カリン:偏見
トラックが山道を進む。うねる道を加速していく。
後ろの荷台を座れるようにしてある部分で、ハチやミズキは取っ手にしがみつき、スミやデビエゴはバランスを取りながら座っている。
横でハンドルを握るユスケに話しかける。
「北は旧市街なの?」
「いいや、ただの汚染疑惑地域さ」
「疑惑?」
「そういう話だけ広がって、別に調べるのも後回し。そもそも虫なんかは普通に住んでるしで、別にみんな近寄らない」
「……何が汚染してるの?」
「放射線?まぁ俺も、そういう物があるってだけで、それが何なのか、どう危ないのかなんて知らないんだ。というか皆そう」
「そうなんだ」
「原子力発電も、過去に色々あったらしい。俺が産まれる前の話さ。それでも使い続けてたんだから、当時も似たようなもんなんじゃないかな」
「でも、知ってる人が居なきゃ作れないでしょ?」
「文明が滅ぶ前、この島に何人住んでたか知ってるか?」
「……100万とか?」
「およそ1億」
1億。知らない単位かもしれない。いや、どこかで聞いたかも?
「そのうち何人が、原子力なんてのを理解してたか。多分分かってる奴が、文字通り死ぬ気でそれを止めた。だからこの島は残ってる」
「そうなの?」
「災害が起きて放置したら、それは暴走して破壊的な大事故になる。俺もそれくらいしか知らねぇ」
「……その人たちが止めなかったら?」
「これは、あくまで定説だ。ただし、この島にあるそれは、少なくとも止まっている。そうじゃなきゃ、この島はとっくに終わってるって話」
後部座席のハチが声を出す。
「知らねぇって言うくせに詳しいじゃん」
「俺が知らないのは、その具体的な止め方とか、実際止めないとどうなるのかとか、今その土地は安全かとか、そういう事だよ」
「……今、この島に何人いるかって、分かってるの?」
「さぁ?少なくとも、江戸時代より少ないだろうな」
「江戸時代?」
「あー、あの刀が全盛期の時代だよ」
ユスケが後ろを指す。スミのカーボンブレードの事だ。スミは目を閉じてじっとしている。
「……それ、何年前なの?」
「えぇ……500年とか?」
目を見開くしか無い。そんな昔から、あんな武器はあるんだ。
「……なんか、勘違いしてるな」
山道の真ん中に看板が立っている。トラックが減速する。黄色の看板で、文字は掠れてて読めない。
「誰だぁ?親切な奴だな」
「なにこれ」
「この先ヤバいよって看板だろ。汚染疑惑地域だし」
「ここから?」
「さぁ。それすら分かってねぇよ。曖昧な話だろ?」
「うん」
ユスケが降りるので僕も降りる。看板を退かすスミを見守る。
少し胞子濃度が高い。粒子の流れがぼんやりと見える。道の奥にぼんやりと開けた場所が見える。その一部が微かに揺れた。その揺れ方には見覚えがある。弾丸だ。
マフラーを展開する。ユスケを狙った弾丸を弾いた。
「うぉ!?」
「今動きました。逃げてきます」
「人か?」
他にも4箇所、粒子が微かに動いた。目視出来なかった。
「退きますか?」
「……いや、突っ切るか」
ユスケが立ち上がり運転席に駆け込む。僕はそのまま運転席の上の屋根に乗った。
「かっぱらった軍用車!舐めんなよ!!」
急発進したトラックの溝に足を引っ掛ける。トラックの上だと乱れてて細かく見れないけれど、正面に人を見つけた。緑色のごちゃごちゃした柄の服を着ていて、止まっていると景色に溶け込んでしまう。
それを突っ切ってトラックが広い場所に出た。水だ。
「海峡!?」
「どうかな!?」
更に前の道には、看板を何枚も積んだバリケード。人が立っている。
「止まれ!!」
「突っ切るぜ!!」
バリケードを横に逸れ、道からやや外れてトラックが突っ込む。バリケードを破壊して進む。
後ろを振り向く。追うこともなく、ただ立ち尽くしている。風の中助手席に戻る。
「あれ、なんだったの?」
「さぁな。止まって欲しいなら金か女の看板でも立てろって話」
スミが後ろから顔を出す。
「今起きました」
寝てたのか。
「……海峡?」
「知りません」
「地図は」
地図を渡す。じっくりと地図を見ているスミがため息を着く。
「ここ、通れない可能性がありますね」
「「え?」」
スミの言う通り、曲がった先の道は土砂で通れそうになかった。ゆっくりとトラックが止まる。
「……やばい?」
「さっきの人たちが追っかけてきたら」
「他の道は?」
「戻ればありますね」
外の音に耳を澄ます。小さな風の音。水の音。木々の揺れ。鳥の声。
「……人だ」
後ろの道から、数人の人間が歩いてきた。さっきの緑の服に、武装をいくつか装備している。1人が手に拡声器を持っている。
「わかっただろう。この先の立ち入りは無用だ」
拡声器を使って話しかけてくる。みんなで目を見合わす。
「ここはお前らが見捨てた土地。俺たちが守り抜く故郷だ。出来ればお引き取り願おう」




