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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
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ハチ:貰ってばかり

その白い塔の中で、ベゴニアさんはただ花を手入れしていた。穴ぼこの隙間から漏れる日差し、海も見える。どこまでも上に続く壁の先に微かに見える丸い穴。ぼんやりと明るいけれど暗い。通気性は意外と良いけど、花を育てるには不向きでは無いか。

腰を抑えて伸ばすベゴニアさんに声を掛ける。


『なぁおっさん』


『どうした』


『なんで花なんて育ててるんだ?』


『やりたいから』


『そりゃあそうだろうけどよ。畑はいいのか?』


『流石にそっちが優先だよ。これは趣味』


俺のイメージしていた伝説のベゴニアとはかけ離れすぎていて、何となくおっさんと呼んでいる。でももう、ここを出る事にしているから、挨拶がてら寄った。

無機質で何も無い広間の真ん中にある石の前に咲いているのは向日葵だ。それは俺もわかる。その広間の外周に、丁寧に並んだ花壇。ひとつは紫陽花だ。これも分かる。あとは分からない。


『なぁおっさん。この花なんて名前なんだ?』


『真ん中が向日葵、こっちから、桔梗、秋海棠、百日草、紫陽花、千手菊、露草、緋衣草だな』


『そんなややこしい名前なの?』


『名前も色々だな。カタカナもある』


『じゃあそっちで教えてくれよ』


花を見たベゴニアさんの顔は、少しだけ遠くを見るような感じだった。ゆっくりと順番に言っていく。


『ヒマワリ。キキョウ。ベゴニア。ジニア。アジサイ。マリーゴールド。ツユクサ。サルビア』


ベゴニア。あの赤い花はベゴニアって言うのか。この人の名前って花の名前なんだ。


『……他の人が居たの?』


『呼んでこようか?』


『いや、いい』


どうせ、8人も居ないんだろうな。ベゴニアさんが汚い机の上にある小さな袋を持ってきた。中には色んな粒が入っている。


『なにこれ』


『旅のお土産。ここだって所に植えてくれよ。行くんだろ?』


『どこだよそれ』


『それはお前が決めてくれ』


『……ありがと』


袋を受け取る。ベゴニアさんは腰を伸ばして座った。すこし広間を歩く。花の匂いが香ばしい。塔と同じ素材の床を下駄でカラカラと鳴らす。真ん中の石の裏に、掘られて土を敷いてあった。


『ここ、何植えてあるの?』


『まだ植えてない』


多分、植える物は決まってるんだろうな。


『俺が探してこようか?』


『気にしなくていい。いつか巡り会う時で良い』


そうベゴニアさんは、また遠くを見ながら、声を出して立ち上がる。


『見送るよ』


『いやいいよ。腰痛いんだろ?じっとしてなって』


『動かない方が痛い』


2人で歩いて塔を出る。青空を突き抜けるような高い高い塔は、いつ見ても不気味で、荘厳で、意味が分からない。

海風が当たる。気持ちいいけど潮臭い。


『旅人が来る度にこんなことしてるのか?』


『種は渡してる』


『伝説の男のやる事が庭師とは』


そもそも伝説なのに普通に話せてるな。まぁいいか。振り返る。


「じゃ、またな」


カリンに手を振る。今のはちょっと記憶に引っ張られたな。森の中のトラックに手をかけたカリンが、振り向いて頷く。


「うん、気をつけて」


カリンとユスケは1度コミュニティに帰る。俺とスミとミズキとデビエゴは、技術継承をしながらリオが本拠点との連絡を終えるのを待つ。寂しい。でもまぁ、あくまで別行動だ。


夕暮れの中トラックが見えなくなる。テントに戻る。カリンのしっぽを無闇に色んな人には見せられない。そういうスミの考えだ。俺も何となく受け入れているが、カリンも適合者なんだよな。ミズキやリオとは違うのか?

スミは机でバッテリーを分解している。その横でラジオが、延々と雑音を鳴らす。それを複数人で囲んでいる。

複雑なパーツだなぁとぼんやり見る。横で軍服の人が紙にパーツを描いていく。


「これ、スミが作ったの?」


「創造は私では無いです」


「誰?」


「設計思想は京都のラジオで。このバッテリーと刀を組んだのはキョウヤです」


あの「悪そう」が。へぇ。


「カリンも刀知ってるみたいだったな」


「そうみたいですね。キョウヤに聞ければ、何か教えてくれそうですけど」


聞け「れ」ば?引っかかった。


「聞けばいいじゃん」


「私は興味ないので」


並べられたパーツをまじまじと見る。絶賛模写中の男に声を掛ける。


「分かるの?」


「全然」


「パーツの役割や素材については、これから教えますよ。見ますか?」


「もちろん。俺もいつか刀振りたいし」


適当言っているが、作れる気は全くしない。スミが小さく笑う。


「所で、なんで俺達まで残る必要があるんだ?」


スミは分かる。ミズキはどうだろうか。少なくとも俺に役割は無い。悲しいことに。


「寂しいじゃないですか」


「そんなこと言うんだ……」


「冗談ですよ。でも私はあなたのこと、お気に入りなんですよ。物分りが良く、知識欲もある」


褒められた。悪い気はしない。


「俺はマスコットってこと?」


「キョウヤ程では無いにしろ、私も何か、次世代に託していく必要があります。それが物であれ、知識であれ、受け取ってくれる人が必要なんです」


スミにとって、それが俺なのか。


「じゃあ、刀くれるのか?」


適当に言う。スミが笑う。


「十分な研鑽を積んだと判断すれば、前向きに検討しましょう」


「言ったな?嘘だったらゴネるからな!?」


スミが手際よく、でも分かるようにゆっくりとバッテリーを組み立てていく。最後のパーツがパチリとハマるのを見ると、なんだか気持ちよさすらある。


隣の男が模写をする静寂の中、ラジオのノイズが少し揺れた。ペンの音が止まる。

ラジオが何か喋った。スミがツマミを回して音を上げる。


上手く聞き取れない。不安定すぎる。それでも、よく聞く女の人の声が、何か話している。

ついに声が止み、再びノイズだけがテントの中に響く。スミが音量を落とす。


「吉兆ですね」


「どこが」


「少なくとも生きている」


隣の男がペンを取る。


「あまり良い感じはしないですけど」


「向こうが何かで荒れている事は確定ですね」


それが虫の嵐。100%そうだと言い切れるのかはさておき、そう見て動くべきだと言うのは間違いないか。不安だなぁ。

■電撃駆動武器

電力を用いて変形、威力増強などを行う武装。及びそれに用いられるバッテリーを指す。

武装ごとの差異は大きいが、バッテリーについては資材問題がありながら、設計思想故に似通った点が多い。

多くは電池式であり、使用済みの専用電池は自動的に排莢される。

東京奪還の伝聞から伝わった「魔法のような戦い方」を、限られた技術と資材でどう再現するか。その試行錯誤の果てに生まれた武装群である。

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