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終末後遺症  作者: Anzsake
6/21

呪い

「触っていい?」


「ダメ」


「もっかい見せて」


「嫌だ」


「じゃあ、教えて」


「……いつか」


ハチがカリンの後ろをウロウロする。楽しそうなハチとは反対に、カリンは嫌そうだ。


「ちらっとしか見えなかったんだ。マフラーが特殊なのか?先から見えた鋭いものは?」


「治療しなくていいの?」


「良い」


「良くない」


ハチを座らせて、開いた傷を治療する。横に座る女の子がじっと見ている。


「ねぇ、名前は?」


「ミズキ」


「ミズキは、本当に広島から来たの?」


「うん。そうだよ」


ミズキは辺りを見渡して警戒こそしているが、さっきよりもはっきり話す。


「……化け物に狙われなかったと」


「うん。さっきのホルンちゃんと同じ呪い」


大人しく座っていたハチが首だけ振り返る。


「そうだ!それも気になっていたんだ。ホルン、君はあれだけ近くに居たのに、何の抵抗もされずナイフを刺せたな」


「あんたは黙ってて」


私は、カリンやミズキとは違う。だから、カリンから一時的に、適合者の力を借りる。

そうすれば、一時的に虫喰いには狙われない。


「化け物も、虫喰いと同じになったか」


「どういうこと?」


「……私とミズキだけなら、何事もなくあの海峡を超えられるかもしれないって事」


またハチが振り返る。


「つまりどういう事だ!?俺は置いてきぼりか?」


「別にやらないよ。私だけ行っても意味無いから」


「ってか、なんで西に行くんだ?」


ハチがカリンを見る。カリンは少し言葉を選ぶように手を口に当てる。


「妹を追いかけてる」


「妹?」


「うん、追いつけるかは分からない。でも、追いかけたい」


「妹は西に居るのか?」


「ううん。上」


カリンが上を指さす。ハチが見上げる。木々の向こうに青い空が広がっている。どれくらいの高さがあるのか、時折考えてみても答えは出ない。雲ですら、全く届く気配はしないのに。


「……死んだのか?」


「分からない。それを確かめたい。その為に、上に行ける場所を探してる」


「……それが、種子島?」


「そう聞いてる」


カリンが立ち上がって家に入る。


「お前らは東京から来たんだよな?」


「そう」

 

数年前、東の旧市街は、虫喰いと虫の巣窟だった。胞子の充満するその土地を求めて色んな人が入っては死んだ。

私たち元回収員もそのひとつ。


「ハチ、あんた東の旧市街に行ったんだってね」


「あぁ、あそこはすごいな。ビルを覆う緑、退廃的で幻想的な街に、天に伸びる白い塔。そこに住まう人達」


「ベゴニアさんとは会った?」


「あぁ、その白い塔の管理人みたいな人だろ?あの塔はなんだ?」


「あそこは、かつて私たちが取り戻した土地。そしてあの塔は、虫喰いとカリンの妹が宙に消える為の発射場」


ここから東を見ても、その塔は見えない。ただ生い茂る緑と、その向こうの山。


「ロケット発射場を見れば、妹に近づける。カリンはそう思ってる」


ハチが返事をしない。首だけを動かしている。


「ロケット発射場自体は、他にもあるだろ?」


「他は種子島の手前、それかずっと北。本当はもうひとつあったけど、海峡に飲まれて無くなったって聞いてる」


「ねぇ」


ミズキが東を見ながら言う。


「東には行かないの?」


「うん、喧嘩しちゃったから」


「誰と?」


「ベゴニアさんと」


リズを巡って、カリンとベゴニアさんは戦った。そしてカリンは負けて、リズは宙に消えた。私はベゴニアさんが悪いとは思ってない。リズが行きたいと言ったから。


でもそれじゃ、カリンは救われない。その為に人の道から外れてしまったのに。


カリンが医療箱と水を持ってきて座る。


「カリン」


「ん?」


「化け物、適合者には反応しないって」


「あぁ、この子から聞いた」


「ミズキ」


「ミズキ……そっか」


「カリン、どうする?」


「待ってくれよ。俺も連れてってくれないのか!?」


ハチが騒ぐ。


「いや、まだ行けない。僕は化け物に反応される」


「状況が全く掴めねぇよ。そこだけでも教えてくれないか?」


カリンと見合う。


「僕は、胞子の適合者だ。ミズキもそう」


カリンがミズキを見る。ハチの傷を塞いで手を離す。


「適合者の女性は、虫喰いや大型の化け物には狙われにくくなる。だからミズキは海峡を渡れたんだと思う」


「……男は?」


「男の適合者は別。狙われにくくなる事は無い」


「損じゃん」


「……そうだね。良いことなんて、何もないよ」


カリンが俯く。


「あ。でも、カリンが強いのは、それのおかげか?」


「どうかな?そうなのかもしれない」


「それなら、化け物も倒せるんじゃないのか?」


「多分無理」


「なぁホルン、さっきの話、覚えてるか?」


「どれ」


「少し北の方で、化け物退治で人を集めてるって話だよ」


「いや、それは無しだって」


「でもよ、今例えばお前たちだけが渡れればそれで良いより、今後の人のために、今ここで化け物が倒せるならそっちの方が良くないか?」


「人のため……」


カリンが固まる。右手で鼻を掻く。


「簡単に言うね。自分じゃ出来ないくせに」


「まぁ……結局は、力の無い俺が縋りたいだけなんだけどさ」


カリンが顔を上げた。


「……わかった」


カリンが立ち上がる。


「まじ?」


「……本気?」


「実際、ハチの言う事は正しいよ。沢山人が居るなら、力を使わなくても勝てるかも」


「ちょっと……」


「カリン!俺が全力でフォローするぜ!だからその力教えて」


「……また、そのうち」


カリンは「人の為」って言葉に弱すぎる。きっと、リズのことが足枷になっている。

盛り上がっているのはハチだけで、私もカリンも不安だった。ミズキはよく分からない顔をする。


「……私も行くの?」

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