ホルン:悪党
木しか無い自然の中の、今にも消えそうなアスファルトの道を進む。流石に速度は乗ってきたが、それでも明確に遅い。
荷物を積んでる時と同じだが、今回は理由が違う。
「もっと速度出ないの?」
やっぱり言われた。
「重いんですけど?」
「いや、普通戦車は関係なく走るでしょ」
「あんたの戦車の普通なんて知らないよ」
渋い顔をするキョウヤに、ハチが振り向く。
「こいつ、普通の自走砲じゃないんですよ。エンジンも電気駆動のオリジナルで、俺らの想像する戦車では無いんですよね」
「へぇ、そういう事」
キョウヤも詳しい口なのか。他の奴らに降りるよう指示する。3人降りて、いつもの4人とキョウヤの計5人。
「……あんたは降りてくれない訳?」
「え?」
「は?」
普段通りの速度にはなったと思うが、シンプルに別の所に行って欲しい。
「ま、俺は次世代を護る大義がある。少しうるさい護衛位に考えてくれ」
「要らない」
それ以上何も言ってないのに、キョウヤはカリンを見る。1番重武装だからだろうか。
「そういえばさっき"楽園からの天使様"って言われてたね」
「えっと……」
カリンが口篭る。フォローを入れる。
「少なくとも彼一人で虫喰いも殺せる。あんたはもう一人の例外って子を護ったら?」
「すごいね。はは、そうかもしれない。けどもうひとつ、概要を話して無かったと思ってね」
「概要?」
「これからぶっ飛ばす悪党の話」
「ぶっ飛ばす?」
キョウヤがカリンを見る。
「対人戦闘の経験は?」
「……まぁ」
「恐らくこれまでは殺してただろうけど、今回は出来るだけ殺さないで欲しい。難しいお願いですまない」
「い、いえ……」
「なんで殺したらダメなんだ?」
「必要悪ってやつさ、知ってる?人が増えて集落となると、どうしても隣人への不満は出てくる」
「話し合って解決すればいいじゃねぇか。そのヒツヨウアクってのとなんの関係があるんだよ」
「解決出来るならするさ。でも集落ってのはルールがある。全員の幸福を保証するルールじゃない」
言いたいことは分かる。市場があるのに欲しい物が無い人達があれだけ居る現状がそうだ。
「でも、特別争ってなかったろ?」
「そうだな」
「それは、俺たち人類には今、虫や虫喰いという脅威があるし、パンデミックという理由がある」
「そうだね」
「それだけじゃダメになってきたって事。少なくとも俺たち偽善者の釣り人達は」
つまり、虫喰い単騎なら殺せて当然という事だろうか。それなら、少なくともハチとミズキは無理だろうな。
「で?それが殺さない理由とどう繋がる訳?」
「悪が消えれば、次は隣人を憎めるようになる。その次が俺で無い保証ができないってだけさ」
キョウヤが空を見上げて笑う。と思えば、突然カリンに顔を寄せた。
「君、何故夏なのにマフラーをしているんだい?」
「えっと……」
カリンの代わりにハチが言う。
「秘密だとさ。でもただのマフラーじゃねぇよ。マフラーが武器になるんだ。しかもそれで虫喰いが殺せる」
「へぇ……それは、楽園の武器なのかい?」
「……別に」
「それがどう動くのか、今見せてくれたりは?」
カリンは黙って、キョウヤから目線を逸らした。
「なるほど。では最後に。戦場でそれを使う気は?」
「……出来るだけ、使わないつもり」
キョウヤは小さく笑ってカリンから顔を離す。
「そっか。OK。ではカリン、君は僕らとは別行動にしよう」
「……別?」
「あぁ、俺たち本隊は悪党叩きを軸にするから、君は囚われてるアルファを助けてやって欲しい。君がそれを見られても良い仲間のみ連れて行ってくれ」
キョウヤは、演説の時に見せた悪い顔をする。
「相手は人間だ。見られてまずいなら殺せ」
運転をしながら首を突っ込む。
「さっきと話が違うけど?」
「カリンは別だと言っただろ?いいかい。ここ10年。いやもっと前からかもしれない。そんなまさかが何度あった?少なくとも俺は、君のそのマフラーがどんなおっかなびっくりな品物だろうと、排斥する気は毛頭無い」
「……そう」
木々が開き、建物の残る平野が見えた。バリケードを張った場所がある。
「……奴隷って、本当なの?」
「アルファを集めてる。そのアルファを見ない事は事実だ。もしかしたら中で殺してるかもしれないし、もっと酷いかもしれない。逆かも」
「逆?」
「……とにかく、俺たちは正義ごっこだ。欲しいのは資材と統率。楽しもうぜ、パーティー」
キョウヤが立ち上がり、手を額にかざして戦車から飛び降りた。後ろを走るトラックに飛び乗る。
多分、私たち4人ならば、マフラーを使うと思ったのだろう。残念な事に、キョウヤが思うほど、この4人は長い付き合いじゃない。
「……俺、不安になってきた」
「カリン、どうする?」
「……1人でいい。やってみる」
「……そう、お願いね」
私たちの戦車をトラックが追い抜いて、すごい速度で走り抜けた。後部の男の集団の中に、うっすら髪の赤い人が見える。例外、アルファの子だ。
トラックから色の付いた煙弾が飛んだ。奇襲する気は無いらしい。




