ホルン:開戦
むさ苦しい男共の中に入って行くフェタを追うように、私も乱戦に入る。来た時に偽善者の釣り人達は20人ほどだったはずなのに、やけに争いが激しい。
飛んでくる攻撃を盾でいなす。片脚で軸を取りながら人の隙間を潜り抜ける。
カリンが行った方向とは違う。それでも、こいつがどう見えてるのか、私にはまだ分からない。
広い大通りを突き進む。向こうに少し大きな建物が見える。あれが本拠地だろうか。
空を飛ぶ人が見えた。それと一緒に長い紐のような物が暴れている。キョウヤだ。
フェタが裏路地に入る。私もそれに続く。人が居ない路地。真っ直ぐ先にフェタ。ナイフを取りだして前方に投擲する。フェタが振り返る。壁にぶつかり乱反射しながら進んだナイフは、フェタの右手の手斧に弾き落とされる。
……斧だ。ベゴニアさんと同じ。いや、ベゴニアさんのよりも2回りほど小さい。それでも。
「……何のつもり?」
「今、あんたを向かわせる訳にはいかなくなった」
「カリンって名前の?適合者なんでしょ?」
「見つけてどうするつもり?」
「私たちは、調べないといけないの。この世界の鍵かもしれない」
たち。そう言った。フェタに突っ込む。
「……やる気?」
間合いに入るギリギリで、フェタも突っ込む。振りかぶった斧を持つ手を左手で掴み、右腕に付けた大盾でフェタを殴る。大盾を地面に突いて更に蹴り。追加で殴る。
フェタがよろけて下がる。
「あんなに強気の癖に弱いね」
「……ッ、なんてもん振り回すんだよ」
「これくらい出来なきゃ、楽園じゃ最後まで行けなかったから」
続けて盾を前に向けて詰める。風、影でフェタの位置を予測する。狙って来るなら上か、又は。
盾の下から斧が見える。跳び上がって盾を押し付ける。感覚が無い。斧が後ろに飛んで行った。上から影。フェタが更に斧で振りかぶる。盾を離して後ろにステップ。
フェタが着地と同時に突っ込んでくる。腕から伸びたワイヤーを引き戻し、盾がフェタの後ろから迫る。
「は?」
フェタが盾に後ろからぶつかりよろめく。盾と私で挟み撃ちにし、左手でフェタの右腕を掴んで追撃を入れる。
尻もちを付いたフェタの斧を蹴り飛ばす。
「……強すぎでしょ」
「弱すぎじゃない?」
「私の手札が……これだけとでも?」
「さぁ?なんでも来なよ。ここで負けるようじゃ、私はカリンについて行けないから」
フェタが血唾を吐く。少し強く殴りすぎたかもしれない。
「……参った」
「あっそう」
乱戦の声が大きい。辛うじて聞き取れた降参を受けて1歩下がる。
「つまり、そいつはもっと強いって事ね……私が単騎で突っ込んだ所で、殺されるかもしれない」
「カリンは、人殺しは好きじゃない」
「適合者なのは否定しないんだ?」
「……何をする気?」
「帰って、ママに報告しないと」
「ママ?」
外の声が変わった。それまで奥に向かって進んでいた流れが、逆になっている。大通りに戻る。
「虫喰いだ!!虫喰いが出た!!」
そんな声が、奥の方から聴こえる。流れていく人間が多いが、そうじゃない人も居て、ぶつかり混乱している。
「虫喰いくらい殺せ!!」
誰かの声がする。それに誰かが反応する。
「無理だ!!強すぎる!」
「何本個体だ!?」
「ゼ、ゼロ本……!!」
路地裏に引き返し、座り込んでいるフェタを避けて走る。方角は奥の左手より。カリンが行った方向だ。後ろからフェタが付いてくる。
「来なくていい」
「断る」
「あんたが居ると、面倒になるかも」
「……」
少し広い道に出る。薄紫色の髪色の、ボロボロの服を着た子が1人、ゆっくりと歩いていた。その手には黄色いジャケットがある。カリンのだ。走ってその子に近寄る。
「そのジャケット、どうしたの!?」
「……受け取った」
「……なんて、言われた?」
「殺されたくない、なら、あっち行ってろって」
あぁ、不味い。不味い不味い。
「そのジャケット、私が貰っていい?」
「いいよ」
「……ありがとう」
ジャケットを受け取ってまた走る。




