ホルン:白化
「ちょっと触るよ」
「はい」
キョウヤがフェタの腿の白に触れる。指先で擦ると、ポロポロと粉が落ちる。
部屋の隅に、人の腕の太さ程の白い円盤が落ちている。少し赤が滲んでいて、その下から小さな植物の芽が出ている。
「本当に痛くないのかい?」
「はい」
そう言ってフェタは、自分の脚を動かす。更には普通に立った。
体育座りで俯いたまま、ハチが小さく言う。
「木が刺さってたんだ。多分骨まで行ってた」
「それを治したと」
「……」
「フェタはこの現象を見た事は?」
フェタが首を横に振る。キョウヤが私を見た。
「……まずは運び出そう。駐屯を目指しながら、ホルンに話でも聞こうかな」
「……」
フェタは普通に歩く。ハチは何も言わず、みんなの後を付いてくるだけ。遊歩道を道なりに登っていくと、アスファルトに出た。その後少し南下すると、停めてある戦車と獣の死骸の山に戻ってくる。
運転席に乗り込む。キョウヤ、ハチ、ミズキが後ろだ。大きくため息をつく。キョウヤが私の方を楽しそうに見てくる。
「……条件がある」
「まだ何も言ってないよ」
「聞くのなら、必ずカリンが戻ってこれるようにして」
「無理なら?」
「あんたら全員殺す」
キョウヤはいつもみたいに「はは」と笑い、懐から何かを取り出して戦車の装甲の上に置いた。回転式拳銃だ。
「……は?」
「使う?」
本物なんだろうか。存在は知ってたけど、見るのは初めてだ。集めた火薬の中にあったんだろうか。
「……要らない」
「あっそう?」
「……私だって、見たもの聞いたことしか知らないよ」
そう言いながら戦車のエンジンをかけて北に向かう。
「東京奪還中、カリンの左手からあれが出るってわかったの。指を1本無くす代わりにね」
「今のカリンに指はおろか、腕も無いが?」
「肉の断面を少しだけ使ってるらしいよ。カリンがそう言ってた」
キョウヤは眉を顰めながら手を口に当てる。
「……つまり、指から始まり、あの長さになるまで使い続けたってことかい?」
「東京奪還中に欠損して、肘先から無くなったみたい。そこから使ったのは2回しか見てない」
「みたい?」
「私はその時別行動だったから。次にカリンと会った時は、腕が無くてしっぽが生えてたんだもん」
「……」
キョウヤが黙った数秒の間に、ハチが入ってくる。
「……白い塔、楽園のあれと、同じなんじゃないのか?」
「多分ね」
ハチが口を開けてなにか言おうとしているが、何も聞こえない。
「詳しくなんて知らないよ。白い塔だって、別に私達が建てたんじゃない。奥に進んだら偶々あった。リズちゃんは何か知ってたみたいだけど」
ミズキが小さく反応して、私から視線を逸らした。
「……うーん、参ったな」
「何?殺されたいの?」
「はは、受け入れないとは言ってないさ。今ので確定した事がひとつあるね。東京奪還は人智の及ばない、再現性の無い事象だったって事だ」
「そうね」
カリンがリズちゃんを探してるから私もついて行く。それは間違ってない。でも確かに、そこに辿り着くことがあるのなら、この謎を解き明かす事が出来る気がする。
まぁ、私の場合は「確かめる」に近いか。言えてない事が多すぎる。
駐屯の道を進む。フェタが腿を隠す。テントを建て直す為に色んな人が動いている。数人がこちらを見て手を振り、リオの名前を叫んだ。
奥の方からリオが出てくる。こちらを見て笑った。
「皆さん、ご無事で何よりです」
リオがキョウヤの顔を見上げる。キョウヤは笑って握手を求めた。
「どうも初めまして。俺はキョウヤ。話はすこーし聞いているよリオくん。これからよろしくね」
リオの手を掴んでブンブン振る。初めはぽかんとしてたリオだが、すぐに笑う。
「はい。よろしくお願いいたします」
「俺たちはこのまま、君らの拠点に行きたいんだが、それには通行許可が要るんだったかな?」
「いえ、皆さんの事は承知していますので、このまま進んで貰って大丈夫です。あの、私も乗せて頂けませんか?道案内もそうですが、1度戻りたいので」
「大丈夫だよな?ホルン」
「いいよ」
「ありがとうございます」
戦車に1人増えた。リオが風を受けて髪が跳ねる。少し楽しそうだ。キョウヤがリオに尋ねる。
「そちらの復興は?」
「元よりこちらは、建物にあまり依存しない生活をしているので、立て直し自体は容易です」
「掃除もあるだろ?それに、シェルターは何処を使ったんだい?」
「頑丈な建物をいくつか借りることにしました」
「同じって事か」
山を抜けて平原を走る。道案内される方に戦車を走らせる。
ハチ達が話していた、福井のコミュニティだ。
「ここからは歩きでお願いします。鍵などはあるんですか?」
「あるけど、ぶっ壊して回収されたら無理だよ?」
遠回しに安全か聞いてみる。リオはまた笑って、ポケットから少し大きなシールを取り出す。
「ではこちらを貼っておきましょう」
何やらサインみたいな物と、来賓用と書いたシールを戦車に貼った。ダサい。
「これで何かあった場合は、領主様主導の捜査を行います」
「ふーん」
それにしても虫まみれだ。臭い。キョウヤも鼻を摘む。
「うひゃー。掃除間に合う?これ」
「間に合う、とは?」
「虫喰いに襲われるよ?」
リオの顔が青ざめていく。
「経験した事ないの?」
「えっと、嵐が直撃した事は無いんです……存在はずっと知ってたんですが……」
キョウヤが笑う。
「ま、だから俺たちが来たんだけどね。特にこの子は虫喰い殺しのプロだから」
そう言って私の頭を勝手に撫でる。ウザイ。手で振りほどく。
「あ、ありがとうございます……まずはその、何をすれば」
「虫の死骸を1箇所に集めて燃やす。あとは体液を水で拭いたりかな?」
ミズキの顔も歪み出した。そうだよね。結局こっちに来てもやること同じだなんて。
キョウヤがニヤニヤ笑う。ハチが自分を鼓舞する。




