ホルン:備え
多分キョウヤも、私がどう負けるかを見たいんだろう。私だって、カリンに勝てるなんて微塵も思ってない。やるとしたら、きっと情に訴えた卑怯な手だ。
もちろんやらないといけない時はやる。でもそれはここでは無い。
大剣を後ろに捨てる。少しだけ軽くなった。カリンがマフラーを構える。残像みたいに揺れたマフラーの初動だけを見て、来ると予想した位置にナイフ。腕に軽い衝撃。直線でズラされた。
マフラーを掴んで引っ張る。カリンが少しだけよろける。立て直す前に距離を詰める。左にあるカリンのマフラーが動く瞬間に跳ね、身体を大きく捻る。マフラーを空中で躱しながら盾を投げて着地。カリンが盾を避ける。カーブした盾から伸びるワイヤーがカリンに触れた。ワイヤーを引き戻しながら間合いに入る。
軽くなった盾は素早く戻ろうとする。常にカリンがワイヤーに触れるようにする。盾を捌くか、ワイヤーを切るか、私を警戒するか。選択肢を増やせ。
カリンに手を伸ばした時、カリンが大きく動いた。身体を大きく縦に回したカリンのマフラーが、ワイヤーを上から押し上げる。右腕が引っ張られ、私の身体が宙に浮いた。
盾が腕にもどる。着地の体勢になる瞬間、マフラーが飛んできた。
何も出来ないまま、腕に強烈な衝撃が来る。背中に風邪が当たる。真上に飛ばされたのだと気づいた。アパートの宿の屋根が見える。たしか4階だったような。
一瞬の静寂。耳に突風と落下の音が伝わる。空は落ちていてもあまり変わらないなと思った。建物の輪郭が視界の外に見えた時、背中に触れたものがあり急停止する。首が少しだけ揺れ痛い。
頭がふらつく。でも、地面に激突したわけでは無いみたいだ。左からカリンの顔と、反対からマフラーが見えた。
カリンの手とマフラーにキャッチされたのだと気づく。この高さから?
「大丈夫?」
「首が……」
ふと我に返り周りを見る。みんなが唖然している。抱っこされている事実に恥ずかしくなり、カリンの手とマフラーから離れて立つ。キョウヤが静かに笑って拍手をする。
「いやぁ面白かった。にしてもえげつない。本当に、いつ血が飛び散るのかとヒヤヒヤしたよ」
「実践と同じ重さ、同じ形じゃないと意味無いでしょ?」
「いやまぁ、そうではあるんだが。死んでしまっては元も子もない」
「私もカリンも、殺さず倒す為に戦う。でも必要なら殺す。そういうものじゃないの?」
「いや……まぁ、そうかもな。おじさんの古い価値観は、1度アップデートしないとな」
キョウヤのセリフにハチが返す。
「え?俺ら今から、あれやるの?」
「あぁそうだ。リーダーがそういうんだからな!」
「マジか」
キョウヤがこっちに来る。
「ホルン、君は1度体に異常が無いか診てもらった方がいい。カリンはこのまま、彼らの修行を続けてやってくれ」
「はい」
「こっちだ」
大盾を拾い、大剣を繋げる。めんどくさいのでそこに置いて行き、キョウヤについて行く。
「あれが楽園の武器かい?」
楽園の武器……なんだかカッコつけてるみたいな言い方で嫌だな。
「を、直した物」
「初めて見た時ピンと来てね。1度見てみたかったんだ」
「あんたの武器も、なんかガチャガチャ動くじゃん」
「俺のは、楽園の武器を真似て造ったコピー品でしかない。実際あの盾は、電気が無くても動くだろ?あれほど精密な設計じゃない」
確かに、回収員の頃はなんとも思ってなかったけど、あそこまで大きな工房は今のところ見た事はない。
「楽園……って、どう伝わってるの?」
「4年前に合った大規模進行と聞いてるね。外国から来た軍隊と、富士の里のコミュニティの結託で、東京に住む虫や化け物を次々となぎ倒して行った」
空を指でなぞりながら、キョウヤは話す。
「だから実際には、楽園の武器というより、富士のコミュニティの武器、になるのかな?」
「まぁ、そうね」
私とカリンは、東京を取り戻して間もなく旅立った。
厳密に言えば、楽園を作った側ではあっても、みんなの言う楽園の人とは違う。
「そうだ。富士に行こう」
「え?」
「君らが東京奪還の時に使っていた拠点だよ。その技術の片鱗や、陸鰭討伐のヒントがあるかもしれない」
キョウヤが楽しそうに笑う。あの日を思い出すと胸が重い。
「富士は物資が無くなってるんでしょ?それに、人が住んでたらどうするの?」
「住んでいるなら、きっとその技術の残骸の話はここまで届いててもおかしくない。俺が欲しいのは物じゃなく技術だ」
「でも、カリンには辛い場所だから……」
「ん?カリンを連れていくなんて、言ってないよ?」
「は?」
「戦いに行く訳でも、取りに行く訳でも無いんだ。俺と君と、もう一人位かな?折角だし、君が決めるといい」
カリン以外で。そういうことだろう。
「あーあと、ミズキも外そう。仮にカリンが暴走した時、止める人が居ない」
つまり、私はいなくてもいいと言うことだろうか。でも、ミズキと一緒に居なくていい事に、少しだけホッとしてしまった。
■カリンの武装
・メイス
どこから持ってきたのか不明な棍棒。カリンの前の持ち主すら、旧市街で拾ったと言っている。
工芸品だった可能性もあるが、何年も武器として使っており、欠ける度修理しており、形は歪だ。
・コンパウンドボウ
赤色の塗装をされた中型の滑車弓。しっぽで引く為に弦は少し緩んでおり、強度が高い。通常の人間よりも大きく引き絞る為である。
矢はお手製で、平均して8本程度しか無い。矢は放つ度に壊れている。
弓の上下外側にはブレードが装着してあるが、切断は出来ない。
・マフラー(しっぽ)
カリンの尾骶から伸びる細長く黒い尾。長さは1.5mから、追加で1m程伸びる。鱗はは無いが固く、かなり靱やかに動く。
カリン曰く「攻撃を弾く時は少しだけ痛い」らしい。
・予備ナイフ
左脇のベルトに装備されているナイフ。主に投擲と、接近戦での自衛用で使われる。
・その他
画鋲、散弾銃火薬など、使えそうなものは同じく左脇のポーチに入れている。




