ホルン:色々
バリケードにトラックが突っ込む。大きな音を立てて鉄板が崩れた。その穴に戦車を入れる。
相手も男ばかりだ。煙は上げていたが、襲来に驚いているらしい。
トラックからキョウヤが出てくる。腰に機械を提げていて、それから伸びたコードが右手にある長い棒に繋がっている。
「どうも皆さんこんにちは!我々偽善者の釣り人達です!」
相手が携帯していた武器を取り出して突っ込んできた。やましい事があるのは確定か。
いやどうだろう。閉鎖的なコミュニティで、部外者を追い払いたいだけかもしれない。とにかく私には、彼らが悪であると断定する理由が無さすぎる。本当に、今から彼らをぶっ飛ばすのか。
接近してきた2人を、キョウヤは棒で殴り飛ばす。
「楽しませてくれよ。パーティー」
キョウヤの持っている棒が、蛇腹のように小さく分離し、鞭のようにしなる。キョウヤの突撃と一緒に、トラックからぞろぞろと人が出てきて走り出した。カリンが戦車から乗り出す。
「カリン?」
「ん?」
なんて言えばいいだろ。呼び止めたのに出てこない。
「気をつけて」
「そっちこそ」
カリンが戦車から降りる。突っ込んだ本隊とは別、バリケード沿いに進み出した背中を見送る。
「……で、どうするんだ?」
「どうするって?」
「俺らも行くのか?あれに」
ちょっと目を離したら人が増えている。かなり乱戦だが、キョウヤが一方的に殴ってるのは見える。そういえば、あの子が居ない。何処だろう。
「……とりあえず降りよっか。ミズキ?」
ミズキが首を横に振る。
「置いてく事になるけど?」
「うぅ……」
暴動はこちらに飛んでこない。相手は飛び道具が無いのだろうか。さっきの演説で、キョウヤの後ろにいた置物みたいな人も参加している。務めて冷静そうで、それはそれで不気味だ。
「おっ、ここにいた」
ハチがトラックを覗きながら言う。そちらに行ってみると、例の子がいた。黒い髪にうっすらと赤が入っていて、装備はそれなりに良いものを持っている。屋根の着いた荷台に座ったままこちらを見ている。
髪色が違う人は珍しくない。終末後は食べ物とかで変わる人が居るのだと、ラジオで言っていた。
「お前もサボりか?」
例外の子はそっぽを向く。
「……好きにしなよ。別に、私に関わらなくてもいいから」
年齢は私より少し下くらいに見える。髪が短く揃えてあるので男の子かと思ったが、声的には女の子だ。
「俺らはちょっとな。これの意味がわかんねぇから、本当に殴り込みにいっていいのか分かんねぇんだ」
「無いよ」
その子はキッパリ言う。
「無いか」
「ゼット世代の常套手段だ。目的をひとつに絞る事で仲間とする。化け物退治の前にやっておかないと、本番で崩れるから」
「詳しいんだな」
「それくらい、分かるでしょ?」
「全然。俺らはアルファでも馬鹿な方だし」
この子が賢いのは認めるが、ハチと一緒にされるのは気に入らない。
「一緒にしないで」
「俺はハチ。あんたの名前は?」
「……フェタ」
「なんだ。意外と転名するタイプなんだな」
「……で、何?」
ハチが私を見てニヤつく。意味がわからないしウザイ。
「大変だよな。終末がじゃねぇよ?それは当たり前。せっかく自由なはずなのに、海峡が渡れねぇんじゃつまんねぇもんな。あんたはなんで西に行きたいんだ?」
「……帰るから」
「帰る?あぁ、なるほどな。分かるよ」
「分かるわけ無いだろ!!」
フェタが立ち上がって怒鳴る。間に挟まる外の喧騒で、少しだけトラックが揺れる。
「おっと、それはごめん。みんな同じだと思ってたからよ」
ハチが平謝りしながら荷台の端に座る。こいつのこういうふてぶてしさは、少しだけすごいと思う。少なくとも、ほか3人ではこうはいかない。
「離れた家族が居るのか?」
ミズキが小さく反応した。
「……あぁ、海峡が出来てからね」
「出来てから?つまりは、渡ったのか?」
「調査でね。はぐれて私は1人だけ東に流されたんだ」
「調査?確かキョウヤが京都がどうこう言ってたな。それか?つまり」
フェタはこちらを見ず答える。
「そう。私がキョウヤに情報を渡して、あいつがその気になってる。だから私だけ、例外に参加してる」
キョウヤがアルファに固執する理由のひとつなのか、それとも固執しているから例外なのか。
「だから、私と同じ事してたら、もしかして陸鰭には参加出来ないかも……」
顔を上げてこっちを見たフェタが目を見開いて黙る。立ち上がって迫ってきた。
私を通り越し、後ろのミズキの肩を掴む。驚いたミズキが唖然としながらアワアワ言う。そんなミズキの顔を、フェタはじっくりと観察している。
「ちょっと、あん……」
「……お前、適合者か?」
ミズキは驚いているのか、上手く反応出来てない。割って入る。
「……何のつもり?」
「あれだけ瞳が綺麗な黄色になるのは適合者しか居ない。髪もうっすら黄色いな」
フェタを睨む。背丈は私とほぼ同じだけど、威圧感が強い。
「京都の方でも居るのか?」
ハチが気にせず質問する。フェタは返事をしない。
「ミズキやカリンがどう見えてるのか、知ってるのか?」
「……2人、居るのか?」
前言撤回。ハチはいつも余計なことしか言わない。フェタが周囲を見渡す。
「……確かもう一人、居たな。何処だ?」
「言わない」
「……」
フェタがミズキから手を離して走り出した。最悪だ。戦車に戻り装甲に取り付けていた大盾を外す。
「ハチ!ミズキと戦車守ってて!!」
「お、おう……追うのか!?」
「カリンに何をするつもりか……確かめる」
少しずつ音が離れていた暴動に走り出すフェタを追いかける。
■食肉と色素変異
終末における食肉事情は、旧時代のものとは別物になっている。虫により畜産業は復興せず、狩猟、漁業が一般的だ。
また、大規模な地形変化による化学物質の浸透や生態系の変容により、動物が体内に蓄積する成分も変化しているとされており、偏った食性によっては髪色等が変化する。
虫食は可能だが、狩猟難度に対し脂質が少ない。人を食べた虫の肉は独特な臭いがする。感染症の危険があるので食べない事。




