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終末後遺症  作者: Anzsake
あの日の約束が、終わらない物だと知らなかったから
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カリン:実演

『虫の群れの対処法?』


『はい。知ってたら教えてください』


師匠は唸る。ついさっき、あんな虫の群れを引き連れた上で、かすり傷だけで生きて帰ったんだ。何か無い方が嘘だ。


『まず全滅は考えない方がいいし、無傷も考えない方がいい』


『まぁ、それはそうですけど』


『環境を利用出来るならその方がいい。使えないのなら地道に誘い込むしか無いし、固まられたら僕も無理』


『相手を分散すれば行けますか?』


『出来るね。綺麗に並んでてくれるなら、同じことを繰り返すだけだ』


『そう、上手く行きますかね』


『例えそれが30点だろうが、上手くいったから生きてる。その繰り返しだよ』


―――


等間隔で並んだテントの周りに、虫が降りてくる。

走り込んで間合いに入る。メイスで下半身を潰す。走る。間合いに入る。威嚇してきた前脚の振りかぶりを最小限の動き避ける。下半身を潰す。


頭は効率が悪い。無くてもしばらく動く。無闇に動かれるくらいなら、腹を潰して行動不能にさせた方が早い。ほぼ常につま先で立ち、首を常に動かす。降りてきた虫をひたすら潰す。過ぎ去っていく虫は無視する。


人の営みの匂いがある以上、虫が完全にスルーしてくれることは無い。囲まれるな。群れさせるな。被害を出来るだけ抑えろ。


ハチが目に留まる。マチェットを構えて虫の前に立っている。その後ろに虫。


「ハチ!動け!!」


ハッとしたハチが、目の前の虫に飛び込む。後ろの虫の振りかぶりをギリギリで回避出来た。そのまま虫の後脚を切り落としていく。


「やべぇ!!怖すぎる!!」


ハチがマチェットを片手に全力で走る。右で粒子が動いた。振り下ろされた前脚をステップで躱してメイスで叩き折る。そのまま回り込んで腹を潰す。


ざっくり計算で80匹。降りてきたのがその3分の1位。虫に明確な殺意が無い分、どれが自分を狙ってるかが分からないのは厄介だ。いっそ全部が人を襲うのなら、このまま人の居ない場所まで走るだけでいいのに。


テントを破ろうとする虫を見つける。走って近寄ろうとすると、影からスミが出てきた。ハンマーで虫の腹を潰す。

何処かで発砲音。火薬だ。でも想像よりも被害は少ない。


ほぼ後ろで粒子が動く。振り向きざまにメイスを構えると、そこに虫の前脚の縦振り飛んできた。左側に受け流して、そのままメイスを横に振りかぶる。前脚がちぎれた虫がその短くなった脚を小刻みに動かす。更に頭を潰す。


虫が運んできたのか胞子濃度が上がった。そのおかげか後ろが見える。

でもそれは僕だけだ。ハチや他の人にはこの粒子の流れは見えない。

師匠だってそうだ。だからハチに教えられる事は、僕が師匠から教わった事だけだ。僕のじゃない。

常に前に動けも、僕の知恵じゃない。


僕が出来る事は、今はまだこれしか浮かばない。とにかく虫を殺せ。出来る限り、命を選べ。


恐らく最後の虫を潰した。まだもがいているそいつの頭にメイスを振り下ろす。それでも、虫の脚は縮こまるようにゆっくりと動く。


「……はぁ」


小さく息を漏らした。肩の筋肉が少し痙攣する。白だったテントは、虫の体液で鈍い赤錆の様な色で汚れた。地面に転がる無数の虫を見渡す。


「お疲れ様です」


スミが歩いて寄ってくる。恐らく一回も抜刀していない。体液塗れのレンチを持ったユスケも来る。


「やっぱリーダーはやばいっすね。これ殆どリーダーじゃなかったか?」


「……そうだっけ?」


ハチとデビエゴも顔を出した。それと一緒に、テントから銃を持った人が続々出てくる。感嘆の声、小さな笑顔と鼻をつまむ人々。

ハチは肩で息をしながら座り込んだ。


「……悔しい」


「は?」


「いや……そうだよな。昨日今日、武器を持った俺が、みんなに届くなんて……そんな訳無いのは知ってるけどよ」


何故かハチは、少しだけ泣いていた。


「俺……本当に、ずっと逃げてきたんだなって……1人で生きればこんな事しなくていいって」


ハチは俯いてマチェットを地面に置いて、顔を手で被った。


「虫、クソ怖いじゃんか……知らなかった……」


横に居るデビエゴが静かに頭を撫でた。ユスケがハチの前に座る。


「分かるよ。俺たちゼット世代に言わせりゃ、デカイスズメバチを前に殺虫剤無しで殺せって言われてるもんだしな。よくやりきったぜ」


「……蜂?」


「なんだよ、ハチって名前はそこから取ったんじゃないのかよ」


「あぁ……そういえば、そんな虫居たな……忘れてた」


ユスケが笑う。リオが近寄ってくる。


「この群れを……あなた達で?」


ユスケが立ち上がる。


「殆どリーダーだけどな。凄かったぜ?スマホがあれば、俺は撮影係でも問題無かったかも」


リオが口をパクパクさせる。スミがハンマーを下ろしてヘルメットを脱いだ。


「原因の推測は?」


「これから調査します」


「前例は?」


「この数は初めてです。それに、西から飛んでくるのも」


スミが僕を見る。この西は海峡だ。仮に海峡まで人の目があるとするなら、これはその更に向こうからになる。


「……嵐、にしては少なすぎますね」


「うん。でもこの移動は、それに近いと思う」


東に飛んで行った点はもう見えない。あれがまた、きっとどこかのコミュニティを襲う。ホルン達は大丈夫だろうか。楽園はまぁ、大丈夫か。


「何にしても、まずは掃除か」

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