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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
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カリン:嵐

遥か西の空に、小さな黒点を見た。まだ朝焼けも赤ん坊みたいな柔らかな空に、異物としてのシミが漏れ出ているみたいだ。それがどんどん広がっていく。


走り出したトラックが荒々しく山道を進む。荷台は転けないようにするのに必死だ。


「これ間に合うか!?」


「大丈夫!後40分位だと思う!」


駆け抜けるトラックは後20分程でコミュニティに着く。山道ももうすぐ抜ける。そこで身体が宙に浮く。トラックが急停止した。


ゆるゆると起き上がったフェタが不満をこぼす。


「何?事故った?」


「……おい、なんだよこれ」


フロントガラスを見て息を飲んだ。固まるミズキやフェタを避けて荷台からトラックの上に移る。


道を覆い尽くすように獣が並んで立っている。猪、鹿、狸、熊、狐、その全てにあの虹色の突起物が皮膚から突き出し、そして皆揃って西を向いていた。


何を言うでもなく、こちらを見向きもせず、置物みたいにそこにある。鹿や熊はトラックを突っ込ませて行けるかも分からない。


悩んでる暇は無い。トラックからメイスを取り出して降りる。僕を見てフェタも出てきた。1番手前の熊の頭目掛けて振り下ろす。

鈍い衝撃で熊の頭が抉れる。ゆっくりと僕の方を見た。そして口を開ける。何も言わない。


後ろに跳ぶ。熊が前腕で掴もうとしてきたのを回避する。両手を上げながら熊がゆっくりとこちらに来る。ちゃんと反応した。


メイスを腰に戻してナイフを取り出し、当たりそうな別の獣に投げつける。ナイフが頭に刺さった猪が周りを見渡した後僕を見た。


「フェタ!道にいるこいつらを全員一発殴って!」


「は!?」


猪が僕に向かって突進してくる。迫ってくる熊と距離を取りながら猪の突進を避ける。


フェタが手斧を握りしめ、獣の中に突っ込む。切りつけられた獣は一様に周りを見渡した後僕を見た。

ハチも降りて来て、エアライフルを構える。撃たれた獣も皆僕を見た。


こいつらが西を見ているのは、虫の嵐だからだろうか。道の真ん中で立っているのは、もしかして食べられやすくするためか。

僕に反応するのは、虫の次の宿主を探しているからなのか。


一斉に襲ってくる獣から身を躱し、空いたアスファルトを視界に捉える。駆け出そうとした時、動き出すトラックからハチが飛び出した。


「ハチ!?」


「フェタが山に落ちた!!」


ハチがそのまま山の斜面に入っていく。トラックとハチを交互に見て、トラックに向かって声をあげる。


「先行って!!」


そのままハチの後ろを追う。獣はまだ数体付いてくる。過程が正しいなら使えるかもしれない。

木の間を必死に進むハチ。その奥に微かに見える人影は間違いなくフェタだ。


「何があったの!?」


「獣と追突してた!!」


マフラーを展開する。頭上の木の枝にマフラー引っ掛けて上に進む。後ろの獣は木にぶつかってぐちゃりと音を立てる。登れるほど太い木は殆ど無いけど、山道を足で踏むより速い。


木々の隙間から見える黒点が、少しずつ輪郭を露わにする。大量の飛翔虫がバラバラに、でも同じ進路で飛んでいる。もう10分も無い。トラックは着くだろうか。


ハチを追い抜いてフェタに着く。後ろの獣は殆どが木に激突して動かなくなった。フェタの右脚に木が刺さっている。


「ハチ、何か持ってる?」


ハチが首を横に振る。医療品とかなんて準備してなかった。迫ってくる残りの獣が立ち止まった。虫の羽音が耳に入る。


「ハチ、フェタ背負って」


「……どうするんだよ」


「山を下る。嵐が衝突してもとにかく進んで。僕が目前は全部落とすから」


ハチが気絶しているフェタを背負う。そのまま山を下る。バランスを崩しながらも着実に降りる。どこかの遊歩道に出た時、虫の嵐はすぐ目の前だった。メイスを取り出す。マフラーを頭に巻き付ける。ゆっくりと息を吐いた。


マフラーからしっぽを抜く。中身が抜けたマフラーが肩に落ち、黒く細長い僕のしっぽが顕現する。


「進んで、ハチ」


虫の顔が見える。その瞬間しっぽを叩き下ろす。すぐに戻して構える。上左右から風圧とけたたましい虫の音が響く。山の斜面を横歩きして下る。すぐ後ろにはハチ。守る範囲は半径1.5m程。

 

突きは虫がしっぽにくっつく。叩きはしっぽの反動で次が遅れる。タイミングを見ながら交互に行う。しっぽで捌ききれない虫が目の前に来た。それをメイスで潰す。臭い体液が服に飛び散る。しっぽで捌きつつ、右手でマフラーを持って顔を拭う。

視界を埋め尽くす虫。100では到底収まらない。羽音で方向感覚が狂う。どこかで木の倒れる音がした気がした。口に入った虫の体液を吐き出す。不味い。


虫に明確な敵意は無い。だからと言ってぶつかったら怪我になる。それが何十何百とあれば命の危険もあるし、全く襲われないとも限らない。


ハチの気配を頼りに進む。虫で手一杯で周りはよく見ていない。何歩進んだかも数えていないけど、ハチが声を上げた。


「カリン!いけそうな建物がある!」


「分かった!」


速度をあげるハチに合わせて横に歩く。飛んでくる虫を叩き落とし、地上に降りてこちらに向かってくる虫を突き殺す。視界の端に灰色が移った。ふたりでそこに駆け出す。なんの建物かはよく分からない。窓が多い。割れた窓枠の中に飛び込んだ。


既に虫が何匹が入っている。こちらを見て威嚇してくる。


「ハチ、窓の無い部屋探してきて」


「おう」


フェタを抱え直してハチが駆け出す。もう無差別な虫の突撃は無い。建物内の虫を殺す事自体は別にもう難しくない。

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