表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後遺症  作者: Anzsake
君のエピローグで、世界を終わらせてくれなかったから
44/79

キョウヤ:今、何頁目?

持ってきた荷物とホルンの大盾を隅に置いて座る。袋を開けて携帯食料を取り出して分ける。


「ありがとうございます」


「ありがと」


「本当に、もう虫喰いは居ない?」


ホルンが食べながら頷く。


「縄張り意識が高いから、可能性は低い」


「そうかい」


2人が黙って食べるのを見守りながら、沢山出来たかすり傷を確認する。ここが旧市街なら死んでしまうな。旧市街と言えば虫喰いだ。

東京で発見されたらしいその人型の怪物。たまーに見るし、殺したこともあるが、その実態はイマイチ分かってない。

ま、ゾンビの後に人型の怪物は、スケールが上がっただけで意味不明に変わりないんだが。


「……で、ホルンは虫喰いってのにどこまで詳しい?」


食事を終えたホルンが水を飲んで姿勢を直す。


「腕の数や髪の長さで個体値を測る」


「それはもう楽園から伝わってる。ヒマワリってのはなんだ?」


「虫喰いの始祖とされる人」


確定では無いが、そう言えるだけの証拠はある状態か。


「そいつをぶっ殺して、東京を取り戻したのか?」


「違う。初めから死んでた」


「律儀に名前でも書いてあったのか?」


「そう。墓があった」


随分とスラスラ出てくる。きっと、俺たちが知らない東京奪還についてほぼ全て知っている。でも自発的に語ろうとしない。


「いいかホルン。俺たちにとって東京奪還というのは、希望の象徴なんだ」


ホルンは黙って俺を見る。


「お前らがどういう地獄を経て、それに至ったか。それが分かると、もしかしたらこの国が復権する手がかりになるかもしれない。わかるか?」


「……分からない。私は別に研究者じゃないし、ベゴニアさんみたいに常に最前線に居た訳でも無い」


ベゴニア。ずっと出てくる名前だ。西のラジオから流れて以降、尾鰭を付けて話が広まる。顔も知らないそいつが、無数の化け物の屍の上で旗を立てる姿を勝手に想像する。


「質問を変えよう。そのベゴニアって人物について教えてくれ」


カリンもホルンも、その経験の意味が分かっていない。東京を取り戻すのだと、1度広域放送があった。外国の船からだった。海の向こうも同じような状況らしく、希望の為にこの島に来たらしい。それに便乗して何人が東に行ったかは数えていないが、そいつらが旧市街に足を入れた時には、そこは既に楽園だった。

外国船はとっくに撤退し、胞子も無いその都会。そこにある謎の白い塔。

噂話と写真が出回る頃に海峡が出来、それ以降話は聞かない。


ホルンは悩む仕草をしながら語る。


「小柄で、口数は多くないけど、普通に話してて、何となく接しやすい人ではあったかな」


俺の想像のベゴニアが縮む。顔は厳つい眉毛から塩顔になっていく。


「なんでか強くて、でも静かに、言われるままに前に出て」


そもそも旗すら振ってない。バックにいる指示役まで出てきた。


「仲間とは楽しそうにしてて、一緒に人を探してた」


バックの連中に影の輪郭が出来る。さらに繋げようとした線を止める。人を探してた。誰だ。今出てきた中で、名前のあった奴はもう1人しかいない。


「……誰を」


「――ヒマワリ」


眉間に指を置く。なるほど全容が見えてきた。とは言え、あまりにも想像とは掛け離れていた話だ。


「……1冊にまとめて欲しいな。そんな話は」


「そのうち、楽園から出るんじゃない?」


「そんな物語の終わりの続きが、今俺たちが居る世界か」


「そ、そして、私はその脇役の1人」


「俺とフェタは名前すら無い」


フェタはいつの間にか寝ている。お前がいちばん聞きたそうな話だろうに。


「待った、東京浄化のくだりが無いな。あの規模の旧市街の胞子が無くなるなんてのは、一体どういう理屈だ?」


「見たままでいい?」


「あぁ」


「カリンの妹が、白い塔を使って胞子を集め、宙に飛んだ」


どうしてこいつは、そんな意味不明な話を淡々と語るんだ。


「……はは、なるほど。やっぱり聞いてよかった」


「そう?」


カリンの妹。同じ適合者と推測していいな。つまり適合者は、胞子を消す鍵になる。可能性がある。

ま、俺が知ったところでどうしようも無いんだけどな。カリンの妹が胞子を使って宙に飛ぶ。具体的なイメージは全く湧かないが、そういう事象とだけ捉えよう。


「あーダメだ。話だけ聞いてもさっぱりだ」


「でしょうね」


「でも、面白かったよ。話は終わりだ。もう寝ていいぞ」


そう言い残して立ち上がる。朝まで見張りくらいはするか。ドアを開けて外の風を感じる。生き物の気配は感じないが、遠くで虫の鳴き声のようなものが聞こえる。


肩で小さく息を吐く。参ったな。こんなに難しい話だとは思っていなかった。

何となくそんな予感はした。ゾンビから既におかしい話だ。俺は今、何かの物語の後の世界を生きている。そして、それを知らない。虫喰いも、もう既知の何かだ。


厄介な事に、そんな神話で世界は完全には救われなかった。


もちろん比喩だ。産まれた時からここまで、学校も友人も、社会もパンデミックも終末も、振り返れば長い道のりだ。

キョウヤが死んだのも、ホルンの話に比べたら小さなもの何だろうな。


世界は平等に不幸だと、そう思っていた。どうやら違うらしい。分かってはいたか。

脇役なことに不満は無いさ。もとより俺は、次の世代の為に全力を尽くす。そう、キョウヤと約束したからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ