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終末後遺症  作者: Anzsake
君のエピローグで、世界を終わらせてくれなかったから
26/79

ホルン:偽善者

昼、キョウヤに指定された山間の道を進む。歩いている人がこちらを振り向き、不思議そうな目で見てくる。それを軽々追い越す。


「いやぁ、寝る場所確保出来て良かったな!」


「まぁ、そうね」


部屋に入れた時、ハチは随分と楽しそうだったが、着いてすぐに寝た。

シャワーが出る建物はかなりレアだったから、正直私の方が静かにはしゃいだかもしれない。


木々を抜けると広い場所に出た。トラックが3台。人は20人程。台の上にキョウヤともう一人。こちらを見てキョウヤが手を振る。無視する。


戦車を止めて降りる。私とミズキは特に武装はしない。ハチはエアライフル。

荷台から降りたカリンから重そうな音が鳴る。変わらない体幹補助ベルトにジャケット。メイスにマフラー。追加で背中にコンパウンドボウと小型矢筒。


「……カリン」


「何?」


「どう矢を番えるんだ?」


「秘密」


戦車からカリンへ視線が集まっていく。早速絡まれる。


「戦車?お前ら、楽園から来たの?」


「楽園?」


「東京」


いちいち名前を言い換えるのは、ゼット世代の嫌な所だ。こいつらはそんなに沢山名前を付けて意思疎通が出来るんだろうか。


「……このふたりのジャケット。楽園の回収員のじゃね?」


「そうなのか?」


「写真で見た感じそうだぜ。くすんだ黄色のジャケット。流通してんの?」


「馬鹿言え、天使様がわざわざ出てこないって。負い目しかねぇのに」


下瞼が上がってしまう。鬱陶しい。体重差はあるが、張り倒せるだろうか。カリンが割って入る。


「あぁ、悪かったよ。でも、お前らが天使様なら知ってるだろ?今富士周辺がどうなってるか」


「……あぁ、分かってる」


「ま、アルファに言っても……」


男の言葉が詰まる。


「……兄ちゃん。腕は?」


「無い」


「……そう、か。え、大丈夫か?」


「別に、今やり合う?」


「いやいや違う。そうか……大変だったな」


いきなり可哀想な目で見てくる。私の事じゃないのに、酷く腹立たしい。カリンは表情を変えない。


「みんな集まったかな?」


キョウヤが声を張る。それに皆が視線を向ける。ゾロゾロとキョウヤの方に集まるので、私達もそうする。

殆ど、いや、ほぼ全員大人だ。1人だけ、歳の近そうな男の子が混じっている。あれが例外か。声をかけてみたかったけど、そんな余裕は無さそうだ。


皆、武器だけは立派だ。けれど、暇そうだった。何となく集まり、何となく待っている。海峡攻略なんて大層な名前の割に、空気はそこらのもの拾いと大差ない。


「さて、みんな集まってくれてありがとう。前置きは要らないかな。まずは今回の目的、海峡の化け物である陸鰭の話をしよう」


手振りを入れながら、キョウヤが台の上で話し出す。隣に立ってる男は置物みたいに何もしない。


「みんなも知っての通り、4年ほど前に琵琶湖を中心として大きな陸の断裂が起きた。敦賀、名古屋、大阪が飲み込まれ、その海峡に化け物が蔓延った。おかげで船路は壊滅だ」


こういう時はちゃんと名前使うんだ。意味わからん。ハチが面倒くさそうな顔をする。


「……立って聞かなきゃだめか?これ」


「知らないよ。座れば?」


「2ヶ月前。海峡の向こうの旧市街が、大阪海峡の化け物退治を計画していると情報が入った。みんなラジオは好きか?残念ながら、未だに報告は入っていない。それなら、俺たちが先に海峡を抜けてやろうじゃないか!!」


キョウヤがさらに声を張って、呼応するように色んな奴が声を出す。統一感はまるでない。私たちもしない。

それでも、少しずつ場の空気が変わっていく。暇そうにしていた大人達が、急に子供みたいな顔をし始めた。


「目指すは名古屋海峡。そこを切り開き、孤島となった関西南部を探検したくはないか!!?」


呼応する声が増える。ハチがそれに乗っかる。


「いいね!!盛り上がってくれる人ありがとう!!その為には準備が必要だ。物資、陸路。何より俺たちの統率」


「……まだしてないのか」


「楽しくなってきたな。何するんだろうな」


「そこで!近隣で身寄りの無いアルファを集めて奴隷として働かせていると噂される悪い連中が居る場所がある。何がしたいかは知らないが、若い世代を無下に扱い、自身の利益だけを求める悪党は、当然見過ごせないよなぁ!!?」


歓声は強くなる。ちらほらとこちらを見る人が居るが、何故か熱気は高い。

誰かを殴る理由が欲しいのか。探検がしたいのか。善人で居たいのか。多分、全部だ。何でもいいのかもしれない。


「俺たちは皆平等に、辛い思いをしてきたはずだ!!無くした人の顔は一生忘れられないだろう!それなのに、何も学ばずエゴイズムを貫く馬鹿野郎が同じゼット世代だってよ!!折角だ!正義ごっこと行こうじゃないか!!不当な扱いを受けるアルファを救い、物資をせしめ、俺たちの絆を深めよう!!俺らは偽善者だ!それでいい!!人のために化け物を釣ろうぜ!!」


歓声の中、キョウヤが台から飛び降りる。それを皮切りに、集団が動き出した。3台のトラックに乗った運転手が、次々と人を乗せていく。本当に即席集団なのか?


「今名付けよう!!俺たちはヒポクリト・アングラーズだ!!さぁ、楽しもうぜパーティー!!」


戦車に乗り込む。ミズキが助手席に乗る。討伐隊の男が集まってくる。


「………はぁ、はい。乗って」


「やったぜ!!」


「マジで戦車じゃん!すげぇな姉ちゃん!!」


「おじゃまー」


しれっと、キョウヤも乗った。荷台の真ん中に陣取っている。後ろの置物人間は居ない。全員合わせて8人。


「なんでこんな乗ってんの?トラックの方が広いじゃん!?」


「あっちには武装等を入れててね。あまりスペースは無いんだ」


男臭い。とにかくはしゃいでいてうるさい。


「それに、君らで言うところの、ロマンってやつかな?」


「……はぁ、あっそ」


悪党を潰すだけでこんなに盛り上がる理由がさっぱり分からない。ミズキはキョドるしカリンはポカンとしてる。ハチは流されて楽しそうだ。


「さぁ!先陣を切るんだホルン!!」


「はいはい。道案内してね」


アクセルが重い。多分いつもの2/3くらいのスピードしか出てない。来るんじゃなかった。

■楽園

東の旧市街である東京を指す俗語。東京奪還の噂とともに、半籠城をしているコミュニティを揶揄するのに用いられる。

様々な情報と、虫や化け物から東京を取り返したという輝かしい功績の代償に、富士周辺の資材を大量に消費してしまい、英雄の土地にもかかわらず、現在も富士周辺は新規コミュニティは設立していない。

実際に足を踏み入れた人の話は多く、理想郷だと評価する声や写真も複数存在する。

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