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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
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ハチ:特別な人達

過去最高の過去をなぞる。未来永劫の未来を憂う。

明けない夜の理由を探す。やまない雨で何が出来るか。

誰か教えてくれないか。その誰かで失敗したから。

地図に書き記したはずの青を、今も忘れていないつもりで。向かう先はどうせ、これから真っ赤に染めるだけ。

いつか必ずって、お前みたいな嘘つきのせいだ。

向かいの席にリオと軍服数人。こっち側の席には俺ら。ぶっちゃけ俺が座ってる意味は無いと思っている。なんならスミひとりで話し合っても全く問題は無い。リオが頭を下げる。


「この度は本当にありがとうございます。この被害に抑えられたのは皆様のおかげです」


そんなことは無い。ほぼカリンだ。見惚れる隙すら無かった。空を覆う天の川のような虫から、流星みたいに零れ落ちて来る虫。流石にそれは綺麗に例えすぎか。

チラリと横を見る度に増えていく、腹を潰されてもがく虫の死骸を数えたら39匹だった。カリンは少なすぎると言った。そう言えるだけの過去と経験が、カリンにはある。


あれが「主人公」なんだろうな。


「虫の出処についての調査は?」


「西側から海峡までに、発生源は見当たりませんでした。また、海峡にて死骸が浮いていた事から推察するに……」


「向こうから来た」


「あいつら、海渡れるの?」


思わず聞いてしまう。


「海峡の東西は距離30km程です。あの虫の飛翔力ならギリギリかと」


ユスケが水を飲みながら言う。


「まぁ海峡なんて名ばかりで、ただのでかい川だし」


30km。どう測ったんだろうなと考えてみるが、地図からおおよそは出せるか。距離感覚を数字で測ってないから、どれくらいかかるか分からない。


「30kmって、歩いて何日?」


リオが上を見ながら考える。


「えーっと、大体10時間位ですかね?」


それをひとっ飛びかぁ。


「やばぁ。羨まし」


デビエゴが呆れた目で俺を見る。リオが笑う。


「京都側のラジオの静寂も、何か関係ありそうですね」


「そうですね。いちばん考えられるのは、やはり虫の嵐かと」


虫の嵐。大量の群れの移動の事。胞子濃度に引き寄せられるとか何とか。

直接当たった事は1度もない。多分当たってたら死んでる。


「そんなやばいの?」


「規模に寄りますが、仮に京都で虫の嵐があるなら、あれの5倍以上はあると見ていいでしょう。つまりあれはおこぼれです」


「……そんな?」


「フェタの話からの推測ですが、そこまで軟な拠点では無いそうなので、それの静寂というのはそういうことでしょう」


「……つまり京都が崩壊!!?」


「それはどうでしょう。ラジオの復活を待つしか無いですね」


「てか、そもそもこっちから声飛ばせねぇの?」


「施設を復旧すれば。やりますか?」


「え?いや、任せるよ」


そもそも原理もよく知らない。施設がどこかも知らない。容易くやろうぜなんて言えない。


「てか、京都側がもし討伐中止とか言い出したら、どうすんの?」


スミが悪そうに笑う。ちょっとかっこいいんだよな。


「大阪も攻略して、我々がモーセになりますかね」


「モーセ?」


「歴史の人物ですよ」


出た。どうしてゼット世代は、こう昔の誰かで例えるんだ。そのモーセって奴は、海を渡った人なのか。それなら俺たちと何も変わらないな。親近感すら湧いてきた。


「あ、あの……」


ミズキが静かに手を挙げる。みんながそちらを見る。


「え、えっと……海の向こうの事、分かるかもしれません」


マジか


「マジか」


「どうやって?」


「もう少しだけ、西に行ってみれば……多分ですけど」


ミズキって、そんなすげぇのかぁ。


―――


ついさっきトラックを止めた土砂まで歩いて来る。ユスケが見上げながら言う。


「確かに歩けば渡れるな」


足場になりそうな場所を選びながら進む。特別固くない所だと、踏んだ場所が崩れて危ない。カリンとスミはなんの抵抗も無く進みやがる。


「なんでそんな進めんの?」


「経験を積めば、何となくどこが行けそうかは分かる物ですよ」


「積まねぇの普通。こういう道は回れ右するの」


終末だからって、普通はそこまで無法に歩かない。はずだ。現にミズキがいちばん遅い。話が本当なら、ミズキが一番旅慣れてるはずだ。

土砂を越えて道を進む。隣には水溜まりがある。


「これは海峡じゃねぇの?」


「ここは海峡とは繋がっていない湖ですよ」


リオが息を整えながら言う。道は比較的綺麗だ。この先にさっきの虫のおこぼれ集団が居るらしい。駆除ついでに捕獲し、ミズキの力?を使ってみようとの事。

カリンとスミのあの戦力を見せられると、なんかなんでも出来るような気がしてくるのは分かる。その虫が虫喰いにやられてない限りは。


「……居た」


湖のほとりの廃墟に虫が溜まっている。室内に入り込んでたり、壁に張り付いてたり。

リオが1歩下がる。


「武装等の倉庫に使っている建物です。土砂の影響でしばらく触ってませんが、破壊には注意してくださいね」


カリンがメイスを抜いた。スミは棒立ちだ。全部任せる気だな。


「わかった」


カリンが歩き出す。俺らは駐車場跡で待つ。手頃な入口付近の虫の脚だけを、カリンがメイスでへし折った。他の虫が飛び立って逃げる。


カリンが虫の脚を丁寧にへし折る。全ての脚を折られた虫が転がる。なんだか惨いし可哀想にも見える。


「蟹食う時みてぇ」


ユスケが引きながら言う。


「まぁ、虫美味いもんな」


「いやいやいや。あんなのキモくて食えないって」


「楽園は食ってたぜ?」


「……ハチお前、楽園行ったことあるの?羨ましいな」


目にシワを寄せながらデビエゴが言う。


「……楽園なのに虫が出るのか」


脚も翅も捥がれた虫に歩み寄る。口と触覚だけが動いている。ここまで来るとそこも動かないで欲しい。生きてるって思うと少しだけ胸が痛い。


ミズキがしゃがんで手を伸ばす。


「何か分かるの?」


「えっと、虫さんの見た景色?ですかね。多分、それが……」


ミズキが伸ばしていた手を引っ込めて、頭を抑えた。微かな静寂の中、ミズキの呼吸だけが聞こえる。


「おい、大丈夫か?」


泣きそうな顔をしているミズキが自分の手を見つめる。リオが口をぎゅっと閉めて、ミズキの手に触れた。顔を歪ませながら、そっと手を離す。


「……京都って、こんな風なんですね。初めて見ました」


「え?見えたの?」


「僕は粒子の言葉を読んでいたので……見るのは初めてです……」


「京都の景色を見た。ということは、こいつは京都から来たということですね」


「え?そんな分かるの?」


「適合者については、ある程度法則がありますよ」


スミが水筒を取り出してミズキの手を洗う。カリンがしゃがんで虫に触れた。顔色は変わらない。そのままメイスで虫の頭を潰した。


「戻りますか。今後について、まだまだ話し合う必要がありますね」


湖の向こうの空が黄色くなり始めた。危険信号みたいだ。今日は曇り気味で夕日は赤くない。カリンの横で耳打ちする。


「カリンも見えるのか?」


「ううん。僕には見えない」


個人差があるんだろうな。まぁカリンは代わりにしっぽがあるし、そもそも俺らなんかよりも、ずっと特別だし。

適合者。京都。俺が逃避行の旅人ごっこをしてるうちに、なんか色々世界は変わってるんだな。後でスミに適合者について聞いてみよ。

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