表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後遺症  作者: Anzsake
君のエピローグで、世界を終わらせてくれなかったから
45/79

ホルン:脇役達の見る世界

いつの間に寝ていたんだろう。キョウヤが居ない。窓の外がほんのり青い。扉を開けると、キョウヤがぼんやりと空を見ていた。


「……記憶の景色と同じか?」


草で包まれた道が伸びる。少し行ったところに、ボロボロの建物が並んでいる。その少し奥に見える少し高い建物。森の傾斜の道があって、そこにチラリと見える石垣。


「……うん。違うけど、知ってる」


「そうかい。じゃ、フェタを起こすかな」


キョウヤがゆったりと立ち上がる。腰には昨日の鞭が提げてある。服はところどころ破れて居て、小さな傷跡が沢山見える。


「俺の知らない物語の終わり。って事だな」


キョウヤが室内に入る。こんなに涼しかったっけ。青はまだ澄んでいる。山のせいで日が昇るのが遅い。後ろの畑の方は、少しだけ日が差してオレンジになり始めていた。


フェタが欠伸をしながら出てくる。私と目が合って、口を頑張って閉じようとしている。


「気にしなくていいよ」


「そんなわけ……には……」


欠伸が終わったのか、急に真顔になる。


「そんな訳には行かない」


「言い直さなくていいよ」


「工房ってのはどっちだ?」


「この先行って、右に行ったところ」


歩き出しながら指を指す。2人が後ろに着く。

この通りでは回収員が遠征の度に市を開いて、それぞれが買い物をしていた。倒れた柱と破れた布が、動かずに煤を被っている。

住宅地を進む。誰が誰の家だったかまでは、あんまり覚えてない。それでも子供が走ってたり大人が会話してたり、そういうのはよくあった。工場が出てくる。


「ここか?」


「この奥」


ここは資材置き場。今の戦車に積める物はあるだろうか。工場の敷地を通り、その奥のもう1つの工場の前に立つ。普段はあまり立ち寄らなかったけど、お世話になったのは確かだ。

そんな工場は、黒く焼けていて、トタンの天井は穴だらけだ。


「出火はここか」


「そう」


入口だった扉を引く。なかなか開かない。キョウヤが蹴飛ばすと音を立てて扉が壊れた。


「……あ!ごめん」


「いいよ、気にしてない」


中も奥の方はかなり黒い。手前の方の幾つかの書類と、小さな机にソファがある。

偶に工房に行くと、ここでハヅキさんとベゴニアさんが会話してたな。


キョウヤが書類を手に取る。幾つかの設計図をまとめた物で、キョウヤはぺらぺらと捲っていく。


「分かるの?」


「凄いことは分かる。俺も武装を作る際やったが、これはとんでもなく精密だな」


キョウヤの手が止まる。


「……義肢があるのか?」


「あー、うん」


キョウヤの開いたページは、重厚な人の腕のパーツ。次のページは、骨組みみたいな義足の設計図だ。

横で難しい顔をしているフェタが私を見る。


「カリンは、付けなかったの?」


「うん、欠損はここが壊れた後だから」


「でも、楽園でなら造れるんじゃないのか?」


「あそこだって、浄化した途端なんでもあった訳じゃない」


キョウヤが設計図を閉じて丸める。手に持って周囲を見渡す。


「奥は?」


「見てみれば?」


黒く煤けた奥は、もう原型がほとんど無い。大きい機械が沢山あるが、動きそうなものはひとつも無い。

結局何も無く、建物を出た。空は明るくなるが、日はまだ見えない。


浅く深呼吸をしたフェタが、ゆっくりと瞬きをする。


「正直、私から見ると、ただの廃墟探索ね」


「……そうだろうね」


「ホルンの中にある物語を一から語って貰ったって、きっとそうなんだってなって終わるんだろうな」


「……」


「はは、別にどの廃墟だってそうだろ?全てが誰かの物語の終わり。俺たちは脇役として、観測者としてそれを見、使っているに過ぎない」


「ま、確かにそうね」


もし、ミズキがここに居たら、誰がここに居て、何をしてて、そんな事が分かったりするんだろうか。カリンを止めたように、それを語るんだろうか。

それは果たして、良いことなんだろうか。


また歩く。少し広い庭と、3階建てのコンクリートの建物に着く。


「公民館か」


「回収員の拠点だった」


「意外と小さいんだな」


「私も、普段は入らなかったから」


この建物も、私が回収員として生きるよりもずっと前から、ここにあって、別の物語があったんだ。それを知らないだけ。


建物の中、落書きがあった。昔は無かった。青色のスプレーで大きく「ここ 休める」と書いてある。


外に出て坂を登る。石垣の階段を登る。広いスペースに朽ちた木造の建物と、積まれた廃材が並べられている。その真ん中に、見覚えのない岩が置いてあった。その手前には、枯れた植物が1つ、花瓶に入れられている。


「……墓か?」


「……誰だろ」


「ホルンが知らないなら、俺たちはもっと知らない」


フェタが黙って頷く。岩の前で座る。岩はただの岩で、それ以上何も無い。フェタが横に座る。


「名前書いてくれないと、どうしろって話よね」


反対側にキョウヤも座る。


「ところでここ、これだけ火災の跡があるにしては、死体らしき物はほとんど落ちてなかったな」


あぁ、そうか。誰かがここに来て、野ざらしの遺体をここに集めた。その可能性もあるのか。

掘る気にはならなかった。代わりに持ったままの骨を、岩の横に静かに置いた。


フェタもキョウヤも手を合わせる。私も同じようにする。弔うと言う行為の意味を知ったのもパンデミックの後だった。それでも、少し暖かいなと、その時は思った。


「……名前は聞かないでおくよ」


キョウヤが立ち上がる。


「ま、聞いても分かんないし」


フェタも立つ。


「……うん」


じゃあね。ジローさん。立ち上がって2人に追いつく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ