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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
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カリン:虹

窓を開けていると、外から嫌な匂いが入ってくる。僕にも分かるから胞子濃度じゃない。答え合わせをするように、ユスケが鼻をつまむ。


「腐ってんのか?」


荷台の後ろからホルンとフェタが外を覗く。


「フェタ。知ってる?」


「知らない……きもちわる」


ゆっくりと走るトラックの後ろを、極彩色の獣がノロノロと追いかけて来る。日中に見ると、その異様さが際立つ気がする。ユスケがチラリと僕を見る。


「カリン、どうするんだ?」


「……一旦殺そう」


開けた車窓からマフラーを使ってトラックの上に移る。姿勢を低く保ち後ろに行く。

獣はずっと後ろを付けてくる。夏の昼の田舎道を歩くその異物のせいで、この景色全部がおかしいような錯覚を感じてしまう。


右手でコンパウンドボウを持つ。マフラーで矢筒から矢を取り出して振る。縮んでいた矢が伸び、そのまま右手の弓に番える。


マフラーで弦を引く。コンパウンドボウの滑車がキリキリと鳴る。右肩に力を入れつつ矢を放つ。空気を切り裂く音と共に飛んだ矢が、獣の胸から後脚まで貫く。大きな穴が空き、後脚がちぎれる。

声をあげる事も無く崩れる。動きは止まらない。


穴の空いた胸元から虹が見えた。穴を塞いで蠢いている。ちぎれた後脚からも虹が出る。細い虹が断面を繋げてズルズルと戻っていく。4本足で立ち上がった獣が、今度は走って向かってくる。


「ちゃんと死ねよ」


小さく舌打ちをしながら次の矢を取り出す。運転席の方からユスケの声が来る。


「なんじゃありゃ!?」


「寄生虫って言ってなかった!?」


「それは似てる奴の話で、少なくともあんなのじゃないはずだぜ!?知らねぇけど!」


再び矢を番える。今度は頸を狙う。マフラーで矢を引き絞り放つ。鹿の頭の左半分が吹き飛んだそいつは、脚を止める事なく迫ってくる。少しズレた。吹き飛んだ頭の縦半分から、血管みたいに小さな虹がうねうねと覗く。残った右半分の動かない眼がこちらを見ているが、少しずつ左に動いていき、農道の溝に脚を突っ込んで転げた。


身体のバランスが合わず、それを立て直せなかったらしい。左腕の無い僕にとって、その気持ちは良くわかる。


一発目で身体の軸を貫き、2発目で頭を破壊した。それでダメな以上、あれは単一の生物かどうかも怪しい。

核となる部位が無い可能性がある。


どんどんと距離を離していく獣が立ち上がるのを見て、助手席に戻る。


「無理だね」


「無理かぁ」


「追いかけて来るから、このまま付かず離れずで連れていこう」


「コミュニティに行かれても厄介だもんな。了解だぜ」


ユスケが頭を掻きながらアクセルを踏む。サイドミラーで位置を確認する。まだ僕らを追ってきている。


「あんなキモイなら見たら忘れないはずだし、最近産まれた種なのかな」


トラックは山道に入っていく。荒くなる運転に、ホルンとフェタが荷台の手持ちに捕まる。まだ追ってくる。


「駐屯まで引っ張る気か?」


「いいや、その手前で降りるから、ユスケは先行ってて」


「トラックに付いて来ない事を祈るしかねぇか」


「……多分、大丈夫だと思う」


山道を走って30分程度。それは一切疲れを見せない。それなりに道の広い場所に入る。


「……降りるよ。任せた」


「おう、気を付けてな」


「ありがと」


何も言わずにホルンが盾を装備する。フェタも立ち上がる。


「私も行く」


小さく頷く。荷台に移動して扉を開ける。後脚の繋ぎ目や、吹き飛んだ頭からの虹は、さっきよりも大きくなっている。


走るトラックから飛び降りた。すぐに横に走る。ホルンとフェタも同じように散開した。


あれがもし寄生虫ならば、あの色には意味がある。多分何かに見つかりやすくする為か。

人よりも可能性が高いのは、虫や虫喰い。もしそうならば、狙ってくるのは僕だ。


それが立ち止まった。首を動かすでもなく、トラックを追い掛けるでも無く。


そしてそれは、ホルンの方に歩み出した。


ホルンが盾を構える。ゆっくりと歩くそいつに敵意は感じない。なんでホルンなんだ。僕と違ってホルンは普通の人間だ。


キスか?


「後退!!」


声をあげる。ホルンが後ろに跳ぶのと同時に、そいつはバタリと倒れた。呼吸の揺れも無い。まるで初めから動かないおもちゃみたいに、アスファルトの上で固まった。


隙間から覗く虹色はまだ動いている。近寄るべきか。また起き上がるか。分からない。

1本の細長い虹が、獣の外に這い出てきた。それは真っ直ぐホルンに向かっている。おかしい。こっちから歩み寄る。


「ホルン、離れて」


ホルンが大きく後退する。人を襲うのならば、それはフェタの方が近い。でもホルンを襲った。

昨晩も、運転席のユスケじゃなくて僕の方に来た。ホルンにまだ、キスの効果が残っているとして、あいつが虫喰いを選んでるとしたら。


虹色が僕の方に進行方向を変えた。一瞬の制止、飛びかかってきたそれをメイスでたたき落とす。ぴチャリとアスファルトに落ちたそいつが蠢く。靴で踏み潰す。


「……死んだ?」


フェタとホルンが寄ってくる。脚を離した瞬間、それはホルンの方に飛んだ。

盾を構えるのに間に合わず、そいつがホルンの腕に引っ付く。肌を食い破ろうとしたそれに、ホルンが顔を顰めながらナイフを取り出し、腕の肉に突き立てた。


抉ろうとした時、そいつが勝手に離れた。そのまま地面に落ちてのたうち回る。ホルンもそれを踏み潰して、アスファルトに擦り付けるように靴を動かす。


「ホルン、腕は」


「痺れも無い。皮膚だけ食われて離れた」


フェタがなんとも言えない顔をしている。


「……よくノータイムで刺せたね」


「やらなきゃ死ぬかもだし」


ホルンが靴をそっと上げる。虹色は黒く滲んで動かない。

■コンパウンドボウの矢

カリンの装備する矢は、矢柄が伸縮する形になっている。

短縮状態では通常の矢柄の長さだが、延伸状態ではおよそ1.3倍程の長さになる。

マフラーで弦を引くので、通常よりも長く引き絞る事が可能故の調整だ。

一般的な人間用の伸縮型も存在し、そちらは短縮状態はコンパクトにして装弾数を確保する為に用いられる。

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