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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
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カリン:嫌悪

「重い……」


息を切らしてフェタが嘆く。そこら辺に落ちていた錆びた台車に獣の死骸を乗せ、フェタが押す。僕の腰のアンカーワイヤーを伸ばして台車に括って引く。

もう虹は出ない。意外とちゃんと重い。従来の鹿と体積はあまり変わってないのかもしれない。


フェタの荒い呼吸が聞こえる。少し心配になる。ホルンがフェタに声をかける。


「休憩する?」


「大……丈夫」


駐屯まであと少し。ワイヤーを引く力を強める。僕1人で引こうかとはもう2回聞いた。フェタがやるって言うなら、僕が出来ることはもうこれくらいしか無い。


T字路を右に進み、山道を登る。更にワイヤーを引く。フェタの押す力が明らかに弱くなってる。

何とか登り切るとトラックが見えた。ユスケと話しているのはハチとデビエゴだ。


木の脇に台車を停めているとこちらに気づいたららしい。ハチとデビエゴが歩いてくる。


「よう」


手を振るハチに手を振り返す。横で土に崩れる音がする。フェタが地面に崩れた。ホルンが横に付く。


「……ホルンとカリンって、そのジャケット暑くないの?」


「暑いよ」


「脱がないのか?」


「脱がないね」


愛着が無いわけでも無いけど、それよりもこの生地の硬さに助けられる場面も多い。袖を捲ってしまっているが、ホルンはさっきの事から長袖にしている。


「スミとミズキは?」


「福井に居る。俺たちは向こうの依頼で変な生き物の討伐の為に一旦戻ってきたんだ」


ホルンがフェタを担ぐ。ハチがそれを目で追う。


「……依頼?」


「あぁ、なんでも虹色の変な突起のある獣らしくてな……」


それをやっと視界に入れたハチが固まった。でも僕は今それどころじゃない。


「待って、嵐の対策が先じゃないの?」


「いや待て、それって例の獣じゃねぇか!!?」


「今はそれどころじゃないでしょ」


「そんなことねぇよ!山で獲る肉が不足していて、目撃されてる変な生き物を殺しに来たんだよ!!それじゃん!」


「嵐が来たら元も子も無いでしょ」


ハチが首を傾げる。そっちは既に要塞なのか?デビエゴが口を開く。


「……俺らが聞いてるのは猪だ。こいつとは違う」


複数居るのか。いや、それはそうか。終末種じゃないらしい。


「……そっちの嵐の対策は?」


ハチが真顔になる。


「確定してからだって言ってたぜ?」


ふざけてるのか?じゃあ何のためにわざわざ今ここまで来たんだ?


「……何かあってからじゃ遅いだろ」


ハチを睨む。ハチが手を前で振る。


「いやいや、まぁ俺が決定権が無いのはそうとして、出来ることなんて限られるんだからさ。それに」


「そうやって適当なこと言って人が死んだ時どうするつもりだよ!みんなのせいで死ぬかもしれないのに後回しにして良い訳無いだろ!」


頭を掴まれた。デビエゴだ。


「頭を冷やせ」


「……」


「最近の共同体にとって、嵐は初見じゃない」


「慢心だ」


「全ての手を止めると、来週の空腹に繋がる」


ハチと目が合う。気まずくて目を逸らす。


「その鹿を持っていく。そうすれば依頼が終わる。その後お前の言う対策を講じる。助かった」


「……どうも」


駐屯のテントが少し減っている。少しずつ片付けをているらしい。全く考えてないのは分かるけど、それにしたって遅い。もう今ここに来てもおかしく無いのに。


テントの中に入る。ラジオは相変わらず雑音だ。椅子に座って項垂れているフェタの向かいに座る。


「落ち着いた?」


フェタは小さく頭を縦に動かす。ハチがテントに入ってくる。


「……カリン?」


「何?」


「なんか、ごめん」


声を荒らげたのは僕だし、ハチに責任問題は無い。ただの八つ当たりだった。その上謝られてしまうとは情けない。


「いや……僕こそおかしかった」


「そんな事無いんだろ?俺は嵐に直撃したことは無いけどさ。コミュニティじゃ年に数回あることだって聞いてるからさ」


ハチが横に座る。フェタが少し顔をあげる。


「富士の事?」


一瞬、息が詰まりそうになる。


「……そうかも」


「焼けてたね。それなりに緑に覆われてたけど」


「そっか」


「あそこも、虫の嵐で壊れたって、ホルンが言ってた」


「そうだね」


横のハチが言葉を選んでるのが伝わる。


「カリンの、昔の家?」


「そんなところ。東京奪還って言われる時に住んでた」


色んな人が死んだ。それを直で見た。虫に卵を付けられた死体も、瓦礫に潰された死体も見た。今の人たちが基礎知識があるのは知ってる。東京奪還の前は旧市街周辺のみだった嵐が広がったから、もしかしたら僕らのせいなのかもしれない。


頭に触れる人の手がホルンだと分かる。それを振りほどくように立ち上がる。寄り添われると泣いてしまいそうになるから嫌いだ。


「……ごめん」


ホルンが謝る。謝られるのも嫌いだ。謝罪を受け取れるような人間じゃない。


「今はまだやる事があるから、みんなも頑張ろ」


「お、おう」


僕1人の過ぎた不幸なんてどうでもいい。みんな辛い思いをしてるんだから、今は先の不安を早く取り除かないと。

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