表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
59/79

ミズキ:雨と傷の名前

ベッドで寝ているスミさんのガーゼをゆっくり剥がす。赤く滲んだそれの端を指でつまんでくずかごに入れる。


「無理しなくてもいいんですよ」


多分、顔に出てた。頬を触ろうとして止める。顔は汚い。


「大丈夫、です」


全然大丈夫じゃない。


「ありがとうございます」


馬鹿みたい。呪われてる癖に、こんな事で生きる理由にしちゃって。何がしたいんだろ。私。みんなは何をもって、生きる理由にしてるんだろ。


リオさんから受け取った新しいガーゼを、スミさんの患部にそっと張る。腹部の弾痕は、内臓の影響は少ない。らしい。男性の身体って、固くて大きいな。私も男なら、強くいられたかな。


スミさんの身体に触れてしまった指先から、小さな痛覚が身体に広がる。まただ。必死に目を開こうとするのに、瞼が言うことを聞かずに落ちる。


██ ██


静かな雨の中、無人の国道を3人が歩く。服装はバラバラ。髪型も違う。笑いあって石を蹴る。


「そしたらその女、急に泣き出してさ!それでゾンビが来る訳よ」


「で?どうしたん?」


「そりゃあ、置いて逃げたさ」


「可愛かった?」


「おう、ゾンビで見かけたりしねぇかな」


「もう腐ってるって」


傘もささず、何も恐れず、3人は歩く。1人が指を指した先の建物に入っていく。様々な品が売られていたであろうそこは、すっかり空っぽになってしまって荒れていた。


「ちぇ、少しくらい置いといてくれよな」


「どうせ、どっかに大量に保管してるっしょ」


「裏見る?」


「見よ見よ」


扉を開けてバックヤードに入る。棚や引き出しの箱を漁っては、これでもないと呟いて投げ捨てる。


「お、あったぞ!」


1人が取り出した箱には、いっぱいの缶詰が入っていた。


「消費期限いつよ?」


「今年。ギリ!」


「セーフ」


缶詰を開けて中身を貪る。最低で下世話な話で盛り上がる。


「こんな不謹慎な話、誰かに聞かれたら殺されちまうよ」


「無い無い、居ない居ない」


「本当に、再開出来たのが奇跡だよ。俺ら」


「……そうだな」


3人とも真顔になり、雨の落ちる音だけがどこかで鳴る。


「……寒いな」


「濡れたからだろ」


「タオルかなんか探そうぜ」


立ち上がり、別行動で建物内をうろつく。声を張り上げながら会話する。


「なぁ!次どこ行く!?」


「知らね!地図とか無い訳!?」


「お前読めるの!?」


「全然!!」


「タオル見っけ!」


2人が合流する。


「あれ、恭弥は?」


「おーい!どこ行った!?」


もう1人が真剣な顔で顔を出した。


「……人居た」


そいつの案内で建物を進む。バックヤードの階段の下、ダンボールで作られた床に、子供が1人座っていた。


「ガキじゃねぇか」


「生きてる?」


「お、瞬きした。おーい」


子供の前で手を振る。子供は無表情のまま瞬きだけを繰り返す。


「言葉通じねぇの?」


「何歳くらい?」


「見たとこ5歳とか?」


「いやいや、パンデミックで3歳はもう死んでるって」


会話が途切れる。雨の音が止んだ。1人がしゃがんで子供を見る。


「名前は?」


返事はない。


「いつから1人?」


返事は無い。


「あーダメだな。ママが近くにいるのか?」


なんの言葉に反応したのか、子供は無表情のまま涙だけを流した。何も言えない中、1人が動く。


「タオル、貸して」


「おう」


そいつが子供にタオルを掛けた。


「なぁ、俺たちと一緒に来ないか?」


「は?マジかよお前」


「どうせみんな、なーんも持ってないんだ。いつ死ぬか分かんねぇしさ。一緒に楽しいことしようぜ?」


返事は無い。ただ静かに瞬きを2回した。それを見て、話しかけた男は笑う。


「俺の名前は鷲見 恭弥。覚えたか?」


返事は無い。ただ静かに、また瞬きを2回した。


「そうか……辛かったな。大丈夫。もう声、出していいぞ」


「……うん」


男が頭を撫でる。その雫が落ちる音はしなかった。男の膝に落ちたからだ。


男3人と少年1人は廃墟を出る。雨上がりの中、ふらつきながらも歩く少年を支える。

 

―――


やっと言うことを聞いた瞼を開ける。何秒だったのだろう。いつも時間の感覚が狂う。スミさんが自分で服を着終えた所だから、多分5秒。


「……どうかされましたか?」


「あ、いえ……大丈夫、です」


スミさんが訝しんだ顔をする。目を合わせるのが怖い。


「何か、見たのですか?」


「ご、ごめんなさい……」


スミさんが動いて、思わずまた目を閉じる。殴られない。小さく息を吐く音がして、ベッドが小さく鳴った。

目を開けると、何事も無かったようにスミさんが横になっている。


「何を見たのですか?」


「えっと……子供と、雨と」


「鷲見 恭弥」


「……はい」


やってしまった。いつもこうだ。目を閉じたまま、スミさんが口を開く。


「子供は死にました。よくある話です。鷲見 恭弥も死にました。こちらもよくある話です」


「……え?」


「もういいでしょう。誰もが持っている故人への感情は、あまり詮索する物ではありません」


分かってる。別に聞いてないし。それで痛い思いも何回だってしたし。


鷲見 恭弥と名乗る男の人は、キョウヤさんとは別人だった。

後ろに居た男性2人が、多分キョウヤさんとスミさんだ。

2人は、その鷲見 恭弥という故人の名前を分割して、自分たちが名乗っている。そういうことだろうか。なんで?


『あんたに何が分かるって言うのよ!!』


分かる訳ないじゃん。教えてくれない癖に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ