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終末後遺症  作者: Anzsake
君のエピローグで、世界を終わらせてくれなかったから
35/79

ホルン:励まし

数十分前。

眠ったカリンを戦車に寝かす。キョウヤに手を伸ばす。


「……マフラーを」


「ダメ」


「……なんで?」


「これはまだダメ」


キョウヤは相変わらず悪そうに笑う。ハチとは違うタイプで嫌いだ。


「スミ、彼を見ていてやってくれ」


スミと呼ばれた、演説の時にキョウヤの後ろにたってた木偶の坊が来る。


「ごめんなさい。私にキョウヤは止められません」


「……あっそ」


「ですが、彼の安静は私が保証します」


敬語だけどどこか軽い。言葉の速さとかだろうか。


「さて、俺はこれから、例の奴隷を解放しに行く。ホルンも着いてきてくれ」


「……なんで私が」


「女性が欲しい」


「ミズキが居るじゃん」


「彼女より、君が適任だ」


本当にそうだろうか。カリンを止められなかった私が?


「……分かった。終わったら、ちゃんとマフラー返して」


「あぁ、約束するよ」


仕方なく立ち上がる。ミズキが少し離れたところで、ただ立っている。目線を逸らされ私も逃げるようにキョウヤに付いてく。なんて言おう。考えているようで、実質答えの決まったそれを見ないようにする。


「気持ちは分かるよ」


「……お節介」


「それでもさ。俺だって、抱いた女はゼロじゃない」


「それアルファに言うの、キモイよ」


「はは、君らアルファって、案外都合よくそれ、盾にするよね?実は気にってる?」


「……ラベリングされるから、仲間意識が作れると思ってた」


「つまり、共通の敵を探した俺たちと同じだ」


気に入らないけど、その通りだ。


「てか、君らでも男女の縺れなんてあるんだな」


「……そうなの、かな」


さっきの建物に着く。何も言わずにキョウヤが中に入っていく。それに続く。


「元精神病院ってとこかな」


「へぇ、そんな病院があったんだ」


「俺も通院経験は無いけど、抗不安剤なんかは、たまーに使ってる奴を見るぜ」


「……今あったら儲かるんじゃない?」


「はは。そいつは、みんな辛いんだって糾弾されてたな」


階段を降りて地下に行く。その子は変わらず階段の踊り場に居た。


「大丈夫?」


「うん」


「動ける?」


「うん」


ずっと立ち上がったその子が、階段を降りていく。黙ってついて行くと、破壊された扉を潜り、小さな部屋に入って座る。


キョウヤが黙って肩をすくめ、その子を担ぐ。何も言わない。


「1度外に出そう。吸血鬼でも無い限り、この夕方なら大丈夫だろう」


「……そうだね」


血なまぐさい。早く出たい。キョウヤが担いだ子を外に出した。降ろされてもぼーっとしている。


「俺は1人ずつ連れてくるから、ホルンは見ていてくれ。ある程度時間が経ったら、他の奴らも来る予定だ」


「分かった」


キョウヤが闇に消える。その子が私をじっと見る。


「私、ホルン。名前は?」


「吉村 楓」


そんな堅苦しい名前、久しぶりに聞いたな。


「そっか。カエデちゃんでいい?」


「……うん」


「カエデちゃんは、ここで何をしていたの?」


「働いてた」


「どんな仕事?」


「物を作ったり、動物を殺したり」


屠殺だろうか。血なまぐさいと思った臭いが、外に出ても消えなかったのは、この子の匂いだったのか。

キョウヤが1人、また1人と連れてくる。それぞれに名前があり、仕事は似たり寄ったりだった。


「本当にみんな、髪色が同じだ」


「そうですね」


「何食ってたか、聞いたかい?」


「普通の食事みたいですよ。でもやっぱり、餌ですよ。それ以外は食べた事ないって」


「なるほどね。色素変異が分かれば、俺も偏食しようかな」


「それ、この子達に対して……」


言い切る前に、キョウヤが被せてくる。


「無礼?そうかな?でもこの子らの髪色は綺麗だ」


そう言いながら、キョウヤは頭を掻きまた闇に消える。


「……カエデちゃん?」


カエデがこっちを見て、首を傾げる。そういえば、初めて会った時のミズキもこんな顔だったな。私も、こんな時期があったような気がする。


「その髪……」


なんて言えばいいだろう。なんて言えば、気持ちがちゃんと届くだろう。いつも分からなくて、喉に詰まったそれを吐き出せない。

カエデが自身の髪を触って、小さい口をさらにすぼめた。


「……痒い」


なぜだか少し、笑ってしまった。


「後で洗おっか。きっと、綺麗になるよ」


「……私、どうなるの?」


カエデが言う。その声は、とても不安そうだった。


「それはまだ決まってない。でも大丈夫」


そんな確証の無い。感情の乗らないテンプレートな励ましだけが、ぬるりと外に出た。

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