ホルン:予定
朝目が覚めて、もうとっくに日が出ていることを知る。深く長く身体を伸ばす。1度やると落ち着くまで止まらない。
借りている部屋を出て、シャワーの使える部屋に行く。汗で張り付いたシャツを肌から剥がすように脱いでまとめる。シャワーから出る少し冷たい水を、頭から被った。
ここに来て1週間しかないけど、もうシャワーがある生活に戻るのが少し億劫になりつつある。着替えて外に出る。
宿であるアパートの向かいの広い場所で、何人かが集まっている。真ん中で棒を持ってタイマンをしているのはカリンとフェタだ。カリンはマフラーをしたまま、しっぽを使わずにフェタを打ち負かす。
何か言葉を交わし、フェタが下がる。次にハチが出てきてカリンに突っ込む。こちらまで聞こえる雄叫びは、即効であしらわれている。
宿を降りてコミュニティの方に進む。既にチラホラと薄紫色の子が、普通の服を着て町を歩いている。元気に挨拶をする子、まだぎこちない子。色んな仕事に回って、ここで生活している。
「おはようございます。ホルンさん」
カエデが来てお辞儀をする。
「おはよ。今日はどこ?」
「はい。今日はレストランでお手伝いをします。ホルンさんのご予定は?」
「作戦会議。何処でやるかはまだ聞いてない」
「そうでしたか。頑張ってください」
そう言ってカエデはまたお辞儀をする。なんだか気恥しい。
「カエデも頑張ってね」
「はい。では」
解放した奴隷の全員がこちらのコミュニティで、色んな仕事のお手伝いをする事で生活している。向こうのコミュニティは結局、こちらの支援を拒否した。
カエデと別れてコミュニティを歩く。顔見知りに、キョウヤを見なかったかと尋ねると、確かに見てはいる。頼むから作戦会議の場所は事前に決めて欲しい。
しばらくコミュニティをフラフラしていると、カエデの声がした。遠くから私の方に走ってくる。目前で止まり、息を荒らげて膝に手をついている。
「あ、あの……キョウヤさん…見えました……」
―――
ぎこちなく水を運んできたカエデに、キョウヤが軽く感謝を言う。カエデの顔は緊張以外のドキドキが見れる。1週間で仲良くなれてはいるが、男の趣味には共感出来ない。
「ミズキとはどうだい?」
「別に、特に何も」
「なんだ、仲直りしてないのか」
「別に、元からすごい仲良しとかでは……」
そうだ。別にミズキとは、まだあって1ヶ月も経ってない。
「君、ドライそうに見えて、案外じっとりしてるよね」
「どういう意味?」
「なんかキッパリ言いきらない所とかさ。俺なら、仲良くなれないと思えばはっきり嫌いって言っちゃうからさ」
同じ丸いテーブルを囲んでいるスミが笑う。
「ごめんなさいね」
「謝られる方がムカつく」
「おっと」
スミが渋い顔をする。こいつは敬語こそ使うが、表情が豊かでどこかキョウヤと同じ類な気がしている。キョウヤが笑って、姿勢を直す。
「さて、まぁ裏での修行も1週間。流石にそろそろ実践にでも駆り出さないと、危機感薄れそうだよね」
「まぁ、負けてもチャンスがあると思われても面倒ですから」
「その、陸鰭?化け物の対応策は決まった訳?」
「幾つか候補はある。ただそれと同時進行で、先に旧市街のルート開拓と準備はしておきたい」
キョウヤの作戦では、名古屋側から三重に上陸するルート中に化け物を倒す算段らしい。
「そもそもなんで名古屋からなの。真ん中は?」
「そこは海域が広すぎる。船で進む時間が長いのは非常にリスクだ」
「あー」
「ホルンの話によれば、それなりに建物があるとも聞いた。入り組んだところに入れるなら、もしかしたら水路でもある程度進めるかもしれない」
「かも、ね」
「何にしても、1度名古屋まで降りて確認しないといけませんね。旧市街なのでガスマスクを人数分集めないといけませんね」
「いや、名古屋は少人数でいいだろう。やる事はルートの確定と補給物資を隠すこと。下手に行軍して賊に襲われても面倒だ」
「じゃあ、他の連中はサボり?」
「他は他で、物資を集める為に少し北に行くかな。とはいえ爆薬は全く無いし、電撃は水中じゃ自爆に等しい」
「で?」
「物量ならやることは、とにかく槍刺しだと思ってる。まぁ1番コスパの良い案なだけで、他にも代案は用意するさ」
「それだけの人数でタコ殴りが出来れば、ですけどね」
キョウヤが背もたれに倒れて笑う。
「はは、無理だろうね」
「負け戦のつもり?」
「正直に言うと、決定打は無い。俺としては、ゼットの責任みたいな所があるからね。決め手になるとすれば、多分カリンの方さ」
「……そうかもね」
「せっかくだ。あいつらの修行も見に行こう。これ飲んだら」
そう言ってキョウヤは湯気の立つお茶を啜る。私も自分に出されたお茶を飲む。
「で、名古屋はいつ、誰が行くの」
「それは修行の成果の良い組。少なくとも俺とホルンは、北に行こう」
「私も?」
「君には是非、色々現実は見て欲しいからね」
相変わらず悪そうな顔をする。本当にカエデはこいつがかっこよく見えているんだろうか。そう見ようとしてみるが、やはりダメそうだ。




