ハチ:原子力発電所
汗を拭く。服を着替えたい。そんな事お構いなしに、部屋に集められる。
俺。ソウジロウ。リオ。そしてデビエゴ。
スミは病床、ミズキは看病やコミュニティの手伝い。俺は?いや嬉しいけど。
こちら側に3人。向かいにデビエゴ。なんだこの並びは。深く座るソウジロウが切り出す。
「さてと、それならお前さんの話を聞かせてくれ。原子力発電所の」
デビエゴは顔色を変えず、姿勢もそのままで静かに口を開く。
「……先に言うと、今の原子力発電所に危険は無い。ただしこの先、劣化が進めば放射能の影響は無視できない」
「端的に言い過ぎだ。俺らがそんなに賢く見えるか?」
ソウジロウが苛立っているのが分かる。まぁ確かに、賢そうな顔はしてない。別に卑下して無い。聡明だろうなとは思うが、スミとかの方が賢そうではある。
「パンデミック発生時、全国の原子力発電所に一斉に通知が飛ばされた。内容は残酷極まりない話だったが、誰も文句は言わなかった」
「なんと?」
「死んでも止めろ」
「シンプルだな」
「ソウジロウは知らないのか?」
ソウジロウに聞いてみる。
「内側から溶接していたのは俺も知っている。見たからな。で、なんでお前がそれを知っているんだ?」
ソウジロウがデビエゴを睨む。デビエゴは淡々と返す。
「全員が閉じこもってしまっては、それを受け継ぐ人間が居なくなる。俺はジャンケンで負けてしまった結果、仲間と最期の使命を果たすことなく、外の世界に放り出された」
ソウジロウが真顔になる。俺も口角が下がる勢いだ。
「……そうか、それはすまなかった」
ソウジロウが謝る。デビエゴは無視して話を続ける。
「原子力発電所は、通常1週間から2週間で冷温状態。ある程度人の手が加わらなくても良い状態になる。パンデミックでは余剰電力があり、全ての設備がこれを成したとされている」
されている、か。
「でも、俺らの土地の原発は海峡に沈んだ、と」
「そこは大した問題では無い」
「そんな訳無くね?」
反射的に合いの手を入れる。無視される。
「正常に停止した状態ならば、ある程度の浸水は耐える」
「ある程度」
デビエゴの言葉には、常に確証が無い言葉が付く。
「当然ながら、建造物は劣化していく。もぬけの殻の廃墟とは訳が違う。原子力発電所は封印して終わりじゃない。劣化して中の核廃棄物が漏れた時が、お前達の言う終わりだ」
「核廃棄物?」
「強い放射能を発する物質だ。冷温状態になるのは早いが、これは100年経っても変わらない」
「ヤバ。なんでそんなの使ってんの?」
「それくらいデケェエネルギーを出すって事だろ?そして旧時代は、それだけのエネルギーが必要な環境だったって事だ」
ソウジロウが説明してくれる。デビエゴが頷く。100年って、どんなもんだ?
「俺から言える事は以上だ。それを放置する事で起きる被害は、お前たちだけで収まらない可能性は十分にあると、そう理解した上で鎖国するのなら好きにしろ」
「随分投げやりだな」
デビエゴが俺を睨む。
「本気で受け継ぐべき世界かどうか。俺はまだ懐疑的だ。だから好きにしろ」
デビエゴが立ち上がって部屋を出ていった。それを黙って見送る。ソウジロウがズルズルとソファに沈む。
「厄介なもんだな」
「知らねぇよ、とは言えないな。俺たちアルファも少し位は囓った側だし」
「そんな事無い。俺たちの責任だ」
「ソウジロウ何歳だよ」
「28」
「……パンデミックの時18じゃん。ソウジロウも大概だろ」
「どこの連中がゼットだアルファだ言い出したかは知らないが、そう呼ばれるのならそうするしか無い。少なくともハチよりは、電気製品を使って生きてきた」
そういえば、年上もあんまり居ないな。老人は見た事無いかも。ここは何の発電所を再利用しているんだろうか。アジサイってのは、どんな人だったんだろうか。1歩進むと3つ位気になってしまうな。




