カリン:交渉
よく見るとエアライフルじゃない。火薬式だ。スミが立ち上がる。
「私が」
「僕も行きます」
トラックの後ろからスミと出る。5人。真ん中が拡声器。横の4人が銃を構えている。スミが声をあげる。
「まずは、無礼を詫びたい」
相手は何も言わない。
「だが、先に引き金を引いたのはそちらでは?」
寝てないじゃん。拡声器が拡声器を使って話す。
「この道は他に通る理由は無いはずだ。まさかその軍用車両で、何も知らずにドライブをしていました。なんて事はあるまいな?」
「最も。我々はこの先の土地に用がありまして。ここはいい土地ですね。まるで噂とは違う」
銃を構えてる1人が鈍い顔をする。指が一瞬動いたが、拡声器の声で止まる。
「冗談を言いに来たのなら帰ってもらおう。それとも、この土地で死ぬのが望みか?」
「まさか。我々が死ぬのは海の上、あの化け物との激闘の上です」
「化け物?」
「ご存知でしょう?あなた方は良い物をお持ちだ。きっと大切に守ってきたのでしょう」
スミの顔は、キョウヤの見せるあれと似ていた。
「勝手な話ではありますが。そのロストテクノロジー。是非ともこの海峡の開通のお役に立てられればと」
1人が引き金を引いた。反射でメイスを抜いて叩き落とす。弾丸はスミには当たらない軌道だったけど、この距離だと抜く前には分からなかった。
拡声器が怒鳴る。
「フルタ!!先制攻撃はするなと言わなかったか!?」
「ご、ごめんなさい……」
スミが口角だけを上げる。当たらない場所とは言え発砲されたのに、全く動じてない。
「なるほど、つまりは動機をくれた訳だ。その銃か?それとも通行証でもくれるのか?」
「ま……」
スミが一瞬だけ僕を見て真顔に戻る。
「冗談ですよ。気にしていません」
「……基地に案内する。正式な通行はその後だ」
「それはそれは。ありがとうございます。良ければ乗りますか?」
「結構!!」
5人が背中を向けて歩き出す。長い息が漏れる。スミが踵を返す。
「行きましょうか」
「あの」
「はい」
「知ってたの?」
「……言ったら、来てくれませんよね?」
「そんなこともない……」
とは、言いきれないかもしれない。その言い方的に、必要なら奪うんだろうな。と、前回を考えると推測出来て、この人の嫌な感じを再認識する。
―――
「軍の駐屯でしょうね。あそこまで土地を拡大しているのには驚きましたが」
スミがあっさりと言う。
「……人が帰ってこないってのは」
「そもそも入れないし、入ったら撃たれます」
「欲しいって言ってたのは」
「火薬。それ以外にも、中隊規模の装備が眠っているのなら、手を出さない理由にはなりません」
徐行するトラックの中で、一瞬だけ沈黙がある。デビエゴが言う。
「海峡断裂は4年前だ。少なくとも、体制となるには早すぎる」
スミが少しだけ上を見て応える。
「それ以前から、ここらは京都奪還で使いたい派閥と、静かに生活したい派閥で揉めていましたからね」
京都奪還。スミ質問する。
「……京都は、旧市街なの?」
「えぇ、海峡断裂から少しして、その土地の一部を取り戻したと、フェタやラジオから聞いています」
トラックが道を曲がる。細い通路に入っていく。
「そうだカリン。彼らの前では可能な限り、マフラーは使わない方が良いかと」
「流石にわかるよ」
「良かった。それを抜いた時は、私も合図として受け取りますので」
「……なんの」
「宣戦布告」
「それじゃあ、どうしようもない時とかは……」
「見捨ててください」
トラックが揺れる。デビエゴが小さく首を動かす。
「……まぁ、俺たちを上手く使う練習ってこった」
「そういうことにしましょう」
トラックが止まる。森林の中だ。ユスケが合図するので降りる。テントがいくつか貼ってあり、広場や給仕場が見える。
ハチが少し楽しそうに言う。
「キャンプみてぇ」
「キャンプの経験が?」
「1回だけな。毎日出し入れするのが面倒過ぎて辞めたけど」
拡声器を持ってた男が立っている。俺たちをまじまじと見て、ミズキを見て変な顔をする。紅一点というやつだろうか。
「……まぁいい!着いてこい!」
黙ってついて行く。緑の服以外にも色んな人がいて、僕らを見てくる。
大きなテントのひとつに男が入る。僕らもそれに続く。
並んだ机のひとつで座っている男性の前に連れられた。その男の瞳は黄色だった。
「初めまして。僕はリオ」
スミがお辞儀をする。僕もそれに習う。
「初めまして、我々は……」
「海峡の虫の為に協力してくれ。でしたっけ?」
「おや、お話が早い」
リオら爽やかに笑う。歳はハチと同じくらいだろうか。
「とは言っても、僕にそこまでの自由は無いというか……どうぞ、座ってください」
並んだ席に6人座る。それだけが座れるくらいには大きい。
「最初に言うと、僕に最終的な決定権はありません。あくまでも1つ目の人間であるとだけ、ご理解ください」
会話はスミがする。というか、他の人が出来る気がしない。
「もちろんです。お話する機会を設けて頂き光栄です」
「えぇっと。ではまず、整理だけさせてください」
そう言いながらリオは、空を見つめながら手を顎に置く。
「……なるほど。理解しました」
「ほう」
「陸鰭、と言うんですね。あの虫は」
スミが少し顎を引いた。
「……リオさん。僭越ながら恐縮ですが、無闇な読取は無礼では?」
リオは、あまり悪びれる事なく笑う。
「すいません。そちらのお方が同じかと思い、説明は不要かと」
そう言って、ミズキを指した。ミズキはキョロキョロしている。
「申し遅れました。僕も、彼女と同じく適合者です。最も、この呼び方は好きでは無いのですが」




