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終末後遺症  作者: Anzsake
君のエピローグで、世界を終わらせてくれなかったから
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ホルン:閃光

徘徊音は去らず、ただ近くを歩いている。何かを引きずる音がした。


「……匂いかな」


「だろうね」


小声で会話する。フェタが燈を消した。暗闇の中、音の位置を探る。


「……ホルン、武装を取りに行けるかい?」


「もちろん」


「じゃあ俺は、それまで時間を稼ぐとしよう。フェタはどうかな?」


「……行きます」


「よし、じゃあ開けるよ」


キョウヤがドアを勢い良く開ける。小さな青い閃光が、キョウヤの居る場所で光る。

瞬間、大きな音と共に壁が小さく揺れた。キョウヤがライトを付ける。草木の先に一瞬見えた黒いしっぽが消える。


「楽しもうぜパーティー!」


キョウヤの声を合図に走る。何回も通った道だ。見えなくても分かる。すぐ後ろで足音。暗闇の中、視界の端に影が移った。思わず伏せると、再び衝突音。キョウヤだ。


「ごめん。やっぱ無理かも。暗すぎ」


「だろうね」


「逃げる?」


それが一番だ。こんな闇の中戦うのはカリン以外無理だ。でも。


「……何かあるの?」


「無くはない」


前を見ながら、キョウヤは胸元のライトだけを頼りに攻撃を捌いている。キョウヤの武装は青白い光を帯びながら、暗闇の中で線を描き続けている。直線的に、そう思えば弧を描くように、複雑な模様を描くように光の線を目で追う。

相手はまだ近づいて来ない。フェタはどこだ。


「あっちは多分、見えてるよ」


「だろうね」


「……私の作戦、聞いてくれる?」


キョウヤが帽子の下から歯を見せる。目の前の草が切れて短くなった。


「はは、最初から教えてよ」


「フェタは?」


「右、あれ虫喰いだよね?」


「そうですね。恐らく何処かに巣があるかと」


「それを壊すのかい?」


「いいえ、私今、虫喰いに狙われません」


「何言ってんの?」


さっきのは、キョウヤがこっちに来た事で半ば巻き添いになったからだろう。カリンとキスしたのが今日の昼。まだ全然大丈夫なはず。


「奇襲します。それを合図に攻め切れば殺せるかも」


「なるほどね。理解した」


自分で言っておいて、自信は無い。敵対されないだけで、致命傷を与えれるような大きな攻撃を振れば、避けられてしまう。ナイフ1本刺す位では、虫喰いは止まってくれない。


キョウヤが離れていく。やっぱり私の方に攻撃は飛んでこない。少しずつ目が慣れてきて、キョウヤの武装を観察する。


1本の棒状武器を振り回していたら、突然鞭のようになる。カリンが暴走した時に使っていたのと同じだ。それの切り替えを、棒状の下部に触れることで行っている。そこから伸びているケーブルは腰まで行き、後ろに提げているポーチ程の機械に繋がっているらしい。


「キョウヤ!近づける!?」


しっぽの牽制が一瞬遅れた。私の声に反応したんだ。それでも攻撃は飛んでこない。


「君はそろそろ、俺に敬意を払って欲しいけどね」


まずは個体値が見たい。キョウヤが少しずつ前に出る。草の影からちらりと見えた髪は、少なくとも胸より下まで伸びている。その先は草で見えない。


知能はそれなり。なんなら「ヒマワリの残りカス」の可能性もある。奇襲の一撃では殺せない。


フェタがチラリと見えた。裏取りをする気だ。下手に声を掛けて、フェタが声を出すのは避けたい。


「返事しないで!!フェタはちょっと待って!!」


返事は無いし、今フェタが何処にいるかも分からないけど、伝わったと信じる。


「私が可能な限り注意を逸らすから!キョウヤに合わせて!」


延々と続くような、キョウヤの防衛戦。キョウヤは余裕そうに言う。


「合意確認!ホルン、合わせるから頼んだよ」


「……ありがとう」


足元の感触を頼りに進む。虫喰いは今、元畑の中だ。少しずつ距離を縮める度、その呼吸音が聴こえる。そいつから伸びるしっぽは、相変わらず私に当たらないように攻撃をしている。

こいつらに仲間、もしくは雌だと思われている事だけは、気に入らない要素だ。まぁ、それもフェタの話を聞いたら、違う可能性もあるけれど。

 

やっと目視出来る所に来た時、虫喰いの攻撃が一瞬止んだ。腰まで伸びる長い髪の向こうの瞳が私を見ている。


驚いたように見開いたそいつの背中からは、6本の黒い腕が生えている。その背後から、フェタがぬるりと出てくる。


直ぐに振り向いた6本個体がフェタの斧を背部腕で弾き、そのままフェタの腕を掴む。一瞬こちらを見た6本個体がフェタにしっぽを合わせた時、上から青白い光が降った。


6本個体が背部腕でそれを防ぐが、光の先端に付いている刃が背中を刺す。そのまま6本個体が前に倒れそうになる。引っ張られている。フェタの拘束が解けて、すぐに攻撃体制に入ったが、6本個体はそれを背部腕で防ぎ、別の背部腕でフェタを殴り飛ばした。ぬかるんだ地面に落ちる音がする。


また虫喰いが私を見た。背中に刺さった刃を背部腕で引き抜き、それを思い切り引っ張る。


「うぉ!」


キョウヤが6本個体の目の前に飛び出した。振り下ろされたしっぽ。キョウヤの武器が音を立てて高速で縮む。その加速でしっぽを避けたキョウヤが、6本個体を蹴りつける。


「ヒマワリ!」


そう、叫んだ。なんとなくだった。意味のないけど意味のある言葉。それを必死に考えた結果だった。

いやな予想通り、虫喰いは私を見た。青白い光が伸び、キョウヤが6本個体を拘束する。


しっぽがのたうち回り、キョウヤを捉えた瞬間。手斧が見えた。振り下ろされたそれが、虫喰いの首を切り落とす。音を立てずに落ちた髪と、ダラダラと零れる紅が、青白い光を塗り潰そうとしていく。


プシュ、と言う音と共に、キョウヤの腰から何かが飛び出し、それが地面に落ちる。それと同時に、鞭の先端に付いている、横に伸びる曲刀が地面に落ちた。それを聞いて、座り込んだフェタの崩れる音がする。


キョウヤが腰の機械を弄る。左手でベルトに着いた電池らしきものを取り出して機械に入れる。キョウヤが鞭を振るうと、それは棒状に戻った。


私は今、ふたつの事に驚いている。1つは、6本個体をたった3人で殺せた事。もう1つは、あいつが私を意識し、言葉に反応した事。


キョウヤが武装の血を拭き、落ちている電池を拾う。


「ところで……虫喰いって何なの?」


フェタも私を見る。


「……私も、詳しい事は分かってない、けど」


どこまでが事実かなんて、多分誰も知らない。それが分かる日が来るのかも。


「ヒマワリって女性が産んだ怪物」


それすらも、憶測でしかない。いや、そうじゃないと信じたいだけかもしれない。


「はは、天使様は物知りだな」

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