ハチ:実感
戦えた実感がある。とは言っても、フェタが前衛で俺が決め手のコンボなだけ。1人なら間違いなく即死だし、男なのに引き受け手じゃないとは。
体が痛い。怪我じゃない。筋肉痛と言うやつだ。
作業する人を、幼稚園の軒下に座ってじっと見る。時折目が合うがすぐに逸らされる。幼稚園の庭で遊んでた女の子がこっちに来た。紫陽花の花を持っている。
「あげる!」
「……貰えないよ」
女の子が首を傾げる。
「なんで?」
「花ってのは、気になる異性とかにあげる物だろ?」
「そうなの?」
横に来たキョウヤが女の子の前にしゃがむ。
「じゃあおじさんが貰おう」
「やだ!」
キョウヤが唇を尖らせて俺を見る。仕方なく女の子から紫陽花を受け取る。
「かっこよかったよ!」
なんだか見透かされたような気分だ。笑ってみせる。
「当たり前だ!」
「おじさんもかっこいいのに」
女の子と目を合わせる。
「お花、ありがと」
女の子はそのまままた庭に走っていって、他の子に混ざる。キョウヤが変な顔で俺を見る。
「……別に、貰ったからってそういうつもりじゃ」
「分かってる分かってる。気にしなくてもハチはロリコンじゃない」
「そこまで言ってない」
キョウヤが隣に座り、ポケットを探っている。
「ソウジロウとの話はどうだった?」
「最悪だね。もしかしたらもう干渉出来ないかも」
「ホルンのせい?」
「まぁ、そういう言い方も出来る」
「否定しないのかよ……」
「撃たれた事まではホルンのせいじゃないよ?とはいえ、俺のやる事は変わらない。未来で生きる人のために、旧時代の宿題は全て片付けないといけない」
そう言いながら、ポケットから箱を取り出して俺に向けてくる。それを受け取る。
「水質検査キットだ。カリンが向かった北西には、海峡と沈んだとされる原子力発電所がある」
「これで海を調べるの?」
「水を取って薬品を入れて振るだけ。簡単だろ?」
「まぁ、辿り着けるならね」
「君らパーティーなら出来るさ」
「もし、これで汚いってなったら?」
「そうだな……」
キョウヤが顎に手を置く。
「殺してでも、急いで進めないとね」
相変らず悪い顔で笑いながら言う。
「何言ってんだよ」
蓋を開けてみる。容器と袋、説明書が入っている。
「後は?」
「復興用の工具が不足している。まとめておいた」
そう言って追加で紙を受け取る。ネジだけで9種類、それぞれの数値が割り振ってある。それ以外にもびっしりと必要な物が書いてあった。
「まぁ、最重要はカリンだ。これは見つけたら拾ってくる程度の認識でいいよ」
「はーい」
―――
ホルンが戦車のエンジンをかける。助手席にミズキ、荷台に俺とフェタ。見送りというか野次馬というか。数人の住民が手を振る。
「気を付けろよー!」
少し体を浮かして手を振り返す。
「ありがとー!!」
「ハチ、何その花」
フェタが俺の手の紫陽花を見る。
「貰ったんだ。どっかアレクトにでも飾れないかなと」
「花を?なんで?」
「俺はモテるんだよ」
「えぇ……」
「いちいち否定すんなよ。事実なんだから」
「……カリンの方がモテそう」
フェタの発言に戦車が揺れる。咄嗟に手を付いて前を見る。ホルンがこっちを見てる。
「前見てくれ!頼むから!」
フェタがくすくす笑ってる。キスの事でなんか話した事は知ってるけど、多分カリンを引き合いに出してホルンを煽ったな。それが良いと思う。
平野みたいな住宅地を戦車が走る。時折畑の残骸が出てくる。緑に侵食された公園の背の高い草の上から、僅かに遊具が顔を出す。
小さな橋を渡る。狭い道を進む。虫がいない。鳥の音もしない。人の気配も無い。
「……静かじゃね?」
「ね、気持ち悪い」
「それは言い過ぎだろ」
「ミズキ、粒子は沢山見える?」
ミズキが首を横に振る。
「なんでだと思う?」
「地形の影響はあるんじゃない?ここ海峡とあのコミュニティに挟まれてるし」
「いやでもゼロって」
黙る。戦車の走行音だけがする。俺はデビエゴに聞いたから分かってる。これは何も原発が理由じゃない。はず。
分かっているのに、それが頭に過ぎる。ダメなことなのに疑う。それは多分、俺がそうじゃないと言い切りたいだけだ。
どっちでもいい。蓋を開けてみる必要がある。もしもそうでも、これから何とかすればいい。
「まぁ、植物がちゃんと生きてるし、それじゃないでしょ」
フェタが周りを見ながら言う。
「別の理由?」
「かもしれないって話だけど、まぁよっぽど動物が居ない理由は別ね」
「詳しいんだな」
「私別に、それなりに教育受けてから終末来たし」
「そうなのか?いくつ?」
「25」
それは……ゼットとアルファどっちだ?いや、そんな事より歳上なのかよ。
「まじ?」
「そういう反応する男が、本当にモテてる訳?」
戦車が急に停まる。俺はすぐに掴まれたが、フェタが飛んでいきそうになり思わず手を取った。すぐに振りほどかれる。
「何!?」
ホルンの視線の先、白い何かが光に反射した。鱗だ。その上から細い蔓が伸びている。
ホルンが戦車から降りる、3人で黙ってついて行く。
「ホルン、ひとついいか?」
「あんたのひとつって、ひとつじゃないよね」
「カリンを見つけて、どうやって引き戻すんだ?またミズキか?」
多分ホルンはそれを嫌がる。他の作戦があると思うが。
「決めてない」
なんじゃそりゃ。そう突っ込もうとするが、とりあえず黙る。白鱗を追って、住宅街の小さな隙間を進む。階段を上り、とある一軒家の前に立ち止まった。
中でガサゴソと音がする。足音がした。人間だ。
「……行くよ」
ホルンがドアに手をかける。すんなり開いた。ゆっくり、足音を立てないように中に入っていく。
ホルンが部屋の前で立ち止まる。俺らも覗く。
カリンが普通に缶詰を開けて飯を食べてた。目が合う。
「あ」
ホルンが飛びかかった。




