表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
73/79

ハチ:実感

戦えた実感がある。とは言っても、フェタが前衛で俺が決め手のコンボなだけ。1人なら間違いなく即死だし、男なのに引き受け手じゃないとは。

体が痛い。怪我じゃない。筋肉痛と言うやつだ。


作業する人を、幼稚園の軒下に座ってじっと見る。時折目が合うがすぐに逸らされる。幼稚園の庭で遊んでた女の子がこっちに来た。紫陽花の花を持っている。


「あげる!」


「……貰えないよ」


女の子が首を傾げる。


「なんで?」


「花ってのは、気になる異性とかにあげる物だろ?」


「そうなの?」


横に来たキョウヤが女の子の前にしゃがむ。


「じゃあおじさんが貰おう」


「やだ!」


キョウヤが唇を尖らせて俺を見る。仕方なく女の子から紫陽花を受け取る。


「かっこよかったよ!」


なんだか見透かされたような気分だ。笑ってみせる。


「当たり前だ!」


「おじさんもかっこいいのに」


女の子と目を合わせる。


「お花、ありがと」


女の子はそのまままた庭に走っていって、他の子に混ざる。キョウヤが変な顔で俺を見る。


「……別に、貰ったからってそういうつもりじゃ」


「分かってる分かってる。気にしなくてもハチはロリコンじゃない」


「そこまで言ってない」


キョウヤが隣に座り、ポケットを探っている。


「ソウジロウとの話はどうだった?」


「最悪だね。もしかしたらもう干渉出来ないかも」


「ホルンのせい?」


「まぁ、そういう言い方も出来る」


「否定しないのかよ……」


「撃たれた事まではホルンのせいじゃないよ?とはいえ、俺のやる事は変わらない。未来で生きる人のために、旧時代の宿題は全て片付けないといけない」


そう言いながら、ポケットから箱を取り出して俺に向けてくる。それを受け取る。


「水質検査キットだ。カリンが向かった北西には、海峡と沈んだとされる原子力発電所がある」


「これで海を調べるの?」


「水を取って薬品を入れて振るだけ。簡単だろ?」


「まぁ、辿り着けるならね」


「君らパーティーなら出来るさ」


「もし、これで汚いってなったら?」


「そうだな……」


キョウヤが顎に手を置く。


「殺してでも、急いで進めないとね」


相変らず悪い顔で笑いながら言う。


「何言ってんだよ」


蓋を開けてみる。容器と袋、説明書が入っている。


「後は?」


「復興用の工具が不足している。まとめておいた」


そう言って追加で紙を受け取る。ネジだけで9種類、それぞれの数値が割り振ってある。それ以外にもびっしりと必要な物が書いてあった。


「まぁ、最重要はカリンだ。これは見つけたら拾ってくる程度の認識でいいよ」


「はーい」


―――


ホルンが戦車のエンジンをかける。助手席にミズキ、荷台に俺とフェタ。見送りというか野次馬というか。数人の住民が手を振る。


「気を付けろよー!」


少し体を浮かして手を振り返す。


「ありがとー!!」


「ハチ、何その花」


フェタが俺の手の紫陽花を見る。


「貰ったんだ。どっかアレクトにでも飾れないかなと」


「花を?なんで?」


「俺はモテるんだよ」


「えぇ……」


「いちいち否定すんなよ。事実なんだから」


「……カリンの方がモテそう」


フェタの発言に戦車が揺れる。咄嗟に手を付いて前を見る。ホルンがこっちを見てる。


「前見てくれ!頼むから!」


フェタがくすくす笑ってる。キスの事でなんか話した事は知ってるけど、多分カリンを引き合いに出してホルンを煽ったな。それが良いと思う。


平野みたいな住宅地を戦車が走る。時折畑の残骸が出てくる。緑に侵食された公園の背の高い草の上から、僅かに遊具が顔を出す。


小さな橋を渡る。狭い道を進む。虫がいない。鳥の音もしない。人の気配も無い。


「……静かじゃね?」


「ね、気持ち悪い」


「それは言い過ぎだろ」


「ミズキ、粒子は沢山見える?」


ミズキが首を横に振る。


「なんでだと思う?」


「地形の影響はあるんじゃない?ここ海峡とあのコミュニティに挟まれてるし」


「いやでもゼロって」


黙る。戦車の走行音だけがする。俺はデビエゴに聞いたから分かってる。これは何も原発が理由じゃない。はず。


分かっているのに、それが頭に過ぎる。ダメなことなのに疑う。それは多分、俺がそうじゃないと言い切りたいだけだ。

どっちでもいい。蓋を開けてみる必要がある。もしもそうでも、これから何とかすればいい。


「まぁ、植物がちゃんと生きてるし、それじゃないでしょ」


フェタが周りを見ながら言う。


「別の理由?」


「かもしれないって話だけど、まぁよっぽど動物が居ない理由は別ね」


「詳しいんだな」


「私別に、それなりに教育受けてから終末来たし」


「そうなのか?いくつ?」


「25」


それは……ゼットとアルファどっちだ?いや、そんな事より歳上なのかよ。


「まじ?」


「そういう反応する男が、本当にモテてる訳?」


戦車が急に停まる。俺はすぐに掴まれたが、フェタが飛んでいきそうになり思わず手を取った。すぐに振りほどかれる。


「何!?」


ホルンの視線の先、白い何かが光に反射した。鱗だ。その上から細い蔓が伸びている。

ホルンが戦車から降りる、3人で黙ってついて行く。


「ホルン、ひとついいか?」


「あんたのひとつって、ひとつじゃないよね」


「カリンを見つけて、どうやって引き戻すんだ?またミズキか?」


多分ホルンはそれを嫌がる。他の作戦があると思うが。


「決めてない」


なんじゃそりゃ。そう突っ込もうとするが、とりあえず黙る。白鱗を追って、住宅街の小さな隙間を進む。階段を上り、とある一軒家の前に立ち止まった。


中でガサゴソと音がする。足音がした。人間だ。


「……行くよ」


ホルンがドアに手をかける。すんなり開いた。ゆっくり、足音を立てないように中に入っていく。

ホルンが部屋の前で立ち止まる。俺らも覗く。


カリンが普通に缶詰を開けて飯を食べてた。目が合う。


「あ」


ホルンが飛びかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ