が合う。歯を見せて笑って、すぐに他の人との会話に消えた。


さて、次は何をしよう。僕に出来る事を探しながら、広場に足を向ける。


―――ミズキ―――


火が焼けた匂いがする。それに混じって血の匂いもした。広場の真ん中で、大きな火が燃えている。そこに立っているのはキョウヤ1人。動かない人を引きずっていた。


目が合ったキョウヤが、歪で、悪そうで、いつも通り笑う。


「あぁ、おかえり」

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