カリン:色
暗くなった山道をトラックが走らせる。横の闇夜は暗くてよく見えない。正面に付いたライトだけ。
CDを入れたカーステレオの音楽は、アップテンポな楽器を奏でながら、日本語で哀しみを歌っている。運転席のユスケが小気味よく首を振る。
「俺このバンド好きなんだよね。新譜出ないかな」
「出るんですかね」
「冗談なんだから冗談で返してくれよ」
無茶だ。僕にそんな知識は無い。それでも一応考える。
「……CD買いに行かないといけませんね」
「たしかにな。というか多分、出るならCDは古すぎるしな」
絶妙に分からない。音楽そのものは何となく分かるけど、更に深い知識は無い。
エンジンの音が上がる。上り坂を登る。なだらかになってきた頃、トラックが減速し停止した。
理由は明白だった。暗闇の中照らされるライト。その白飛びしたような世界の真ん中、車道に獣が立っている。
鹿だ。おおよそは。それなりの角が生えている。その体皮を突き破るように、虹色の突起が生えている。顔から、首から、体から。
「……あれ、なんだ?」
「……分からない」
その獣は動く事なくこちらをじっと見ている。僕もユスケも同じように、どうすべきか分からず固まる。
「……強行突破するか?」
「待って、退いてくれるならそれでいいのかも」
「クラクションは?」
「他の生き物が寄ってくるのは避けたい」
派手な色の突起は、よく見ると色が少し動いている。獣がゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「お、おい!」
「待って!静かに」
何も情報が無いまま帰りたくない。少しずつ細部が見えてくる。片目の部分からも虹色の突起が小さく出ていて、残った目は全く動いていない。
全身に傷があり、そこから微かなくすんだ肉が見える。血は出ていない。
獣がトラックの目の前に来て、そのまま助手席である僕の方のドアの前に立った。ゆっくりと顔をそちらに向ける。
獣の顔が、窓を隔てたすぐそこにある。呼吸の音がしない。やはり瞳孔が動いてない。こいつは死んでいるのでは無いか?
カーステレオだけが、次の音楽を流し始めた。
ゴン、と角が車体に当たった。その瞬間ユスケがアクセルを踏む。獣の顔が過ぎ去る。窓を開けて後ろを見た。暗闇の中ぼんやりと立っている獣はこちらを見ていたが、すぐに見えなくなった。
「……何なんだあいつ!俺見た事ねぇぞ!?」
「……僕も初めてだ」
車内に戻って窓を閉める。深く座って考える。
「……ゾンビ?」
「かもな!あーキモチワルイ!あれ、もしかして放射能が原因何じゃないのか!?」
「何それ」
「原子力発電所から漏れるかもしれない奴だよ」
「……でもそれなら、他の生物に影響が無さそうなのが引っかかる。特定の生物にのみ反応する物では無いんでしょ?」
「まぁ……それはそうだな。軽薄だったよ」
「上っ面は死んでた。でも中身は生きてるみたいだった。少なくとも肉は動いている」
「……あぁ、寄生虫だ!思い出した!あんなようなのを図鑑で見た事あるぞ!」
「実在する虫なんだ」
「いや、でもそいつは確かカタツムリに寄生する虫だ。鹿にする訳ないしあんな大きさじゃないし……」
「その虫の生態は?なんで虹色なの?」
「確か……鳥に食わせるんだったかな?それ以上は分かんねぇ」
つまり、あいつも何かに食われる為に派手なのか。あの色は食欲湧かないと思うから、人間では無いのかな。
「帰ってキョウヤ辺りに聞くか」
「そうだね。虫の嵐の前に、あれが何なのかは突き止めたい」
「一度戻ってキョウヤとか連れて、また戻る感じかな」
「そうだね。ホルン達はもう帰ってるかな?」
「どうかな。明日の昼とか言ってなかったか?」
「そうだったかも」
夜道を走る。ユスケは両手でしっかりとハンドルを握る。気になってしまい窓を開けて、トラックの上に動く。足を引っ掛けて落ちないようにし、胸元のライトを付けた。
後ろから追ってきたりはしてない。少なくともあいつは、車の中に生き物が居る事が分かったから、視力はある。そして、助手席の僕の方に来た。角で叩いた。
僕なのか、それとも適合の方か。夜はダメだな。暗いと分からない。分からないと不安を煽られる。また車の中に戻る。




