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終末後遺症  作者: Anzsake
君のエピローグで、世界を終わらせてくれなかったから
31/79

ホルン:怪物

その建物から、何人もの大人が逃げ出す。窓に板を張ってある、不気味な建物だった。

誰も出てこなくなったタイミングで建物の中に入った。灯りが消えていて暗い。ライトを付ける。


ぐちゃり。


そう聴こえた。音が反響しているのか、位置が掴めない。後ろのフェタが小さな声で話す。


「……ここ?」


「……多分」


少しだけ広いスペースは、恐らく病院の待合室だ。階段が上と下、それぞれに続いている。


「……私は下行くから、フェタは上探して」


フェタが小さく頷く。本当は、カリンにフェタを合わせたくない。特に、今恐れている事が本当なら尚更。申し訳ないけど、フェタがカリンを先に見つけたら、殺されてるかもしれない。


階段をゆっくり下る。踊り場に、薄紫色の髪色の子が座っていた。さっき見た子と同じ髪色だけど、別人だ。


「……どうしたの?」


「……わかんない」


その子は、下の階をじっと見ている。膝元に血が付いていた。


「怪我したの?」


首を横に振る。遅かった。


「……待ってて」


立ち上がって、階段を降りる。下の階に着いた。病院らしからぬ、少し無骨な廊下だった。なんのためにあるのか、鉄製の覗き窓付きの扉、それがほぼ全て、外側から破壊されている。


その中に、薄紫色の髪色の子がいた。


「……え?」


近寄る。息をしているが酷く怯えていた。慌てて廊下に出て、他の部屋も確認する。

薄紫色の髪色の子だ。廊下に出て他の部屋も確認する。

薄紫色の髪色の子だ。廊下に出て他の部屋も確認する。

薄紫色の髪色の子だ。廊下に出て他の部屋も確認する。


全員別人だ。顔も体も性別も違う。それなのに、髪色と服は全く同じだった。


この子達は、みんな同じものを食べている。全てが薄紫色だ。食べているのは1種類だけ。外の人達はこうじゃなかった。


ぐちゃり。


廊下の奥で鳴った。角を曲がった先。既に壁に血が見える。歩く。人の服が見えた。足だ。動いていない。

歩く。人の顔が見えた。死んでる。動かない。

歩く。人の死体が何体か転がっている。その中に、薄紫色の髪色が見えた。


「……カリン?」


死体の奥、動いているか分からない位ゆっくりと歩いている。

よく見る靴にズボン。腰に付いたワイヤーアンカー。シャツの上から、上半身を左側を中心に這うベルト。頭をグルグル巻にしたその布は、カリンのマフラーだ。その怪物に、左腕は無い。

振り返る。布で顔は見えない。尾骶部から伸びた、細長く黒いしっぽが、床を叩き付けた。


ぐちゃり。


「……カリン?」


カリンが小さく反応した。こちらを見る。本当に小さく、何か言った。


「カリン、こっちに来て?」


カリンがゆっくりと、こちらに歩く。しっぽを床に引きずる。

背中、廊下の方から足音が聴こえた。振り返って盾を構える。ライトが廊下と死体を照らす。1度立ち止まったそれが顔を出した。こちらもライトを当てる。キョウヤだ。


「はは、こりゃすごい。なるほど、そういう事か」


「……近寄らないで、この子、今混乱してるから」


「あぁ、隠さなくていい。カリンだろ?服を見れば分かる。装備はどうした?」


一瞬振り返る。そういえば、メイスも弓も持ってない。慌ててキョウヤに向き直るが、1歩も動いてない。


「ホルン、君なら、それを落ち着かせられるんだな?」


「……えぇ」


「良かった。なら頼む。無理なら俺が出る」


キョウヤが棒の先に刃物を取り付けた。カリンに向き直る。


「カリン?」


「……」


「……うん、おいで」


「……」


カリンを抱きしめる。冷たい。鼓動の感覚が伝わってくる。


「……い」


「……後で、ちゃんと謝ろ?」


「……さい」


ゆっくりと、布を外す。芯の無い布がカリンの顔から外れ、肩に乗る。ぼんやりと虚空を見ているカリンの目は、ミズキと同じ黄色だ。


もうひとつ、足音がした。慌てて布を掴んで、カリンに戻すけど遅かった。巻いた布から覗く片目が、私の後ろを見て見開かれる。呼吸が荒くなる。


振り返る。フェタだ。まだ手斧を持っている。


「フェタ!!逃げ……」


「……ゴニア!!」


カリンが過ぎる風。顔が見えなくなっても、しっぽが最後まで揺れながら視界から抜けていく。


カリンがフェタに突っ込む前に、キョウヤが槍になったそれでカリンを防ぐ。カリンのしっぽの追撃を、槍の柄で弾きながら後退する。


「フェタ!!良いから外に出ろ!」


キョウヤの指示に、尻もちを付いて怯えるフェタが逃げる。カリンが追おうとするのを、キョウヤが止める。


「君は一途だと思ってたが、案外面食いか?」


キョウヤの言葉が聞こえているのかいないのか。カリンが叫ぶ。


「ベゴニア!!待て!!」


「違うな。どうやら未練タラタラなだけか」


目で追えない。不規則に響く金属が弾く音と、小さな火花がキョウヤの周りを包む。キョウヤは槍で、そう思えば柄が曲がり鞭で、カリンの攻撃を防ぎ続けている。それでもキョウヤは少しずつ後ろに下がっている。


あの日、リズちゃんが消えた時。カリンを抱きしめたのは確かに、カリンを打ち負かしたベゴニアさんだった。私と目が合ったベゴニアさんは、待てのジェスチャーをした。


あれがどういう意味だったのか、まだ分からない。今の私じゃ、カリンを止められない。


キョウヤの隙を付いたカリンがキョウヤの裏に回り込む。キョウヤを無視して、しっぽを壁に叩き付けながら、カリンが高速で廊下の奥に消えた。


「……参ったな。彼、いつもあんな感じかい?」


「……いいえ、こんなに辛そうなのは、初めてです」


「そうか。君にかかってるよ。ホルン」


廊下の血溜まりに、カリンの武器がある。それを拾う。

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