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終末後遺症  作者: Anzsake
7/19

価値

東京の北部からだと、その白い塔はうっすらと見えた。どこよりもビルは高く、どこよりも緑の茂る東の旧市街は、とにかく幻想的で、立ち止まってはシャッターを切った。


その集団を見て杖を構える。彼らの雄弁な武装に比べたら、鉄パイプを削っただけの俺の杖は酷く貧弱だった。

その黄色いジャケットを羽織った集団は武器を構えることなく、手を上げて俺の方に近づいてくる。


『俺らは東旧市街の専属回収員です。良ければコミュニティまで案内しますよ』


その集団について行く。初めから塔を見ればすぐわかるが、紛らわしい道のりに対しても、彼らはスムーズだった。


たどり着いたそこは、人口こそ多くは無いが、畑も肉も豊富にあり、人が豊かに暮らす、まさに楽園だった。

特に、硬貨を持ち合わせていない俺にも、彼らは気にせず飯を恵んでくれた。正直言って、ここに住みたい。そう思ったくらいだ。


肝心の白い塔。東京の海沿いにそびえるそれは、スカイツリーの倍程の高さまであった。

近くで見るとわかったが、かなりでこぼこしている。ふと目線の先に、人の手の形の凹凸が見えて腰を抜かす。それ以外にも、虫の形の凹凸も見えた。

 

中への入口は普通に空いている。キョロキョロと周りを見渡すが、俺を気にする人は誰も居ない。中に踏み入れると、自分の足音が妙に響く。一本道を歩ききった時、日の差す少し広い部屋に出た。脇に花畑が広がり、その真ん中には少し大きな石がある。


花畑を手入れしている、少し背の低い男が俺を見た。


『旅人か』


『そんなとこさ』


手を止めた男が歩み寄る。一見すればどこにでも居そうな男だが、その佇まいはただならない物を感じた。


『……あんたが、これを作ったのか?』


『まさか。僕は引き継いだだけだよ』


『あんたが……ベゴニアか?』


男は不思議そうに眉を顰めながら、小さく笑った。


『そうか。噂になる程、世間は広くなれたのか』


―――


語り終えたかのような顔をして、ハチが天を仰ぐ。


「なんで住まなかったの?」


「あれで終わりじゃない。そう思ったんだ。伝説はたしかにあった。だがなんというか、完成では無いんじゃないかってね」


「意味わからん」


「それに、どうもあそこに住む権利を、俺は持っていない気がしたんだ」


「権利?」


「東京を取り戻した道のりを共に歩んだ者だけが、あそこに住んでいいような気がしてな」


カリンと見合う。私とカリンが着ているジャケットは、その回収員のもので、たしかにあの時、私たちはそこに居た。

でも正直、東京を取り戻そうとか、そんな目的で動いていたかと言われるとそんなことは無い。


「だから俺は、ホルンがそのジャケットを着ているのを町で見た時は驚いたよ」


「なぁ、そういう噂?ってのは、誰が流してるんだ?」


カリンがハチに尋ねる。


「さぁ?どこからともなく流れてきたな」


座ったままのミズキが目だけを動かす。もしかしたら、私たちのように、東の旧市街から離れて生活している人がいるのかもしれない。


「まぁ、そのうち会えるかもね」


私の考えを読み取ったのか、カリンが言いながら立つ。


「その為にも、動く準備をしないと」


「待ってました!さぁ旅の再開だ!」


「私も行くの?」


ミズキがカリンを見る。カリンが困ったように笑う。


「えーっと」


そもそもこの子はなんなんだ。突然居て呪いの話をした以外の事が分からない。


「好きにすれば?」


何も言わないミズキを睨む。


「おいおい、何が気に食わないんだよ?」


「別に。言葉通り、ミズキの好きにすればいいだけ」


「ま、まぁ。どっちにしてもここに置いては行けないし、1度コミュニティで買い出しに行くし、そこまでは一緒に行こう」


「分かった」


ミズキが小さく頷く。カリンがミズキに優しくする理由が分からない。

 

カバンに荷物をまとめて、戦車の荷台を少し空ける。前方にある操縦席は本来3人用だが、荷物を積んでるから2人しか乗れない。荷台部分なら人は乗れる。


運転席に乗り込んでエンジンをかける。助手席に乗ってこようとするハチに漫画を投げつける。


「あんたは後ろ」


「ケチ」


ここはカリンの席。そう思ってたのに、カリンは荷台に飛び乗った。思わずそちらを見る。カリンは当然かのように席を整える。

ハチはカリンが後ろに行ったのを見て同じく後ろに行った。ぎこちなく足をかけて乗り込む。

残った私の隣、助手席には案の定ミズキが乗った。


「柔らかい……」


キョロキョロと見回した後、私を見て首だけで会釈する。

自分がイライラしている理由がイマイチ分からない。機嫌が悪いと母に似る自分が、あまり好きではない。


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